17話 「蛸壺は待てない。」
昨日、ポテチとコーラが仕掛けていた罠のうち、魚についてはすでに目処が立っていた。
次は、ポテチが楽しみにしている蛸壺だ。
「蛸壺ってさ、何のために置いたんだ?」
普通なら、こんな質問はしないだろう。
だが、この二人なら
「なんとなく楽しそうだったから」
で仕掛けていても不思議ではない。
……実際、それに近い理由で怒られたこともある。
「蛸が入ったらいいなあって置いた。」
「そうか。蛸壺についてなんだが、蛸ってなんで蛸壺に入るかってことから始まる。」
「どうした急に?」
「いや、ポテチが楽しみにしてるところ悪いからさ。よかったらコーラが色々教えてやってくれないか?」
「なんで蛸が蛸壺に入るか、か……。隠れる場所がない所に置くから効果があるんだ。」
「今の状態は?」
「隠れる場所があるからな……。」
コーラがポテチを見る。
少し言いづらそうだった。
同じくポテチを見る。
「なんだよ。」
「蛸をどうしたいかによって変わるんだよ。」
「仕掛けた時と違って、今はいるかどうかも分かるし、調理方法も保存方法も分かるだろ?」
「うん。」
「どうしたい?」
「とりたい。」
「だったら、どこにどれだけいるか調べたいな。
それから乱獲にならない数も。」
「そうだな。獲る数は三割くらいならいいみたいだ。」
「数百万はいるぞ!」
「数ひゃ……。」
思わず言葉に詰まる。
だが同時に、妙な違和感もあった。
「食べていい大きさなら、どの位いる?」
ポテチはきょとんとしている。
「充分な大きさのは三百位だな。」
「なら百匹くらいならとっても問題なさそうか。」
このやり取りで、一つ分かったことがある。
やはりアカシックレコードは、条件やイメージによって得られる情報が変わるらしい。
漠然と聞けば漠然とした答え。
条件を付ければ、それに応じた答え。
少なくとも今のやり取りを見る限り、そんな風に見えた。
解釈が変わるのは怖いが、今はまだ気にしなくていいだろう。
「よし、じゃあ釣りをしよう。」
「蛸壺じゃないのか?」
「それは仕掛け場所を変えて、後日だな。成果ってどの位で実る?」
「2.3日ってとこだな。」
「拠点からでも入っているかは分かるよな。」
これまた、コーラはポテチの顔を伺う。
「……ああ。」
「楽しみが2.3日延びたと思って、今日は蛸釣りだ!いいよな、ポテチ。」
「わかった。」
「よし、ならやろう。」
「でも、最初に釣るのは俺だからな!」
「もちろん。」
こんなやり取りをしている間に蛸壺の場所に着く。
「早速だけど、蛸壺を回収しよう。」
「おう!」
「やっとだな。」
二人は待ちきれない様子で海へ向かう。
自分は少し離れた場所から眺めることにした。
仕掛けたのは二人だ。
最初の確認くらいは、好きにやらせてやりたい。
「あった!」
「こっちもだ。」
一つ。
二つ。
三つ。
だが――。
予想通り蛸は入っていなかった。
「さて、回収もしたし、再度罠を仕掛けようか。」
「なんか余韻がない。」
ポテチが不満そうに言う。
「余韻?」
「もっとこう、『残念だったなぁ』とかあるだろ。」
「結果は分かってたしな。」
「だからって早すぎるんだよ!」
「まあ、そう言うなよ。」
思わず苦笑する。
「仕掛けたのは昨日だぞ。」
「それでも期待するだろ。」
「それはそうだな。」
コーラも頷いていた。
「そう言わずにさ、今から言うことを実践してくれ。全部お前の袋で出来るから。」
「それならいいや。」
そう言うと、ポテチはすぐに機嫌を直した。
「まずこの海域に合わせた大きさの蛸壺に調整してくれ。その後に袋を細くして蛸壺同士を繋ぐ。」
ポテチは考えながら、実行していく。
「蛸壺の理想の間隔も調べてくれ。後は隠れる所がない場所に置くんだ。移動させられるか?」
「やってみる。」
軽く一番前の壺を投げる。
そこから紐状の袋が伸びていく。
抵抗なく前に進んでいる様だ。
「伸ばしている時は蛸が入る様にと考えながらやるんだぞ。」
「わかった。」
「蛸ってさ、縄張りってどうなってるの?ひと壺に2匹なんて見たことも聞いたこともないけど。」
「縄張りはあるが、5m位だな。ポテチ!壺と壺の間は5m離すイメージで置くんだぞ。」
再度ポテチが返事をし、壺を押し込んでいく。
「どうだ?楽しいか?」
と聞いてみる。
「楽しそうだぞ」
とコーラが言うと、
「進んでる感触が楽しい」
と返ってきた。
3人で海を真剣に見ながら、蛸壺が進んでいくのを見る。
「これ、最後はどうしたらいい?」
「最後は岩場のすぐ近くの砂場に置いて、紐を近くの岩に括り付けよう。」
しっかりと紐を縛り、作業は終了した。
「よし、次は俺の番だな。」
コーラがペットボトルを白くし、岩場に入れる。
「ルアーみたいなものか。」
感心しながら、ポテチを見ると満足そうに砂場に座っている。
「最初じゃなくいいのね。」
そう呟くと、
「しっ!気付かれたら面倒だ!」
とコーラがこちらを黙らせる。
君もやりたかったのね……。
ルアーをふりふりと岩場の影で揺らすと
「来るぞ!」
コーラが言うや否や、
岩陰から影が飛び出した。
がばっ。
白いペットボトルへ抱きつくように蛸が覆いかぶさる。
「おおっ。」
思わず声が漏れる。
かなりの迫力だ。
だがコーラは慌てない。
後ろから別のペットボトルを被せるように伸ばし、そのまま蛸ごと包み込んだ。
「おっ、どうした?」
2人で盛り上がっていることを知り、ポテチがこちらに来る。
「すげぇ、やったじゃないか!」
そう言って祝福するが・・・。
「ちょっと待て、1番最初は俺のはずだぞ!」
「まあ、そういうなよ。お前に渡すからさ、蛸がいる岩場を見つけて釣って見ろよ。」
コーラにルアーを渡されると、しぶしぶ別の岩場に向かった。
「ほれっ、遭難者も。」
コーラがこちらにもルアーをくれる。
「いや、俺は場所もわからないし、引き上げるタイミングもわからないぞ。」
「サポートするし、失敗したらそれはそれでいいじゃないか。」
と、背中を押してくれる。
「そこの岩陰なんていいぞ、大きな穴に入れてみろよ。」
一度渡したルアーをコーラが少し伸ばしてくれた後、穴に入れてみる。
「小刻みにふるんだ。」
「わかった。」
奥の方では「よっしゃー!」という声が聞こえたが、気にせずルアーを振る。
「いいぞ、その調子だ。」
その言葉を信じて振り続ける。
すると、襲いかかる様にルアーに巻き付くと、
「今だ!」
と、合図が送られる。
勢いよく棒を跳ね上げる。
ずしりとした感触が腕に伝わった。
引っ張りあげようとすると、海面を割って蛸が飛び出した。
「よし、海に落とさない様にするぞ!」
ペットボトルを広げ蛸を包む。
「釣れたのか?」
「おおっ、やったな。」
一緒になって喜んでくれたのが何より嬉しかった。
「よし、なら今日はこれをたこわさにしてくれ。」
「そいつは無理だ!」
リクエストは断られてしまったが、釣果には大満足だった。




