43話「接触5秒前」
月夜に照らされながら熱唱する女の子。
周りを気にせず歌い続ける姿に思わずたじろいでしまう。
「これ、声かけにくくないか?」
「普通に声、かけたらいいじゃん。」
「ポテチ、お前に言っただろ?テリトリーに急に入って声かけたら警戒されるって。」
「そうだな。確実に警戒されるな。あんなに一生懸命に歌ってるんだし。」
「そーかぁ。ならどうする?」
1.音を立てて注意を引く。
→警戒心も煽るので却下
2.この曲を歌い終えるまで待つ。
→候補に入る。
3.メガホンでこちらも歌う
→反応が相手の性格次第なので却下
4.歌い終わる頃に拍手をする。
→3人でやればいけるか?
「それよりさ……」
5の案を出そうとするとポテチが指を指す。
「スピーカーの横にもう一本マイクがあるだろ?それでデュエットしてみようぜ。」
「やめとけ。」
コーラと2人で首を横に振り、とめる。
「というより、今声をかけたら、恥ずかしがりそうなんだよな。」
「俺もそう思う。」
「下手だからか?」
「滅多な事を言うなよ!」
コーラが珍しくポテチを叱る。
「気持ち良く歌ってる訳じゃないから、練習してるんだよ。良い事じゃないか。」
「遭難者を見習え。せめてこういう言い方にしろよ。」
「練習してるとは限らないだろ。」
ポテチがイマイチ理解していないので、“ふうっ”とため息をつき、お手上げのポーズをして話す。
「静かな夜……。人がいない海岸……。声がよく響くロケーション。そんな中で歌ったら、お前なら悦に入るだろ?」
「入る。」
「楽しいって思うだろ?」
「思う。」
「今歌ってるあの子は楽しそうにしてるか?」
「してない。」
「この状況で声掛けたらどうなる?」
「恥ずかしがる。」
「まあ、そういうことだ。マイクは絶対とるなよ!」
とコーラが厳重注意する。
「えっ?取りそうだったの?」
そう言うと、コーラは大きく頷いた。
「いや、よく知ってる曲だしさ。」
「知ってる曲であっても、知ってる人じゃないだろ。」
「クラスメイトじゃん。いけるだろ。」
いけない、いけない。と2人で顔の前で両手を小刻みに振った。
「しばらく待とう。もしかしたら途中であの子が気付くかもしれないしな。」
一旦座って待つ事にする。
ポテチは足をぶらつかせたり、一緒に歌うような素振りを見せる。
かなり落ち着きがない。
「お前、この曲好きなのか?」
「いつも必ず歌ってるんだ。」
「ああ、この前俺が歌おうとしたら、マイクを奪われた。」
「俺が歌うってわかってて入れるからだろ!」
仲のよろしいことで……。
割と会話を弾ませながら待っていると、曲が終わったようだ。
そろそろかなと立ち上がろうとすると、女の子は軽く水を飲み、「ん、ん」と小さく声を出した。
そこから本格的に発声練習を始める。
“あっ、まずい”とコーラと共に足が止まるが、ポテチは近づこうとする。
2人で腕を伸ばし、シャツの襟を掴もうとする。
しかし、襟がない!
その事に気付き、慌ててポテチの腕を掴んだ。
「どうしたよ、曲が終わったんだ。行こうぜ!」
「まずい、俺たちほぼ服着てない!」
今になって気付いたのたが、着ている服はポテチ袋で作られている。
見た目は問題はない。
かといって、女の子一人に対して話かける格好でもなかった。
「そういや、そうだな。血相変えるからどうしたのかと思ったよ。」
「やけに呑気だなお前。」
「取りに帰ればいいだけだろ。服も乾いてるだろうし、むしろ気付いてよかったじゃないか。」
確かにそうだなと言いながら、一旦戻る。
制服の乾き具合を確かめるとすっかり乾いているようだ。
「よし、これならいいだろ。」
3人とも着替えを終える。
ポテチはサンダルのままだったが、別にいいだろうということで、靴は履き替えずに戻ることにする。
「あっ、また歌い出した」
「今度はまた曲調が違うな」
ふと海を眺めると、なんだかしっくりきた。
移動をやめ、少し離れた場所から曲を聴く。
「おいおい、なんで途中で止まるんだよ」
「今の雰囲気にマッチしてるって思ってな」
どうやらコーラも、自分と同じ反応だったようだ。
「海の音がちょうどいいな」
「ああ。そうだな」
「そんなこと言ってると、タイミング逃すぞ」
どちらかというとのんびり派のポテチが、珍しく急かすようなことを言う。
「この曲は好みじゃないか?」
「好きな曲ではあるよ。たださ……。雰囲気出てるな。」
BGMを聴くかの様にしばらく海を眺めた。
曲が終わるとポテチが我に帰る。
「ほらっ!言った通りだろ。」
気付けば次の曲が始まった。
「逆に考えろ。連続で歌えば疲れるし、今の俺たちみたいに休憩するかもしれないだろ?」
とコーラが諭す。
「のんびり行こうぜ。どうやって話かけるか、まだ決めたわけではないしな。」
「歌の終わりで拍手するんだろ?」
……本決まりじゃないんだよな。
実際こういう状況では何が正解か分かりにくい。
男三人から一人の女の子が話しかけられる。
なんてのは、なかなかに恐怖のはずだ。
「……こんな時は、どうしたらいいか詳しい人にきけたらいいのにな。」
「おお、そうしてみよう。」
ポテチが反応し、何やら調べているような素振りをみせる。
しばらくすると、
「駄目だ。警戒される。」
「だな。やっぱり休憩するまで待った方がいい。」
「……そうか、どう声をかけたらいいだろうか。」
“うーん”といいながら、考え始める。
「あの子の方が気付くってのが一番だけどな。」
「音より目で確認するポテチが良さそうだ。」
やはりそうか……。
「できれば印象は悪くしたくないな。予測してみよう。暗い所と明るい所、どちらから近づく?」
「まあ、明るい所だな。」
「じゃあ、気付いてもらってからは? 気付いたらすぐ声をかけるか、ある程度近づいてから声をかけるか。それとも、手を振るなどして、間違いなく気付いたと確認してから声をかけるか。」
「間違いなく気付いてから、声をかけるのがいいだろうな。」
「タイミングはどうするんだ?」
ポテチが待ちきれない様子で聞いてくる。
「そうだな。あまり長く待たせると、お前が何かやらかしそうだ。この曲が終わったら、明るい場所からゆっくり近づいてみよう。」
明るい場所に移動しつつ、曲が終わるのを待つ。
その間、ずっとマイクを狙っているポテチ……。
お前、勝手に使ったりするなよ?
曲が終わる。
三人でコクンと頷く。
女の子と対面するため、ついに動き出す。




