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3話 『僕が考えた最強のアカシックレコード』

目を覚ますと、

木漏れ日の感触があった。


「ん?」


見回すと、

草木が辺りを覆っている。


……無人島で、

海岸スタートじゃないのいいね。


そんな呑気な感覚が、

不思議と先に来た。


「さて、

どれどれ」


近くの葉へ触れてみる。


みずみずしい。


生命の息吹、

なんて言葉が頭をよぎった。


「――そうだ」


そこで、

自分の体へ視線を落とす。

現実を知る為だ。


……若い。

そんな気がする。


ただ、

肌を見るだけでは、


“十代”

という認識までは湧いてこない。


やっぱり、

鏡でもないと分からないか。


まあ、

いいや。


身体のことは、

ひとまず置いておくとして――


まずは状況だ。


周囲に、


人の気配はない。


……無人島だしな。


暑さは――ない。

寒さも感じない。


不思議に思い、

地面へ触れてみる。


感触はある。


ただ、

温度は?


と聞かれると、

よく分からなかった。


……温度を感じていない?


そう思い、

慌てて自分の身体へ触れる。


……良かった。

温かさは感じる。


となると、

周囲だけがおかしいのか、


それとも、

まだ心地よい程度の気候なだけなのか。


海の音も聞こえない。


潮の気配もないし――


結構大きな島なのかもしれない。


……全体像が知りたいな。


どちらへ進めばいいのか、

その判断材料にもなる。


それに――


教室にいた連中。


同じ島へ来たとは限らない。


とはいえ、

別々の島なら、

“クラス全員が使える”

アカシックレコードにした意味も薄いんだが……。


……いや。


そうだよ。


そう。


アカシックレコード!


現実世界では、


絶対お目にかかれない垂涎の存在!


ははっ……。


漫画でその存在を知った時、

ずっと妄想してたっけな。


“もし自分が触れられたら、

何を聞くだろう”

って。


色んな質問を考えた。


でも結局、

一番気になったのは、

別のことだったな。


人の主観を超えた存在。


触れてみたい。


そこから返ってくる言葉は、

どれほど美しいのだろう。


その一つ一つに、

心が満たされたりするのだろうか。


昔から。


そう、

昔から――


ずっと知りたかった。


……さあ。

そんな憧れと、

ついに対面できる。


深呼吸を一つ。


そして、

アカシックレコードの名を呼んだ。


「…………」


……何も起きない。


反応が、

無い。


「……まあ」

アカシックレコードだ。


ゲームのチュートリアルみたいに、

“ようこそ”

なんて始まる訳もないか。


ふむ。


思い出してみよう。


携帯で調べた言葉だったし、

自分の中へ落とし込み切れていなかったのかもしれない。


正式な言葉を、

一つずつ思い浮かべる。


接続制限なし。


閲覧制限なし。


使用回数制限なし。


場所・状況制限なし。


接続による代償なし。


整理機能付き。


実現・トレース補助。


接続媒体不要。


クラスメイト全員が使える、

アカシックレコード。


……うん。


状況制限なしなら、

思い浮かべるだけでも発動するはずだ。


それなのに――


何も起きない。


「いや、

起きないはずがない」

思わず、

声に出していた。


「接続制限――」


全て言った。


出し切った。


それでも。

……何も起きない。


なんでだ。


何故なの。


その瞬間、

急に汗と寒気が走った――。


……違和感を探そう。


まず、

カッコいいポーズを決めても駄目だ。


……いや、

試す価値はあるのか?


いや、

無いな。


まだ喉は渇いていないとはいえ、

冗談をやっている暇は無い。


探せ。


違和感を。


アカシックレコード。

“クラスメイト全員が使える”


「…………」


……クラスメイト?


“クラス全員”

じゃなくて?


そこで不意に、

彼女の言葉を思い出した。


「お前だけだったよ。

“人の為だけ”に、

持って行く物を選んだのは」


……めちゃくちゃ良い声で再生された。


いや、

今はそこじゃない。


“人の為だけ”

って言ってたよな。


……何故だろう。


普段なら、

こんなに鮮明に思い出したりしないのに。


“人の為だけ”

って言ったよね!?


わざわざ、

鮮明に思い出せるくらいには、

言ってたよね!?


「ってことは、

俺以外が使えるってことぉっ!?」


思わず叫ぶ。


もう、

こうなったら止まらない。


“もう一つ選んでいい”

そう言われて、

俺は何を言った?


「貴方からの好意を、

この私めに向けて頂きたい!」


……言った。


めちゃくちゃ通る声で、

キリッとした顔で言った。


馬鹿じゃん。


マジで馬鹿じゃん。


だったら、

真球生成一択だったじゃんよ!

世界に革命起こせたじゃん!



「はぁっ……」


そこでようやく、

力が抜けるように座り込んだ。


……いや、


確かにおかしかったんだ。


無意識に、

携帯を弄る仕草をしてしまう。


「教室にいた時、

携帯使えるなら、

水の確保方法くらい調べられるもんな……」


アカシックレコードを口にした時、

まだ足のゴムが消えていない机はあった。


ネット通販の彼も、

宣言した後に文字を書いていたし、

最後は手まで振っていた。


……つまり。


携帯で調べさせない為?


いや――


逆かもしれない。


あれは、

“補助として”

言葉を選ぶ時間をくれていただけ。


けれど――


強制執行は無いよ……。


まあ、

“やらかした人物”

扱いらしいし、


放り出されたのは仕方ない。


でもさ――


水くらい、

何とかして欲しかった。


「はぁっ……」


感情的になったおかげか、


色々吐き出して少し落ち着く。


……落ち着いた?


なんで?


水の確保方法すら、

分かってないのに?


助けてくれる人がいる保証だって無い。


そもそも、

まずい状況のはずなんだ。


なのに、

“まずい”

と感じ切れていない。



……まだ、

自分の中に

“大丈夫”

と思っている部分があるのだろうか……。


違う。

どこか、

他人事なんだ。


肌が。


耳が。


“危険”


だと判断するには、

心地悪さが足りていない。


気付け。

警戒してくれ。


水だ。

水の確保方法すら、

分かっていない。


まずい!


……いや、

まずいだろ。


一人だったら?


助からなかったら?


まずい。

まずい――。


「っ……!」

ようやく、

呼吸が浅くなる。


まずい。


まずい、

まずい、

まずい――。


とは言え、

焦るには、

まだ早い。


水は、

最悪朝露という手もある。


ただ、

危機を感じにくい状況だ。

緊張感だけは、

意識して持つ必要がある。


自分の服を、

朝露集めには使いたくないな……。


少しだけ幸いなのは、

制服のシャツが長袖だったことか。


……学ランなら、


一番良かったんだが。

半袖よりは、

随分マシだろう。


まさか、

初日からつまずくとはね。


出来れば、

体力を使わない方向で動きたい。


まずは――

情報収集かな。


体の力を抜き、

土へ身を預ける。


見上げた先では、

木々が静かに揺れていた。


……綺麗だな。


手の届く場所にあった枝を拾い、

地面へガリガリと擦り付ける。


「無人島生活、

始めますか」



こうして、

いつまで生き残れるかも分からない、

無人島生活が始まった。




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