42話 「歌がきこえる」
砂糖をさらに良い物にするべく、湯に溶かし、濾過し、煮詰め、固め、分離させる作業を終えた。
液体部分はラム酒にするそうで、ペットボトルに入れて保管している。
「さあ、取り出すぞ」
コーラが砂糖を見せるべく、表にだそうとすると、ポテチが袋を被せる。
「出来上がりは、やっぱりカウントしなきゃな」
「なら、さっさとしてくれ」
何故かせり上がっていくポテチ袋。
土台が上がるにつれ、袋の端が引っ張られていく。
「パン!」
大きな音を立て、中身の砂糖が姿を現す。
「もっと素直なやつにしてくれよ。どれどれ……さっきより綺麗だな」
先ほどよりも白くなった砂糖の塊は、確かに見事だった。
真っ白とまではいかないが、柔らかなクリーム色を帯びた白。
『そうだろ!』と、納得顔のポテチ。
いや、ほとんどコーラがやってただろ。
それにしても・・・
「量が多い。」
「そりゃあサトウキビ100本なら元が100キロはあるからな。そうなるさ。」
「3人で消費出来る量じゃないな。」
「まあ、保存はきくからな。」
あっても保管場所もあるし、問題はないので、それでいいじゃないかということになった。
砂糖は全てポテチ袋に入れ、密閉して保存する。
保管場所は、拠点の岩の近くにある壁の中だ。
片手間に準備した海水は、今も自然乾燥中だ。
明日には塩が出来上がるだろう。
「まさか水を取りに行って砂糖を手にするとはな。」
「動けば発見があるってことだな。」
とポテチがニカっと笑う。
「呑気なもんだな。だったら次は醤油と柑橘類をたのむ。柚子がいいな。」
「醤油は時間がかかるぞ。数ヶ月は無理だな。」
「いずれ欲しくなるからよろしく頼む。」
「残念。肝心の大豆がない。」
大豆の原種ならあるらしいが、数が少なく、品種改良には100年はかかるらしい。
「難しいものだな。」
「誰かに大豆を譲ってもらうってのが、一番の近道だけどな。」
「それなら醤油もらった方が早いだろ。」
作る前提で話していた自分とコーラに、ポテチが突っ込む。
「まあ、そうだな。」
「ちょっと待て、誰が持っているのか?」
「持ってはいないさ。ただお前も知ってるネット通販なら手に入るだろ。」
「なんだ、ビックリした。こんな短期間で作れる奴がいるのかと……。」
「現段階ではないみたいだぞ。」
……やり方次第なのか?
もしかしたら全員がアカシックレコードを使えるようになったらできるのかもな。
ポテチやコーラもアカシックレコードがあるからこそ機械仕掛けの道具を作れるのだろうし。
「そういえばさ、今他の連中は無人島生活は順調なのかな?」
「そうだな。お前のように生命の危険ってほどではないけど……。」
「どうかしたのか?」
「食に不満が出て来てるな。」
「食かあ。」
「かなりストレスがたまってるグループがいるな。」
「持ってきたやつじゃ対応できないのか。」
「誤算というか、目論見が外れたって感じだな。」
「そうか……。なんとかしてやりたいな。」
思わずぼそっと口から出たのだが、ポテチとコーラには聞こえていたらしい。2人は顔を見合わせて笑い出す。
「真っ先に遭難しといて瀕死だったのに」
「いや、まず人の心配するのかよ」
使ってもらうために選んだからな。そんなに笑われてもな。
「そんなにおかしいか? 直接助けないにしても、アカシックレコードがあればなんとかなるかもしれないだろ?」
「変化は十分起きるだろうな」
「俺たちもそうだったしな」
「でもな……」
2人は声を揃えて言う。
「人の心配しすぎだ」
「最初から、無人島生活をするならみんなに使ってもらおうと思って選んだ能力があるんだぞ?」
……なのに、今は使えない。
それは少し寂しいんだ。
「それはそうだけどな」
「やっぱり、使ってもらいたい気持ちはあるんだよ」
「ほら、そういうところだぞ」
「……何がだよ?」
「自分が使えないのを気にするより、他の連中が使えないことを心配してるだろ」
「俺だって……俺だってめちゃくちゃ使いてぇよ!」
頭を下げ、拳を震わせる。
2人はまたしても笑う。
「自分じゃ使えないんだ。なら、せめて誰かに使ってもらいたい。それくらい自然なことだと思うんだけどな。」
「お前の中じゃそうだろうけどさ。」
「なんとか存在を知ってもらえばいけると思うんだよ。会わずにやる方法はないかな?」
「なんで会わないんだ?」
ここで、ポテチは不思議そうに首を傾げる。
「そりゃ、全てが未知だし、いきなり他人の生活圏に踏み込んで警戒させるのも、得策とはいえないだろ?」
「それはそうだな。」
「えっー。そうかあ?」
「どうも、こんにちは。良かったらアカシックレコード使ってくださいって言ってきたら怖いだろ?」
「あー。そうかも。」
ようやくポテチもわかってくれたようだ。
「後はどうやって知ってもらうかだな」
そう言って2人を見ると、
「単純に拡声器で知らせるのは?」
と、コーラが提案した。
「いいんじゃないか?実際、連中にアカシックレコードって言って貰えればいいわけだしな。」
「なら、こんな形か?」
「他にもこれとかかな?」
試作品を作り始めると、ポテチとコーラは急に盛り上がり始めた。
ただただ巨大なメガホン。
ラッパのように広がったもの。
よく見かける拡声器を模したものまで、バリエーションは豊かだ。
「どれがどのくらい届くかは、作る前にはわかるよな?」
何故わざわざ作ってみるのかと尋ねると、
口の形や声の出し方でも変わるから、試すためらしい。
ということで、しばらく海に向かって声を出す。
日はいつの間にやら落ちていった。
「よし、試作品8号だ。」
改良を重ねるごとに音が響いていってる気がする。
2人が拡声器を作っては試す様子を、ただただ眺めていると、
「おい、お前も試してみろよ!」
「ああ。」
「ああっ、ってお前。アカシックレコードを知らせたいんだろ?さっき言ったけど、声の出し方でも届き方が違うんだから、練習しとけって!」
ほれっ、と拡声器を渡される。
やってみるかと思いながら、声を出す。
最初のうちはコーラから“もっとお腹から”とか“口の形を変えて”などと言われていたが、いつの間にやら何も言われなくなった。
あまり気にせずに声を出してると……。
「ふん、ふん、ふーん♪」
不意に、隣から鼻歌が聞こえた。
「なんで歌ってんだよ!」
「えっ?いや。」
「どうかしたか。」
少し離れた場所で拡声器を試していたコーラも戻ってくる。
「急にポテチが歌い始めてな。」
「違うんだよ!歌が聞こえたんだ。」
「歌?」
コーラは辺りを見渡し、耳もすませる。
「ほらっ、あっちの方角!」
「確かに誰かいるな。」
距離は5キロほど離れているらしいが、コーラが出す滑り台移動で近づくことにした。
「本当だ。誰かが歌っている……」
近づくにつれ、鮮明に歌が聞こえてくる。
人影が見える位置まで移動すると……。
高台の海岸に、マイクを手にした女の子がいた。
その歌声は、夜の海を越えて、こちらまで伸びやかに響いていた。




