34話 「お前に悲しいお知らせがある。」
「おーい、休んでいる暇はないぞ。」
無事に竹の植え替えが終わったのだろう。
コーラから声がかかる。
言うまでもなく、目線は高くなっていた。
「なあ、次は木を探しに行くんだろ? 俺、いらなくないか?」
「どんなのがいいか、参考にしたいしな。」
コーラが目を逸らして言う。
「監督役は欲しいしな。」
ポテチも別方向を見て言う。
「絶対いらねえだろ。」
蚊帳の外にされるよりは当然いいのだが、もうすっかり、高所恐怖症と言っていいくらいにはなっていた。
「まあ、そう言うなよ。お前から見て良さそうな木はないか?」
「そうだな、杉とか花粉が多いのは勘弁して欲しい。それと、あれなんて個人的にはいいな。」
見栄えがいい、円錐形の樹形の木を候補にあげる。
「確かにいいが、目隠しと言うより鑑賞樹って感じだな。」
「周りに何もなくて、一本だけ置くならいいけどな。それより・・・。」
ポテチも賛同しながら、指をさす。
「あそこにある木々がいいんじゃないか?」
言われた方向に目を向けると、
竹よりもずっと高く、枝を大きく広げた木がある。
夏の街路樹を思わせるような、厚い葉の塊が頭上に広がっている。
「いいんじゃないか。落葉樹だから冬には葉が落ちるけど、夏は葉が多いし、かなり日陰になる。背も高い。」
「だろ?よし、早速行ってみよう。」
ポテチの掛け声で移動が開始される。
近場でいいはずなのに、何故だか竹と同じ位の距離を移動する。
もう、抗議する気すらおこらない。
「着いたぞ、ポテチ。何本あればいい?」
「そうだな。50m位の距離だから7本欲しいな。」
「わかった。隣接している木は避けて……っと。」
前回同様、瞬く間に木が掘り出される。
「さて、戻るとするか。」
「ちょっと待ってくれ。」
拠点に目を向けるコーラを呼び止める。
「そろそろさ、服を洗ったり、身体も綺麗にしたい。どうしても海水だけじゃ物足りない。」
周りを見渡すと川が見える。
「近くに川もあるし、行ってみないか?」
「まあ、そうだな。」
「身体を洗うなら、少し深い場所の方がいいな。」
「そうか、わかった。」
リクエスト通りの深さがある場所まで移動する。
「はあっ、ようやく髪が洗える。」
「まあ、待てよ!これを使ったらいい。」
コーラから、ペットボトルを器用に作った、ヘッドブラシを渡される。
「おお、突起の部分が柔らかくて、使い心地が良さそうだな。」
「俺もこれをやるよ!腰巻きに使うといい。」
早速、腰にポテチ袋を柔らかく加工した物を巻いて川に向かう。
「じゃあ、俺は先に木を植えて戻ってくるから先に洗っといとくれ。」
「ああ、ありがとう。」
まずは足先を川につける。
かなり冷たいが、早く身体を洗いたいという気持ちが勝つ。
「おおっ、冷てえ。」
少し身体を震わせながら、頭を川の水につける。
まずは髪に水を馴染ませる。
充分行き渡った所で、ヘッドブラシを頭に付ける。
「冷たいけど、気持ちええっ。」
川の流れは穏やかで、背中に当たる太陽の光も感じる。だけど、依然身体は震えていた。
ヘッドブラシをそのまま肩から順に洗う様に動かす。手でさするよりは洗った感はでてくる。
「ああ、駄目。もう無理。」
ひとしきり洗うと、体全体を水につけるのを諦めて川を出る。
衣服は洗うことは出来なかった。
「随分と震えているじゃないか。」
両手をつき、下を向いている時にコーラから声がかかる。
「ああ、思った以上に水が冷たくてな。そっちこそ早かったじゃないか。」
「植える木は元々他の樹木があったからな。差し込む程度で済んだよ。」
「そうか。」
「そんなことより、唇が紫になってるじゃないか。」
笑いを堪えながら言い放たれる。
不思議に思い、ポテチを見ると。
「服、着てやがる!」
こいつら、水が冷たくて入るのが難しいことをわかっていやがったな!?
「お前ら、騙しやがって!」
「人聞きが悪いぞ、遭難者。俺たちは何も言ってないし、誘導もしていない。」
「そうだぞ、ただ観察してただけだ。」
ポテチも堪えていた笑いを、解放するように吹き出す。
「ぐっ、確かに入りたいって言ったのは自分自身だけどよぉ。」
いそいそとしながら服を着る。
寒さが少し落ち着いた所で・・・。
「止めれただろうがよぉ!」
2人は大爆笑しやがった。
「はぁ、面白れっ。なあ遭難者。そんなお前に悲しいお知らせがある。聞くか?」
「なんだよ、コーラ。」
「お前、この周り。見覚えないか?」
辺りを見回すが、目立った物もないし、どの辺りだということも出来なかった。
「ないが、本当に悲しいお知らせな気がする。」
うん、うん。
と、コーラとポテチは同時にうなづく。
「ここはな、お前が降り立った場所から300m位の距離なんだ。」
「ま、まあ、そんなこともあるさ。はっはっ。」
急に乾いた笑いが出る。
「わかりやすくするとな。」
コーラに30m位の高さまで押し上げられながら、移動する。
「スタート地点がここなんだけどな。南以外の場所はいずれ水場に辿り着く地形になっているんだ。」
「スタート地点を見るに、その様だな。」
「それでだな。昼間でもあと200mでも動いていたら、川の音が聞こえてきたはずなんだ。」
「うん。」
「でな。」
と、ここでこちらをチラリとみる。
ショック度でも測っているのだろう。
もうすでにライフは0だぞ。
「夜に風よけの木に座っただろ?」
「ああ。」
「あそこな、木の逆側にいれば、深夜なら水の音が聞こえたはずなんだよ。」
「まさか・・・。」
「お前、俺たちにシンシンって音が聞こえたって言ってただろ?あの音に水の音が掻き消されてたんだよ。」
顔が真っ青になっていく気がした。
「休む場所が悪かった?」
「風よけにはなったぞ。」
ポテチが素直な顔で答える。
「それでな。朝移動する時もな、お前が進んだ道だけ、水も食べ物もなかったんだよ。」
「逆に凄いよな。」
首を振りながら、同情する様に肩に手を置く。
「ポテチが言う通りだな。しかも、遭難者。お前が南の海岸に辿り着くまで15キロ歩いてるからな。」
「知りたくなかった事実ばかりだな。」
「まあ、1人で生き残っても楽しくないし、逆に良かったんじゃないか?」
「そうだぞ。話はこれくらいにして、川の水を汲んで、贅沢に風呂にでも入ろうぜ。運ぶのは頼んだぞ、コーラ。」
「やれやれ仕方ないな。」
ポテチが言うように、悲しい事実は風呂に入って流してしまおう。
そう思いながら、俺たちは帰路についた。




