11話「出来ればお辞儀は90度で」
行き倒れていた自分を、
ポテチとコーラは拠点まで運んでくれたらしい。
さらに看病までしてくれたおかげで、
今ではこうして会話が出来るまで回復していた。
二人が無人島へ来た初日のことは、
すでに聞かせてもらっている。
だが、
自分がどうやって助けられたのかは、
まだ聞いていなかった。
聞かないのも失礼だろう。
「なあ」
「ん?」
「俺がぶっ倒れた後、
どうやって助けてくれたんだ?」
「まず晩飯を拾った」
「晩飯?」
「お前」
……人を食料扱いするなよ。
だが、
助けてもらった立場で突っ込むのも何となく気が引けた。
「それでここまで運んだんだけどさ」
ポテチが続ける。
「全然起きないし、
ミイラみたいにカサカサだったんだよ」
「そうそう」
コーラも頷く。
「いきなり水を飲ませるのは危ないと思って、
まずは少しずつ口を湿らせたんだ」
「顔にも水をかけたりな」
「鼻とか口に入らないように気を付けながら」
「その水はどこから?」
近くに水場でもあったのだろうか。
「蒸留水」
「蒸留水」
二人の声が重なる。
「……?」
予想外の答えだった。
失礼かもしれないが、
賢そうに見えないのに・・・と思ってしまう。
「その蒸留水はどうやって」
「それはな。」
そう言うとポテチは袋を透明にし、
コーラはペットボトルを広げてみせる。
「なっ・・・」
と絶句してしまう。
「ポテチとコーラを出す訳ではない?」
「いや、さっきポテチ食ったじゃん。」
「コーラもな。」
そう言うと、ポテチとコーラを出してすすめてくれる。
ポテチを食べながら、コーラに触れると
「冷たい!」
ぬるいコーラしか出せないと思っていた。
「さっきはごめんな。時間が経ったコーラを渡して。最初は冷えてたんだけどな」
「時間経ってぬるくなっただけだな。」
「捨てるのも勿体なかったし、
冷たすぎない方が刺激も少ないかなって」
そういえばあの時、ありがたい気持ちになってたな。
「まあ、俺たちは新しいの飲んだけどな!」
「それは言わなくていいよ!」
と初めてつっこんでしまった。
「蒸留水で、水分を補給してくれたんだな?」
「ああ、そうだぜ」
正直、
助けてもらったことよりも、
今目の前で起きていることの方が気になっていた。
「色々聞いていいかい?」
「なんでも聞けよ」
「そうだな。なんでもいいぞ。」
「その前に、
改めて助けてくれてありがとう」
流石にお礼も言わず、色々と質問する訳にはいかなかった。
「おう」
「気にすんな」
二人はあっさりしていた。
「早速だけど、
何故ペットボトルや袋だけ出せる?」
「さあ?」
「さあ?」
「なんか出せた。」
「付属品みたいなもんだと思ってる。」
気にしなさすぎだろ!
と思いながらも、
その言葉には妙な納得感があった。
アカシックレコードの影響だろうか。
能力の範囲を感覚的に理解しているような・・・。
説明は出来なさそうだけど。
「初日に遊んだ時にダンボールを出したって話、しただろ。」
そういえばあったな。
「朝にさ、水が飲みたいって話になってさ。」
「ペットボトルを出せても、ハサミもないし、受け皿にできないと意味ないなとは思ったんだけど。」
「なぞったら出来た。」
そう言いながら、
ペットボトルを受け皿の形にしたり、
大きく広げたりして見せる。
「ダンボールの壁はそれで……か?」
「おう。ちゃちゃっといけたぜ。」
「それにしては頑丈そうだけど?」
「厚みは五十センチ以上あるからな。」
「五十センチ?」
ここからでは厚みまでは気付かなかった。
「おう。」
「崩れたら嫌だしな。」
さらりと言うが、
五十センチという厚みは、
もはや壁と言うより防壁だ。
……そんな量を出せるのか。
「ってことは、
この掛けてくれてるやたら保温性のいいやつは?」
「ポテチの袋」
「だな」
頭が痛くなってきた。
「じゃ、じゃあ座布団は?」
「対決で作った」
「どっちが座り心地いいか勝負したんだよ」
「勝ったのは俺な!」
「交換したけどな」
話が全然入ってこない。
「な、ならなんで、あんな立派な水槽があるのに魚は床に置いてあるんだ!?」
「あっ」
「忘れてた」
二人は顔を見合わせる。
「忘れるなよ!」
慌ててコーラが簡易水槽を持ち上げ、
魚を展示している場所へ移し替えた。
魚は何事もなかったかのように泳ぎ始める。
「よし」
・・・よし、じゃないんだよ!
規格外すぎて頭が追いつかない。
ダンボールの拠点。
巨大なポテチ袋。
自作の座布団。
蒸留水。
そして魚のいる水槽。
ここは本当に、
自分と同じ日に流れ着いた人間の拠点なのだろうか。
段々と、
次を聞くのが怖くなってきた。
「水槽の横の木も、
最初からあったやつではないんだな?」
ペットボトルは見えていたが、
木まで運んだとは思いたくはなかった。
「おう。近場に生えてたから運ぶのは楽だったけどな」
「魚もなあ、運ぶの楽だったんだぜ」
「お前を運んでる時に思い付いたんだけど」
「ペットボトルを車輪にして運ぶってやつな」
「そうそう」
「今度坂で滑ってみようぜ!」
「いいねぇ」
二人が盛り上がる。
……ずっと思っていた。
軽い。
フットワークも。
頭の切り替えも。(頭が軽いとは言うまい。)
さっきまで人命救助の話をしていたはずなのに、
もう坂遊びの話になっている。
それなのに、
水は作るし、
魚は捕るし、
拠点まで建ててしまう。
正直よく分からない。
ただ一つ分かることがある。
この二人は、
無人島生活を楽しんでいる。
「ペットボトルの変形とかも、だいぶ手慣れてるね。」
「アカシックレコードだっけ?あれを意識してから、前よりスムーズになったな。」
「そういや、車輪の案もその時に思いついたんだった。」
きちんと影響は出ているらしい。
二人の話を聞く限り、
アカシックレコードは知識そのものを与えるというより、
発想や閃きを後押ししているようだった。
……良いことのはずなんだけどな。
「ちなみに、蒸留水を思いついたのっていつ?」
「お前を拾う前だな」
……マジかよ。
最初から生存力高いじゃないか。
必死に遭難していた自分が、
少し馬鹿らしくなる。
「最後にさっ!」
思わず声が大きくなる。
「なんだ?」
「あのバカでかくて幻想的な屋根は何なんだよ!」
「ポテチ袋を透明にしました」
「いい出来栄えだよな」
コーラも満足そうに頷く。
「おかしいだろうがぁ!!」
——もう何が来ても、
この二人なら何とかしてしまいそうだ。
開放感があるのに、
不思議と安心できる。
この拠点みたいに。
「ははっ。まいったな」
もはや感心するしかなかった。
立ち上がり、
二人へ向かって拍手する。
「君達は楽しく生き残ります!」
「そして、私はこのままでは死にます。」
「お、おう?」
大きく息を吸いながら
背筋をグンと伸ばし勢いをつけて
「助けてください!」
と、深々と頭を下げた。
この二人には、人を助ける優しさがあって。
生き抜く力があって。
何より、楽しむ強さがある。
この二人なら。
笑って、生き抜いてしまうんだろうなと思った。
だから、気付けば頭を下げていた。
「最初からそのつもりだぞ。」
「そうだな。」
「晩飯だったし。」
「その言い方はやめてくれ。」
返事に安堵し、初めて笑えたが、
その笑顔はまだぎこちなかった。
作者よりお知らせ
本作品をお読みいただき、
本当にありがとうございます!
第11話までお付き合いいただき、
ありがとうございました。
ここから、40代主人公と少し変わったクラスメイトたちによる無人島サバイバルは、さらに本格化していきます!
そのため、
作品のクオリティを維持しながらお届けできるよう、
次話(第12話)より
更新ペースを変更させていただきます。
【毎週 水曜日・土曜日 18:00 更新】
これからも、彼らの「楽しく生きる」物語を温かく見守っていただけますと幸いです。
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今後ともよろしくお願いいたします。




