29話 「遭難者が眠る頃」
「おーい、コーラ。」
「どうしたポテチ。」
「なんか、遭難者が世界にさよならしなくちゃ……だってさ。」
「なんだ、そりゃ……。あれま、気絶してるよ。」
「仰向けスタイルってそんなにキツいのかね?」
「さあな。絶叫系が苦手なのかもな。」
「そんなものか。最初みたいに、干からびたらいけないから袋をかけよう。」
ポテチは遭難者が日に当たらない様に袋を被せる。
「あれ? なんで二重にするんだ?」
「二重にすると外からの影響を受けないんだ。手袋もそうだぞ?」
「知らなかった。」
「遭難者には内緒な。」
「あいつ、いつ気付くかな?」
2人は砂を被ったまま眠る遭難者を見つめていた。
「あっ、そういえばさ。」
「なんだよポテチ。」
「浮島で渦潮に突入した時さ、なんでスピードアップじゃなくて、球体に変化させたんだ?」
「こいつが溺れ死ぬから。」
「えっ?そんなにやばかったのか?」
「そのままにしてたらの話だけどな。後は一度どんな反応するかも見たかったからな。」
「ただただ、キレてた。」
「こいつのいい所はキレてても、やってくれって言ったことはちゃんとやってくれるとこだな。」
「必死に空気を入れてた。」
「渦潮突破方法はあれだけじゃなかったけどな。」
「へぇ、どんな方法を考えてたんだ?」
「プロペラを仕込む方法と、パチンコ式だな。」
「パチンコ?」
「まあ、どちらも渦潮の力を利用する感じだな。
パチンコはそのまんま、古代遺跡にペットボトルを引っ付かせて、浮島に戻せば反動でバァーンさ。」
「面白そうじゃん。」
「反動やばくて、遭難者はお陀仏だけどな。」
「プロペラは?」
「これだな。」
とコーラは軽々しく4枚の羽があるプロペラを出す。動かすためのギミックもあり、形はまさしく扇風機そのもの。
「なんだ、この紐。」
「中は回転できる仕掛けになってる。」
「へぇ。」
「ゴムも仕込んである。」
「ふうぅん。」
「根元にはビーズ。摩擦を殺してる。」
「……。」
「まあ、草刈機みたいなもんさ。」
「なあ、もう引っ張っていいか?」
「お、おうっ。」
引っ張ると勢いよくプロペラが回る。しばらくすると、紐はシュルシュルと最初の位置に戻っており、また回せる仕組みになっていた。
「思った以上に風があるな。」
「プロペラの黄金比の恩恵さ。」
とコーラがニヤリと笑う。
「でもこれさ、球体に変化した後でも出来たよな?潜水艦みたいにしてさ。」
「あっ!!」
確かにそうだったと気付く。
「もう、遭難者への嫌がらせしか考えてなかっただろ?」
「そうだったかもな、ポップコーンみたいに弾かれた時は最高だった。」
「わざと球体解除するしな。」
「あそこから生身晒すな!は大爆笑だったよ。」
「俺は楽しくて笑ってたけどな。」
2人は思い出に浸るかの様に空を見上げる。
「今度はもっと高く飛びたいな。」
「ああ、そうだな。」
「しかし、遭難者の奴、全く起きないな。」
ポテチは行き倒れた時と同様、ピクリとも動かない体に触れようとする。
「そのまま寝かせておけよ。しばらくは起きないし、ほおっておこう。」
「わかった。」
「その間にさ、塩を完成させたり、氷水位は作っておこう。」
「えっー?起きた時にビックリさせる様な物は作らないのか?」
「作らなくていいだろうな。」
「なんでさ。」
「あいつはな、この扇風機みたいにこっちが当たり前の様に取り出した方がいい反応をするんだ。」
「なるほど。見えない変化で不安がらせるんだな?」
「そう言うことだ。」
コーラは早速、氷水を作るために蒸留水を回収する。
蛸を冷やしているボックスのカバーを外して、ボックスを開ける。
「ああ、確かにお前の言う通りだ。」
「どうした?」
「まだ氷が残ってる。」
「だろ?」
「これなら蒸留水を入れるだけで、氷水になりそうだな。」
ペットボトルに水を入れ、先程と同じくカバーをかける。
「塩は大分出来てるな。」
完成に乾いてはいないが、塩として充分使えるレベルだった。何度か混ぜて状態を均一にする。
「さて、風呂はどの辺りにセットしようか?」
ポテチは腕を伸ばし、両手で四角を作って景色を切り取る。
「うーん……。」
しばらく考え込む。
「なあ、ゼロコーラ風呂に入らせるってことだけど、普通のコーラ風呂も用意しないか?」
「なんだよ急に。」
「風呂を準備してさ、カバーをかけるだろ?」
「最初に隠すならそうなるな。」
「その時にもう一つあれば、警戒するだろ?その反応が見たい。」
「ああ。」
「さっき、コーラが言った様にさ、やってくれって伝えたら、やってくれる。風呂から甘い匂いをしてても多分入るだろ?」
「そうだな、あいつなら文句言いながら入るさ。」
ポテチは鉄板に残った火種を二か所へ移し、風呂用の火床を作る。
「さあ、この2箇所に風呂を作ってくれ。海岸側が普通のコーラな。」
「わかった。」
コーラは浴槽型にした風呂を設置する。更に火の入りを調整する。
「湯加減が良くなれば火を消して、カバーをかければ保温できるな。」
「そういえばさ。」
「なんだよポテチ。」
「風呂に入らせた後のフォローってしなくても大丈夫か?」
「例えば?」
「石鹸を用意するとか、タオルを準備するとか。」
「水切りで充分だろ。」
「それ以外にはしないのか?」
「不完全燃焼のまま放置でも怒りはしないな。」
「そうか、かわいそうだから、風呂に入る時は袋を腰に巻かせてやろう。」
「どんな気遣いだよ!」
「大事だろ?」
「……確かに、入るまでの時間は短縮できそうだな。」
火を眺めていると、ポテチは遭難者をチラリとみる。
「まだ起きないな。」
「今、起きてこられても風呂が出来てないから困るけどな。夕方までは起きないんじゃないか?」
「そうか、だったら起きるまで、枯れ木でも探してくるか。」
「かけてるカバーはどうするんだ?2重構造の秘密に気づかれるかもしれないぞ?」
「大丈夫。」
と左腕を見せる。リングを装着しており、よく見ると日除けカバーと繋がっている。
「起きる頃には消すさ。お前も古代遺跡の演出の時にやっただろ?」
そう言うと森の中に入ろうとする。
「あんまり遠くまでいくなよ!」
「大丈夫!スピリットサークルとか作らないから。」
「当たり前だ!」
走り去るポテチを見送ると、コーラは腰を落とす。時折り火加減や、塩の状況を確認する。
段々と風を受け、潮風を感じてくる。
「陽が落ちていくな。」
景色の変化に身を委ねていると、遭難者に掛けていた日除けカバーがふっと消えた。
「そろそろか……。」
コーラはゆっくりと立ち上がる。
「水も持って行ってやらないとな。」
ボックスから冷えた水を取り出し、遭難者のそばへ向かった。
そして、目を覚ますのを静かに待つ。




