30話 『ご馳走と悪戯はセットです』
「待て!」
コーラが手に取った扇風機を持つ腕を掴む。
「ん?なんだ。」
「なんだはこっちのセリフだ!俺が気絶してる間に何をした!」
「特に何もないぞ?」
掴まれてない方の手で紐を引っ張り、扇風機をこちらに向けて回す。
そこまで危険な風の強さではなかったが、事前に持たされた伊勢海老の身がぐんぐんと乾く。
「おい、やめろよ。」
「そんなに警戒するなよ。なあに、水分を飛ばした方が旨みがますんだぞ?」
「そうだぞ、せっかくのご馳走だ。美味しく食べようぜ。」
ポテチがなだめながら、塩を入れた皿を渡す。
「塩だけで美味いから食ってみろよ。」
……コーラが作った扇風機に危険を感じてやめろと言ったんだがな。
「……いただきます。」
伊勢海老を口に運ぶ。
噛むほどに、甘みと旨みが広がっていく。
「おいおい、塩つけてないぞ。」
そう言われたので、塩をつけて食べる。
「塩だけでこんなに美味さが変わるのか!」
もちろん調理の仕方もいいのだろう。しかし、海の恵みをしっかりと感じとった。
「1匹分はこのまま塩だな。もう1匹は焼いてる頭のミソをタレにして食べよう。時間がかかるから先に蛸だな。」
コーラはボックスから蛸を取り出し、足をぶつ切りにする。頭の部分は細く切る。
「味はついてるからそのまま食べれるぞ。」
「弾力はあるのに柔らかい。最高だな。」
「本当だ、うまいな。良かったな遭難者。ゴリゴリした甲斐があって。」
2人の反応を見て満足そうだったコーラも蛸を頬張る。
「うん、いい感じの冷却具合だ。これくらい締まると食感が断然いいな。」
伊勢海老が焼き上がるまで、蛸と伊勢海老の刺身を堪能する。
「よし、ミソもタレとして使えそうだ。ほら、刺身につけてみろよ。」
熱々のミソに刺身をくぐらせて食べてみる。
「ああ、旨い。濃厚って感じがするよ。」
ポテチとコーラも満足そうに食べる。
「焼いたミソが旨いなら、伊勢海老の姿焼きも旨いって期待してしまうな。」
「ああ、そうだな。」
「もうすぐ食べれるぞ。」
伊勢海老から焼けた香ばしい匂いが漂ってくる。
「わくわくする匂いだな。」
そう言うと、2人はうんうんと頷く。
しばらく火を見ていたコーラが、アルミをハサミに変化させ、それぞれに渡す。
「よし、もういいぞ、頭と胴体は豪快に切り離すといい。胴体の殻は腹の薄皮を切って身を剥がせばイッパツだ。残りの殻は網に戻して焼いてくれ。」
3人は思い思いに伊勢海老を頬張る。
穏やかな潮風と香ばしい匂いに包まれながら、
海の恵みを心ゆくまで味わった。
「ふうっ、食った食った。」
ポテチは後ろに両手をつき、上体を預ける。足をぶらぶらと揺らしながら、満足そうに空を見上げた。
伊勢海老の殻からする焼ける音が、パチパチからカラカラに変わる頃、ポテチはコーラの表情に気付く。
「どうした、コーラ。真剣な顔をして。」
「ん?ああ、うまく焼いた方がいい出汁がとれるからな。」
コーラが見極めるような表情になると、焼き上がった殻を海水の入った鍋へ移していく。
「ふうっ。」
と一息つくと、迷いなく網を中華鍋へ変える。
「これで、頭にある旨みも逃がさないぞ。」
そう言って、口元だけが少し緩んでいた。
「いや、凝りすぎだろ!そんなことをする位に料理好きだったのか?」
「いや、違うぞ。凝るのが楽しいと思っているだけだ。」
とポテチが答える。
「ああ、思い描いた物が出来上がるのは確かに楽しい。」
「真剣な顔して楽しそうな顔ってできるんだな。」
「たまにこんな顔もするぞ。」
鍋の中で充分加熱した後、全ての殻を鍋に入れる。
終始、鍋を見ているコーラ。
ポテチはずっとリラックスしていた。
そんな2人に声をかけづらかったので、1人で歯磨きをしに行く。
「もうそろそろ頃合いかな。」
「ならこの穴あきを使って、殻と出汁を分けろよ。」
「おう、ありがとう。」
「次はさ、濾過装置作ったから、これに入れろよ。」
「用意がいいな。」
「ちょうどあいつが戻ってくる。反応するかな?」
「するだろうな。」
何も知らずに戻ってくると、ドボドボという音が聞こえてくる。
「何してんだ?」
と、覗き込むとポテチ袋に出汁を入れている様だった。
出てくる出汁はとてもクリアだった。
「今度はポテチか!何をした。」
「何って濾過装置だぞ?コーラのことだ、また塩作りとかするかもなって思って作った。」
濾過装置を覗いてみる。
「お前、海にあるもので作ってないな?」
「あっちの方に行ったからな。」
と、森の方を指しながら言う。
そういえば、目が覚めた時にポテチは近くにいなかったな。
「お前達、じっとしてられないのか?」
「遭難者の反応が楽しくてな。」
「同時に言うな!」
こいつらは悪ふざけが好き過ぎるだろ。しかも、今のところ必要そうなものばかり作る。
始末が悪いったらありゃしない。
「さて、遭難者をからかうのはこれくらいにして、またしばらくは出汁を火にかけないとな。」
旨みたっぷりなのがよくわかる匂いが漂ってくる。
「あっ、そうだ。今暇だろ?ロケット花火。やってみないか?」
と、注射器の様な物を渡される。
「???」
不思議に思いながら、じっくり観察をする。
「注射器の先端、なんか灰色だな。」
「アルミを重し代わりにしてる。」
硬さを確認する為、指でピンピンと真ん中辺りをはねてみる。
「かなり硬い。」
「強度があった方が飛ぶからな。」
「そもそも何で注射器なんだ?」
「空気を入れられて、さらに引き抜けば飛ぶ仕組みだからな。」
「ふうん、ちなみに入っている水は海水か?」
「いや、蒸留水だ。」
ホントかよ?と疑いの目でさらに確認する。
「いいから、ほら空気を入れろよ。」
とポテチから催促され、空気を入れていく。
コーラは鍋をかき混ぜながら、
「まだまだ。」
ポテチもリラックスしながら、
「もう少し、もう少し。」
と声を出す。
「そろそろいいぞ。」
と、言われたがこっちは完全に警戒している。
「注射器のピストン引き抜けば飛ぶぞ!」
「ちょっと待て、お前達も近くに来いよ!」
そう言うと、2人は渋々近くに寄る。
「これでいいか?」
「よし、カウントダウンするぞ、指でシリンダーとピストンの間を挟んで一気に引けよ。」
「……わかった。」
「3」
うん、
「2」
しかし、
「1」
海水が
「0」
目に入るんだろうなと思いながら、一気に引き抜く。
バシューン!!!
豪快な音が静かな浜辺に炸裂した。
高圧で押し出された軌道が真っ白な霧となって、
たくましく前方の夜空へと飛んでいく。
「おおっ!」
「成功だ!見たか?遭難者。」
「おおおっ……目が痛え!」
申告上は蒸留水。しかし、被害を受けた目は全力で海水だと訴えていた。
「どうした?うずくまって。」
「海水が目に入って痛えんだよ!」
「海水?妙だな。」
とコーラがとぼける。
「おかしいな、俺たちはなんともないのに。」
とポテチもわざとらしく不思議そうに言う。
必死になって目を開ける。
「やっぱりゴーグルしてんじゃねえか!」
へへっ、と悪びれる様子もなく、2人は満足そうに笑っていた。
「こっちがうずくまっている間にそのゴーグル消せただろ!いい加減にしろ!!!」
俺の悲痛な叫びが、夜空にどこまでも虚しく響き渡った。




