19話 「蛸九杯は流石に多い。」
魚の罠の場所への移動中、ずっと石の断面を見ていた。
「見過ぎだろ?」
「これだけ綺麗な断面はずっと見てられる。」
呆れるコーラにそれだけ魅力があるんだと伝える。
「お前も割とこういうロマン好きだよな。」
「簡単にお目にかかれないのはマジマジと見てしまうよ。」
「それなのに、1番最初は歯ブラシなのな。」
「やらないことはいつまで経ってもやらないからな。」
「まあ・・・。」
「考えつかないってのもあるし、楽しいことはいつでもやれるだろ?」
「確かに、楽しいことは率先してやるよな。」
前方にいるポテチを見ながら言う。
数分で蛸を六匹も釣ってるんだから、君にも言ってるんだけどね。
「・・・。」
「なんだよ?」
「いや、石鹸、風呂なんかを整えられたら俺もじっくり蛸釣りしたいなってさ。」
「実は風呂はすでにあてはあるんだ。」
「そうなのか?」
水は湯に浸かる位の量を確保していない。
でも、あてはあるのか・・・。
「おう、楽しみにしておけよ。」
「わかった。ん?ポテチが手を振っているな。行こうぜ。」
2人でポテチの所に駆け寄る。
「どうした、ポテチ。」
「見ろよ、ペットボトルの一部が顔を出してる。」
これから引き潮になるのだろう。魚もしっかり入っている。
「よし、回収しよう。」
コーラはまずペットボトルを1m位の高さにして出す。頭が出ているペットボトルをあえて長くし、台の上に置く。
ペットボトルの底の方から短くしていき、ゆっくりと海水を出していく。
「何種類かいるけど、全部食える?」
「いや、これから仕分ける。」
ある程度海水を出すと、次はペットボトルを中に入れ、ペットボトル同士をくっつける様に魚を覆う。
魚が入ったペットボトルはまるでエレベーターの様に手元まで来る。
「いつになく見事。」
取り出した魚を食べる物は別の容器に、食べれない物はリリースして仕分ける。
「あっ、そうだポテチ。」
「なんだ?」
「待ってる間、食べられる貝でも探してくれよ。
伊勢海老でもいいぞ。」
「なんで伊勢海老なんだよ?」
「蛸の大好物だからさ。釣った蛸の中で伊勢海老を、捕食してたりしないか?」
「捕食してる。」
「マジか!聞いてみるもんだな。」
「岩場に隠れてるから、今は無理だぞ。」
「そうか、なら蛸食べたら考えるか。」
と言うと何故かポテチがニヤリとする。
「なんだよ?」
「なんでもない。貝とってくるから先に戻ってくれよ!」
「わかった。だけど、蛸のぬめり取りは3人でやるからすぐ戻って来いよ。」
一応聞こえたのか、腕を上げて返事の様なことをする。
仕方がない、コーラの様子でもみるか。
「どうだい?仕分けの具合は。」
「おう。もうすぐ終わるぞ。」
「なかなかの数があるけど、全部消化出来るのか?」
「ああ、干物か燻製ってとこだな。」
「そうか、これから出来るものなのか?」
「ああ、今出てる煙でいける。」
「そうか、なら数はあっても問題ないか。」
「そのあたりは大丈夫。」
「それにしても凄い成果だ。放置するだけでこうなるなんてな。」
「考えなしにやったことではあるけどな。ただ、ペットボトルを変形できるなら、使い勝手が良くなるのは当然かもな。」
「ははっ、そりゃそうだ。」
ペットボトルの罠を設置した時はまだ、効率の良いやり方は知らない。それでこの結果なのだから、今後はどんどん恐ろしいことになるだろう。
「まあ、目標がいるよな・・・。」
「なんか言ったか?」
「いや、なんでもない。」
今後の話はしたいが急かしてもあまり意味がないので話題を変える。
「そうだ、コーラ。この辺りに伊勢海老もいるみたいだぞ?」
「伊勢海老?・・・なるほどね。」
「ポテチが言うには、今は獲るのは無理だそうだ。」
先程のポテチと同様にニヤリと笑う。
「伊勢海老は蛸と魚の処理をしてからか?」
「そっちがいいだろう。物がありすぎても色々と困ることもある。」
「そうか、ならお楽しみはまた後からだな。」
……ずっとニヤニヤしてるな。性格は違うがポテチと似た物同士だよな、この2人。
「おーい!貝とってきたぞー。」
と声が聞こえて来る。
「おっ、魚仕分け終わってんじゃん。このまま火の所に戻るか?」
「いや、ぬめり取りの方法による。手順はどうなる?」
「まずは内臓を取る。次に砂をデカい石に押し付ける様にしてぬめりをとる。綺麗にぬめりが取れたら、海水で砂を洗い流せばいい。」
「ならここで作業した方がいいな、そこにある石は高さが足りないけど、ペットボトルで持ち上げたらちょうどいいだろ?」
「そうだなここでやろう。」
「順番はどうするんだ?」
とここでポテチが聞いてくる。
「内臓はコーラがとってくれ。」
「おう。」
「力仕事のぬめり取りは俺がやる。ポテチは仕上げのぬめりとりをしてくれ。」
「わかった。」
「コーラは内臓を取り終えたら海水で砂取りをお願いするよ。」
「流れ作業だな。わかった。」
「ちなみにぬめりの感触ってどうなる?」
「結構すると思うぞ?」
「手袋ってない?」
「作れるぞ!」
ポテチは袋を取り出し、コーラと自分に被せる。そしてピッタリとした形にする。
「どうだ?動かせるか?」
拳を握ってたりして確める。
「いい感じだ。」
「ああ、感心するばかりだ。」
早速コーラが内臓を取り始める。今回はペットボトルを包丁代わりにしていた。
「なあ?蛸多くないか?」
内臓を取り出しているコーラの肩が動く。
「気のせいじゃないか?」
「お前いつの間にとったんだよ!」
「遭難者かもしれないだろ?」
「いいや、こいつは俺を監視していた。」
「人聞きが悪いな。話している所申し訳ないが、使える砂を持って来てくれないか?」
渋々ポテチが砂をとりにいく。
コーラは手を止めず、空いた手を軽く振った。
「すまんな。」と苦笑しながら謝られる。
砂を持って来たので、蛸に砂を大量にまぶす。
石にゴリゴリと押し込むのだが・・・。
「蛸の感触がない!」
みるみる内に砂が粘り気を出すのだが、ぬちゃつく感触がないのだ。
「袋って外から受ける感触も遮断するのか!」
「えっ?そうなのか?」
ポテチはこの凄さがわからない様だった。
「そういえば感触はないな。」
とコーラもさらっと言う。
・・・凄いことなんだぞ。
これ以上言っても伝わらなそうなので、それ以上はなにも言わないでおこう。
「しかし、この見た目は凄いな。」
「得体のしれなさが際立つな。」
「正直、触れた感触がないのは助かるよ。黙々と作業が出来る。」
こうしてしばらくぬめり取りの作業は続き、気付けば、足元には下処理を終えた蛸が並び始めていた。




