36話 「予定にないことをしやがる その2」
「コーラ、俺がこの石灰ミルクを入れるからかき混ぜてくれ。」
「おう、わかった。ゆっくり入れろよ。」
「大丈夫、大丈夫。」
湯せんにかけたサトウキビの汁から、勢いよく湯気が立ち上り始めた。今が頃合いらしい。
「石灰ミルクか。そんな風に見えるな。」
「ここからが本番だから、まあ見とけ。」
コーラが目を配らせると、ポテチは頷き、投入する。
細くゆっくりと白い液体が流れる。
線を描く姿は、まるでこれからの変化を歓迎するかのようだった。
と言うのも、汁の中の濁り成分が一瞬でモロモロと固まり始めたからだ。
茶色い物体の塊が、鍋の対流に乗ってモコモコと湧き上がる。
鍋の変化を注視していると、フワッと焼き菓子のような甘い匂いが周囲に漂ってきた。さっきまでの青臭さが嘘のように消え去り、色合いは濁った緑から、透き通った黄金色に変わる。
「すっごい浮かんで来るな。」
「アクを石灰で固めてるんだ。」
しばらくするとポテチは投入をやめ、炭の準備をする。
「かなりの量があるな。」
「大体2キロだな。アクはとれたな。」
よし、と一気に粉状にした木炭を投入しようとする。
「えっ? それでいいのか? 濾過は?」
「木炭を混ぜてもアクは固まったままだから大丈夫だ。」
そう言うとポテチはドサっと一気に入れる。
「よし、遭難者。出番だぞ。ひたすらかき混ぜてくれ。」
「わかった。」
コーラからかき混ぜ棒を受け取ると、すぐに鍋から抵抗を受ける。
「重てえ。」
「ほらほら、どんどんかき混ぜろ。真っ黒に染めろよー。」
2人に急かされながら、必死に回す。
「これ、どれくらいかき混ぜるんだ?」
「大体100回位だな。」
「3分から5分ってことだぞ。」
にやにやしながら、様子を見られる。
「途中で代わるってプランは?」
「ないぞ。」
「ないな。」
身体全体を使っているから、暑くてたまらない。
気を紛らす為、目安である回数を数えながら完了の合図を待つ。
「意味がないのにかき混ぜ続けさせるとかはないよな?」
「大丈夫。そんなことをしたら台無しになるから。ポテチ、準備は出来たか?」
「おう、流し込んでくれ。」
かき混ぜなくて良いとのことで、ようやく手を止める。
すぐさま鍋を火から離し、用意した濾過器に通す。
すると、先程少しだけ見せていたあの黄金色の液体が流れ込んでいく。
「おおっ。」
とポテチが声を出す。
「これだけで成功した感があるな。」
「ふっ、まだまだだぞ2人とも。これから煮詰めて、さらに冷やせば完成だ。」
コーラはそう言いながら、抽出した黄金スープを鍋に入れ、サトウキビの搾りカスを火に焚べる。
燃え盛る火の中に鍋を置く。
「めちゃくちゃ燃える音がするぞ?」
「大丈夫だ。不純物がないから焦げ付かないぞ。2時間はこのままだ。」
立ち込める甘い匂いに体が少し軽くなった気がした。
ポテチもこの匂いに満足そうだったが、
「あっ、そうだ。コーラ、氷ってどの位ある?」
「ペットボトル1本分くらいだな。」
「もっと欲しいな。」
これくらい欲しいと、手で型を作りコーラに伝える。
「わかった。まあ準備はできるよ。」
「頼んだ。それなら今から洗濯をするか。」
「なんだ、ポテチ。今日はやけに積極的じゃないか。」
「ふふふっ、遭難者君。君に後で極上をプレゼントするよ。それにはまず、洗濯。それから風呂だとなお良い。」
「そういうことなら洗剤も用意しよう。ポテチ、服になるような袋を出してくれ。」
コーラは、おもむろに火を焚べている場所の灰を集め、バケツに汲んだお湯の中に入れてかき混ぜる。
「2、3分もすればこの上澄みが洗剤の代わりになる。まずは服をお湯ですすいで余計な砂や汚れを出そう。」
コーラはそう言うと、3人分のお湯が入ったバケツを用意する。
ポテチが着替え……とは言っても簡易的なものになるが、服を渡してくれる。
着ている服を脱ぎ、言われた通りバケツに入れてすすぐ。
これだけで結構な砂や汚れが落ちた。
「お湯だけでも汚れは落ちるな。バケツが思ったより濁ってる。」
「まあ、これはあくまで準備だけどな。ポテチ、袋を頼む。」
ポテチから3人分の袋を用意してもらうと、コーラから袋に入れるように指示があり、洗濯物を入れると先程の灰が入った水の上澄みを袋に入れる。
さらにポテチにその袋を閉じてもらう。
「よし、後は揉んだり、振ったりして馴染ませるんだ。」
「足で踏みつけた方が断然いいぞ? その為に空気も入れて閉じてるんだから。」
ポテチもなんだかんだで考えているんだなという話をしながら、足で洗濯袋を踏んでいく。
話を聞いてみると考えている訳でなく、行動を起こし続けることで最良の形に自然となるらしい。
「ほらっ、見ろ遭難者。どんどん汚れが落ちていくぞ!」
「白い袋だから、わからねえよ!」
「なに言ってるんだ? 遭難者。心の目でよく見ろよ。清らかな心を持っているならわかるだろ。」
「コーラまで悪ノリするなよ。そう思うなら透明な袋にしてくれよ。」
清らかな心は確かに持ち合わせてないなと思いつつ、バシュバシュと音を立てて踏み付け続ける。
「よし、もういいだろ。後はもう一度お湯ですすいで干したらいいな。」
干し終わり、風にそよぐ洗濯物を見る。
元々目立った汚れはなかったが、綺麗になった気もする。
「こうして白い生地がなびいてると心地がいいな。」
「まあ、そうだな。次はお待ちかねの風呂だ。」
4つに分けてお湯を沸かしていたが、温度は高温になっていたらしく、ペットボトルを浴槽型にして、水とお湯を加えて温度を調節する。
「アルミ缶風呂だとアルミが熱くなって入りにくいからちょうどいいな。遭難者、何度がいい?」
「急に言われても、何度のお湯に入るとか意識して入ってないからな。あったまる温度で。」
「俺もぬるめから温度を上げる方向で。」
「ポテチは自分でやれよ。まずは38度にするから、自分達で桶でお湯をすくって調節してくれ。」
それぞれが自分で堪能できるように、沸いているお湯のすぐ横に浴槽を作る。
もう入ってよいとのことで、まずは手で温度を確かめる。
「久しぶりのお湯の感触だな。」
次に桶でお湯をすくい、頭からかぶる。
「なんだ、頭から行く派か?」
「久しぶりだからなんとなくな。さっき出してくれたヘッドブラシ。もう一度だしてくれよ。」
コーラは3人分のヘッドブラシを作り、渡す。
早速、お湯をかぶりながら、頭皮を洗っていく。
「お湯の方が洗ってる感があって、気持ちがいいな。」
気分よく頭を洗い終え、目を開けると浴槽に変化が見えた。




