4話 『初めての夜』
「よし、
まずは水を探そう」
立ち上がり、少し屈指をして準備をする。
とは言え、
歩き回る訳にはいかない。
欲しいのは、
長期的な水源。
だが、
まずは最低限だ。
朝露。
……まあ、
今が何時なのかすら分からない。
期待し過ぎるのは危険か。
今探すべきは三つ。
露が付きやすい葉。
湿った土。
日陰の多い場所。
これだ。
実を言うと、
サバイバル知識はほぼゼロだった。
簡易的な濾過装置が作れる、
という話は知っている。
でも、
作り方は知らない。
穴を掘って、
蒸発した水を集める方法も、
道具が必要だったはずだ。
茎へビニール袋を被せて一晩置けば、
水が取れる――
そんな話も聞いたことはある。
ただ、
どんな植物に使えるのかは知らない。
「……」
「まあ、
やれることからだな」
まずは葉っぱ。
初めて触れた時も、
みずみずしさは感じた。
場合によっては、
水を受ける皿代わりにもなるかもしれない。
近くの葉は、
どれも悪くない。
ただ、
集めるには少し小さそうだった。
ふと、
上を見上げる。
太陽は、
かなり上の方にあるように見えた。
……とはいえ、
太陽で時間を見る方法なんて知らない。
枝を使う、
という動作を見たことはある。
でも、
何を基準に判断するのかは分からなかった。
「……まあ、
太陽も現実とは違うって、
思っておこう」
半ば無理やり納得し、
歩き始める。
少し進むと、
木陰が深そうな場所を見つけた。
近寄ってみる。
……とはいえ、
思ったほどではない。
「まあ、
こんなものか」
マーキングするほどでもなさそうだ。
「……あっ、
そうだ」
枝を忘れていた。
大きな葉なら、
嫌でも目に入るだろう。
優先順位を、
“葉”から
“枝と土”へ切り替える。
そう決めて、
足元を中心に探し始めた。
……無いな。
あるにはある。
ただ、
お絵描きで使えるレベルだ。
欲しいのは、
もっと太い枝。
十センチ、
二十センチと掘ることを考えるなら、
ある程度の強度は欲しかった。
とはいえ――
乾いた枝が良いのか、
まだ新しい枝が良いのかも分からない。
出来れば、
指を傷付けたくはないんだよな……。
枝を削れば、
多少はマシになるだろう。
それでも、
普段通りに手を使うのは避けたい。
気付かない怪我って、
地味に精神へ来るんだ。
これが、
二、三時間で終わるならいい。
だが、
数日同じことを繰り返すなら、
最初に
“やってはいけないこと”
を決めておく必要がある。
真っ直ぐな枝を一本拾う。
……まあ、
とりあえずだ。
湿った土は無いだろうか。
足元を探し続ける。
下ばかり見ているからか、
地味に首がきつい。
気付けば、
空を見上げる時間が増えていた。
「ふぅっ……」
ここで、
一度息を吐く。
こんな時は、
「そろそろお茶でも飲んで、
菓子でもつまむか」
なんて言いながら、
一息つくんだろうな。
そんなことを考えてしまう。
……いかんいかん。
一度座り込み、
そのまま小休憩を取る。
自然と耳を澄ます。
少しだけ、
風を感じた。
……これは、
何を意味するんだろう。
そんなことを考えながら、
目を閉じる。
気付けば、
そのまま眠ってしまっていた。
目を覚ますと、
光の色が少し変わっていた。
……夕方?
思った以上に、
時間が過ぎている。
「やば……」
ほとんど、
何も進んでいない。
葉も、
集めていない。
水も、
見つかっていない。
試せることを、
まだ試してすらいなかった。
まだ、
すぐには暗くならないか……。
近くに落ちていた、
長めの枝を拾う。
湿った土を探そう。
葉をむしりながら、
周囲を歩く。
しばらくして、
少し湿り気のある土を見つけた。
土を掘るのは、
完全に日が落ちてからでもいい。
そう考え、
枝を突き立てる。
集めた葉も、
その近くへまとめて置いた。
「……まあ、
目印だ」
まだ、
日は沈んでいない。
本当は、
風除けになる場所も確保したかった。
だが、
それも夜になってからでいいか。
葉をむしりながら、
今度は
“掘る為の枝”
を探して歩く。
その最中だった。
茎の一つへ、
違和感を覚える。
「……樹液だ」
ぷっくりと浮かんだ樹液。
夕日を受けて、
妙に綺麗に見えた。
一瞬、
光明のようにすら感じる。
だが――
口に入れるのは、
避けるべきだろう。
それでも、
“水分を得られる可能性”
を感じられただけで、
少しだけ気持ちが軽くなった。
……そのはずなのに。
何故だかここへ来て、
急に迷い始める。
地形の変化や、
水場の気配を探した方が良いのではないか?
こんな、
“何となく出来そう”
程度の水確保を試すくらいなら、
歩き回った方が正解なのでは――。
明日も、
同じ状況から動き始めるならば、
疲労が溜まった状態の方が、
もっと厳しくなるんじゃないか……。
気付けば、
辺りは暗くなり始めていた。
風の無い場所へ――。
急いで、
湿った土を掘り返す。
三十センチほど掘ったところで、
集めた葉を中へ置いた。
更に、
目印代わりの枝を突き立てる。
本来なら、
穴だけ。
穴へ葉を入れる。
湿った土の上へ葉を置く。
葉の表側と裏側、
どちらが水滴を作りやすいか。
そういう比較もしたかった。
だが、
今はそこまで考えている余裕がない。
「せめて……だ」
とにかく、
葉を集める。
湿った土を覆うように、
次々と重ねていった。
……移動しよう。
「先に基地でも作っていたら、
動かなかったかもな」
壁になる場所はないだろうか。
今までとは違い、
視線が少しずつ遠くへ向く。
足元ばかり見ていたはずなのに、
気付かぬ内に、
奥を探すようになっていた。
気付けば、
初めて木へ触れるようになっていた。
単純に、
視界が悪くなっているからか。
それとも、
不安から来るものなのか。
木の近くは、
むしろ足を取られそうな気もする。
それでも、
何故だか手をついてしまう。
不意に、
足へ何かが触れる。
「……草か」
いくつか抜きながら進んでいるうちに、
これが、
座布団代わりになるんじゃないかと思い始める。
一番上へ敷けば、
少しはマシかもしれない。
足は止めず、
草を集めていった。
風を避けたいのか、
今度は木々の隙間ばかりが気になった。
少しでも風が弱い場所。
地面が乾いている場所。
そんなことを考えながら、
ゆっくり歩く。
一度立ち止まり、
目を閉じる。
風を感じる為のはずが、
“音の無い音”
を拾ってしまった。
血に、
何かが走る。
……急に、
目を閉じたくなくなった。
木が密集している場所につく。
……根も太い。
土は、
まあ固そうだ。
「ここにしたい」
一度草を置き、
今度は落ち葉を拾い集め始めた。
既に、
力は無かったが、
寝る準備くらいはしておきたい。
座布団サイズくらいは欲しい。
そんなことを考えながら、
追加の落ち葉と草を集めていく。
整えるという意識もない。
集めた葉へ腰を下ろし、
木へ背を預ける。
「一旦考えるのはよそう。」
初めての夜を迎える。
11話までは毎日18時更新予定です。
少しずつ無人島生活と能力の全貌が見えてくるので、楽しんでもらえたら嬉しいです。




