26話 「地獄のアトラクション」
はあ……
災難だったな。
浮島で目を閉じながら、大の字になって仰向けで寝る。
しばらくそのままでいると、
シュコシュコ
シュコシュコ……
静かな海に、場違いな、
何かが擦れるような奇妙な音が規則正しく響き始める。
嫌な予感しかしない。
そっと目を開けると、自分の腰のあたりがペットボトルのベルトの様な物で固定されていた。
「おい、待ってくれ!」
周りを見渡すと、
浮島は海面に触れてないように感じた。
……固定されていて、全体が見えない。
唯一確認できた浮島の先端は
ギリギリまで細く絞られている。
……速く走るための船だよな、これ。
シュコシュコ、シュコシュコ。
「おい、待ってくれ!」
もう一度、声をかけるが、2人には届かない。
黙々とペットボトルで作った空気入れを狂ったようにポンピングする。
「気圧MAX!OK?」
「OK!レディ?」
「ちょっ……、待…」
止める声も虚しく、
「GO!!!」
という2人の声にかき消される。
数十本のボトルから一斉に解き放たれた海水が、激しい爆音と共に文字通り海を切り裂いた。
ガガガガガッ!
と浮島が軋み、船体が水面からフワリと浮き上がる。
視界の景色が・・・
音を置き去りにするかの様に
後ろへとぶっ飛ぶ!
……やめてくれ、止めてくれ!!
重力で顔面を歪ませながら、
大の字のまま固定された体が人形の様に暴れているのを感じる。
ただただ声にならない悲鳴を上げながら再び固く目を閉じる。
だが、まぶたさえ風でバタバタと動いて閉じさせてはくれない。
さっきの滑り台より、よっぽど落ちてる!!
終わらない地獄の第2幕が、今、爆速で幕を開けた。
「たっんのしいなあ、遭難者!」
……楽しくねえ。
「すっげぇ、水切り石みたいに切って動く。」
船体もこの身体もバシュン、バシュンって言ってるよ!
なすすべなく猛スピードで海を走る。仰向けでなければさぞ楽しかっただろう。
2人の顔を見ればよくわかる。
「風を切るっていいなあ。」
震えるくちびるも切れそうだわ!
「まだまだ足りないな!進路を変えよう。」
俺の体勢も変えてくれ!!
海岸に向かっていた船体は横に進路を変え、未だスピードは落ちない。
風の強さを感じながら思い切って目を開けてみる。
先程遊んでいた古代遺跡に向かって進んでいる!
「やめろ!バカ共!!」
その声も虚しく
「いっけえっ!!」
とノリノリである。
バシュン、バシュンと船体を弾ませながら、最接近する。
「2段噴射用意!」
意気揚々としたコーラが声を上げると、
「GO!」
とポテチがその声に応えた……。
ボボボホボッ、バシューン!!
とまるでクジラの様に高らかと、
遺跡を飛び越えた。
ザバアアァン!!
大きな飛沫を上げ、船体が浮かび上がり、ようやく動きが止まる。
「ああ、死ぬかと思った。」
ようやく落ちついたと思う前に
死神の声が聞こえてくる。
シュコシュコ……
「おい!」
シュコシュコ……
「やめろ!」
「こっちにもつけようぜ。」
「おっ、いいな!」
シュコシュコシュコシュコ、シュコシュコシュコシュコ。
「やめてくれぇっ!」
この願いも届くことはなく、悪魔の言葉が唱えられる。
「気圧MAX!OK?」
せめて……。
「OK!レディ?」
体勢だけは……
「せめ…、たいせ……」
願いは伝えることすらも叶わず。
「GO!!!」
との声と共に、ブボボボホッと爆音と振動が駆け巡る。
「次はどこに行く?」
「そうだな。ちょうど潮が変わって渦潮になってる所があるぞ。」
「それはいいな、コーラ。進路変更!」
ババババッと相変わらずの猛スピード。
抵抗など出来るはずもない。
ずっと顔は風にさらされていたが、飛沫が身体全体にかかり始めたことに気付く。
必死で目を開けると、
いくつもの白波が咆哮を上げる、
巨大な渦潮エリアが目の前に広がった。
“おい、待て、あの先白波が立って――”
当然声など出せる訳がない。
「うおお!天然のコーヒーカップだぜ!」
「回れ!回れぇ!」
コーラとポテチの狂ったポンピングにより、
浮島は、渦潮の回転の波に乗ってさらに加速していく。
ーーからだが、アタマが絞られる!
目が回るなんて生易しいものじゃない。
脳が最大級の警告を出すが、絞られるという感覚だけが支配する。
グルグルと回転していることだけはわかる。
波の勢いが凄すぎて、海面にいるのか、海に浸かっているのかさえわからない。
あの2人はどうせゴーグルとかをしているんだろうな。
渦の中心にある闇へと、進んでいるのだろう。徐々に落下している様に感じてくる。
閉じた目はずっと光を感じていたが、気付くと暗くなっており、息ができる。
浮島が、三人をごそっと包み込むような
一つの巨大な球体カプセルへと変化していた。
プラスチックの壁に遮られ、
あれほど激しかった風と轟音がピタリと止む。
ベルトの固定も外れ、
ようやく自由な身体を取り戻した。
「お前らぁ!」
これまでの全ての怒りを込めて文句を怒鳴り散らしたかった。
だが、バカ二人は私の抗議など1ミリも聞くことはなかった。
カプセルの床にびっしりと敷き詰められた、
無数のペットボトルの空気を狂ったように
足で踏みつけ膨らませている。
見れば船体は3人がいる球体と、その下がクラゲの様にウネウネと広がっている。
シュコシュコ
シュコシュコシュコシュコ!!!
「喋ってないで、お前も踏んで空気を膨らませろ!」
目で合図をされ、空気入れを指示される。
「気圧が足りないと潰されるぞ!」
「はぁ!?」
とても理解が追いつかない!!
見れば、球体の壁が
「ミシ、ミシ……」
と嫌な音を立てて内側に凹み始めている。
尋常ではない出来事に、
恐怖を覚える贅沢は許されなかった。
必死にペットボトルを踏み抜く。
シュコシュコシュコシュコ!!!
三人分の超高速ポンピングにより、
クラゲの足はみるみるうちにパンパンに膨張していく。
プラスチックの限界まで引き伸ばされ、
今にも弾けそうなほどだった。
船体は未だ猛スピードでいつ海の底に激突してもおかしくはなかった。
「よし、気圧限界突破ァ!!」
コーラが嬉々として叫ぶ。
「主砲ノズル解除!」
ポテチが床の一点にあるノズルを引き下げ、
「爆発させまーす!」
「!!!」
もう、どう絶叫したら良いかわからない。
球体の底から限界まで溜まった大量の空気が大開放された。
―――ッドンッ!!!!!
空気の膜でわからないが、
巨大なシャンパンを開けたような大爆音が響く。
渦の底に溜まった海水と球体は
真上へとポップコーンのように弾け飛んだ。




