32話 「昨日とは違う朝」
「ふうっ。」
一息をつきならが、目を覚ます。
見上げる空は太陽が出る前で、明るくなりつつあった。
拠点を見渡すと寝る前とは変わった所はない様だ。
心が警戒しているのか、自然と寝床周りを手で探り、変化がないかを確かめていた。
「少し散歩でもするか。」
寝ている2人を起こさない様に静かに外に出ることにした。
「よし、まだ変わってないな。」
何がよしかは分からないが、拠点近くに変化がないことにまずは安堵する。
次は巨大な岩を確認する。
「上は見えないけど、明らかな違和感はないな。」
警戒するのはおかしいのだろうが、気付けば「拠点」「木」「岩」を探っていた。
昨日は振り回されすぎて、疑心暗鬼というか、気付けば防衛心が出てしまう。
……心をリセットしに行こう。
海に向かって歩くことにする。
静かな波の音、ゆっくりと明るくなる景色。
清々しい朝を迎えるには最適だった。
「落ち着くなあ」
昨日は思い返せばおかしな1日だった。
生活環境を整える日のはずが、思った以上に上手く行きすぎて地獄を見た・・・。
ふと、煙のにおいが鼻をかすめる。
のぞきにいくと、木炭はまだ微かに煙を上げている。
……いや、煙というより、まだ火が残っているのだろうか。
完成は、まだしていなさそうだった。
アトラクション用に作られた岩は昨日と変わらずそこにあった。
「そういえばあいつらが打ったロケット花火。何か壊してないだろうな。」
とは言っても材料はペットボトルやポテチ袋だ。
火薬があるわけではないから、焼け跡とか、傷跡とかは残りにくい。
証拠が残りにくいって本当に厄介だな。
気付けばまたしても2人がやらかしてないかを探ってしまう。
痕跡が、何もなさそうだったので砂浜に腰を下ろす。
「さて、今日はどうするか。」
クラスメイトを探すか、
それともこのままでいるか・・・。
今は、アカシックレコードを活用しているクラスメイトはほぼいない。この存在を広めた方がいいのか。
ただ、それならこの拠点から一度離れなければならない。
他のやつらがどうなっているかだけでも、2人に聞いてみるか……。
アカシックレコードが自分では使えないのは残念だが、使えないことで人に聞けたり、相談ができる。
何人かで行動するならこれもありなのかもな……。
使えていれば、一人で動いていただろうしな。
……いや、そもそも一人きりでスタートするわけじゃないか。
よく考えれば、豪華客船とネット通販の2人と同じ場所に降り立っていただろう。
その後は一人で動いていたかもしれないけど、最初は三人のはずなんだよな。
「あーっ、アカシックレコード使いたかったな。」
いまさらながら強くおもってしまう。ポテチやコーラを見ればわかる。
自分が欲しかった物が現実になっていることを。
アカシックレコードを使えたら、どんな感覚になるんだろう。
きっと、ものすごく満たされるんじゃないだろうか。
至福の時を過ごして、満足感と多幸感に包まれるんじゃないか。
そもそも、漫画でアカシックレコードという存在を知った時から、考えていた。
自分なら、これを使って何を聞くだろう。
あれも聞きたい。
これも知りたい。
いや、教えて欲しいんだ。
その返ってくる答えを聞いて、自分に何が芽生えるのかを知りたい。
ただ正しい答えが返ってくるだけなのか。
それとも、期待している――主観に頼らない、無機質に感じるのに、どこか美しい回答が返ってくるのか。
もし、本当に何の偏りもない言葉が返ってくるのなら――。
そこにあるのは、まさに叡智そのものなんじゃないだろうか。
そんなことを、昔から想像していた。
「……使ってみたかったなぁ」
……そういえば、こちらの意図まで汲み取って答えてくれるのかも、確かめたかったな。
折角の非現実なんだ。
ポテチやコーラみたいに、やりたいことを思いっきり堪能したいな。
「まあ、やり方次第ということでいいだろ。」
だったらなおのこと、島にいるだろうクラスメイトにもアカシックレコードの存在は知らせたいな。
気付けば立ち上がり、砂浜をうろうろしていた。
何をするでもなく、昨日のことを考えながら歩いていると――
視界の端に、見覚えのあるものが映った。
近づいてみると、昨日コーラとポテチが作っていたロボットの足だった。
「存在感が凄いな。」
朝日に照らされる姿はまるで、守り神とも感じとれた。
「まだこれ、消してなかったんだ?」
昨日はあれだけ色々作っていたから、てっきり片付けたものだと思っていた。
しゃがみ込み、改めて足を見上げる。
「……これだけでも結構デカいな。」
手を伸ばしても、ジャンプしても届かない。
少し離れて観察してみる。
おもむろに、腕を伸ばし、人差し指を立てる。
「うん、全体的にはこの位の高さになるかな?」
完成して、朝日や夕日を背にして立つ姿は、かなり格好いいだろうな。
初日こそ足だけしか作れなかったみたいだが、今は違う。どうすればダンボールロボが完成するかわかるだろうし、補助機能もある。
2人ならノリノリで作成に取り掛かってくれるだろう。
……それも今後の話次第か。
「おーい、遭難者。そこにいたのか!」
手を振りながら、ポテチがこちらへ呼びかけてくる。
「今から拠点の目隠しに使う木を取りに行くぞ!」
「ああ、わかった。」
「なんだよ?まだ朝だぞ。何黄昏てんだ。」
不思議そうにコーラから声を掛けられる。
「いや、ロボット出来上がったら格好いいだろうなってさ。そびえ立つだけで浪漫だよ。」
「ふうん、そうか。」
「シンボルに出来るから、完成系がみたいな。」
「わかったよ! 拠点を完成させたらやってみよう。ポテチも手伝ってくれ。」
コーラは肩をすくめ、仕方ないなとばかりに両手を軽く上げた。
「まあ、楽しそうだし、後でやろうぜ。」
2人の言葉に何故かとても期待してしまう。
昨日の古代遺跡出現演出も凄かったからだろうか。
またまじまじと朝日にかかる足に見入ってしまう。
「ほらっ、遭難者。行くぞ。」
どうやら、ロボから目を離すのに時間がかかったらしい。
コーラに腕を引っ張られ、移動を促される。
「おお、すまないな。」
ちらっとロボの足が目に入る。
……まあ、また今度だ。
少しだけ名残惜しく思いながら、目的地がある森へと進んでいく。




