↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生しても無能でした  作者: 抹茶ice
第六章 四魔将
PR
90/118

第三十話 嘆きの牢獄(8) 【蘇生】.1


 塔の上階で激しい爆発が起こった直後、ゴーレムが動きを止めたままの四階へ、窓から中へ忍び込む小さな影があった。影は動きを止めたままのゴーレムの背後に近寄ると、装甲に手を触れてある部分を押す。


 するとゴーレムの背面が開き、奇妙で複雑な回路らしきものが現れた。

 それらは全く反応せず、ゴーレムも電源が落ちたように沈黙を続けている。


 小さな影はポケットから長方形の小さな箱のような部品を取り出し、剥き出しの回路の一部にある、ちょうどその部品を収めるような形状の窪みにそれをはめ込む。そして装甲を閉じると、じっと動かないゴーレムの足を蹴飛ばして影は言葉を発した。


「さっさと起きねえかこの寝ぼすけ。お前のご主人様がヤバいんだ、急げ!」


 直後、ゴーレムの全身に光の筋が走り、両目に光が戻った。

 ゴーレムはすぐさま顔を上げて立ち上がると、天井を見つめて両目を点滅させていた。


「……!」


 ゴーレムは天井に向かって右腕を突き出す。

 その形状は一瞬にして大砲のような形に変わり、ゴーレムは一点に収束した超高温のエネルギーを解き放った。

 天井へ向けて一直線に走った光線は複数の階を一気に貫き、大きな穴を開けた。


「むっ!」


 ゴーレムは穴の向こうを確認すると、両足を曲げて身を屈め、背中の一部をノズル状に変形。青白い火を吹き出しながら一気に天井の上へと飛び去っていった。ゴーレムの姿が見えなくなるまで見送った後、その小さな影は窓から塔の外へ抜け出していった。


 複数のフロアを通り抜け、ゴーレムは目的のフロアに着地した。

 部屋の中は床がすり鉢状に抉れ、巨大な爆発の跡がだけが残っている。

 他に動く物の姿は無い。


 ゴーレムが両目を光らせて部屋の中を見回すと、その片隅にボロ雑巾のような物体が転がっているのを発見した。


「……!」


 ゴーレムは全力で走り、その物体の元へと駆け寄る。

 それはかろうじて人の形を保っている程度の、無残な姿のヒロシだった。


 ゴーレムはすぐさまその場でしゃがみ、左手をかざして薄緑色の光を照射しながら、右手の指を伸縮可能なメスや細いチューブ、注射器といった治療器具に変形させた。


 最初に注射器で薬品をヒロシの首筋に打ち、メスで喉を縦に短く切り開く。

 気道から溢れる血液を細いチューブで吸い出した後、腰から伸ばした別のチューブを喉に差し込む。


 シューという音と共に酸素を送り込みながら、ゴーレムはヒロシの服を開いて肌を露出させ、胸周りの傷口に散らばる骨の破片をメスとピンセットで取り除き始めた。


「……」


 しばらくすると、周囲でバタバタと足音が聞こえてきた。

 ゴーレムは振り返らなかったが、その音のパターンから音の主がヒロシの仲間たちであることをすぐに認識していた。


 集まって来た仲間たちがゴーレムの足元に横たわるそれを見た時、メリアは叫んだ。


「いっ、嫌ああああああっ!? ヒロシ様!?」


 それはまさしく、気が狂わんばかりの絶叫だった。


 あまりに変わり果てたその姿に彼女は手にした杖を落とし、その場にへたり込む。ヤクモやツキヨ、ヒナタにウィル。そしてハヤトも、ヒロシの無残な姿に言葉を失っていた。


「ヒロシ、なにがあったんニャ!?」


 ヒナタが駆け寄ってヒロシに触れようとしたが、ヤクモが急いでそれを制止する。


「邪魔すんニャ! 離せ!」

「ヒロシどのに触れてはいけません。

 下手に動かせば本当に取り返しがつかなくなります」

「あうう……嫌ニャ嫌ニャ! ヒロシまで居なくなるなんて!

 コラー、起きろニャ!」


 ヒナタは大きな瞳に涙を溜めながら叫ぶ。

 その横を這いずるようにして、メリアがゆっくりとヒロシに近付いていく。


「いや……嫌です……ヒロシ様、お、起きてください……」


 ヒロシを挟んでゴーレムの反対側に回ったメリアは、ヒロシの状態を見てただ絶望するしかなかった。

 手足は砕け、頭は血にまみれ、傷口からは骨が飛び出している部分さえある。

 そしてなにより、ヒロシは自力で呼吸をしていなかった。

 それに気づいた瞬間、メリアは大粒の涙をボロボロと落とし始めた。


「あっ……ああ……約束したのに……ど……して……」


 メリアはわなわなと震え、ヒロシに手を伸ばし叫んだ。


「一人にしないって言ったのに……いや……こんなの嫌ああぁぁぁぁっ!」


 取り乱しヒロシに縋り付こうとするメリアを、後ろからヒナタが抱きかかえて止めた。


「メリア、やめるニャ!!」

「いやッ!! だって、だってヒロシ様が……息をしてない……っ!!」

「落ち着けって言ってんのニャ!」


 ヒナタは力ずくでメリアを自分の方に向かせ、その頬を平手で叩く。

 乾いた音が響いた後、メリアはただ茫然と眼を見開いていた。

 彼女の緑色の瞳には、両目に涙を浮かべたヒナタの真剣な顔が映り込む。


「アタシはヒロシになにもしてやれんニャ……でもメリアは違うはずニャ。

 魔法使いだったら、今こそ奇跡のひとつも起こしてヒロシを助けて見せろニャ!」


 ついに涙を抑えきれなくなったヒナタの顔を見たその時、メリアの瞳に意志の光が戻ってくる。メリアはこくりと黙って頷くと、ヒナタも泣きながら頷いてくれた。


 メリアはポーチの中に入れていた、魔法で縮んだ魔導書を取り出すと、それを元の大きさに戻して広げる。彼女の目の前には、魔法の中でも特に難度が高いとされている『蘇生』の魔法が記されていた。


「取り乱してごめんなさい。

 私、やってみます……絶対にヒロシ様は死なせない……!」


 床に両膝を付き、メリアは呪文を唱え始める。

 彼女が膨大な魔力を身体から発すると、ヒロシを取り囲むように光の円が描かれていく。


 さらに呪文を続けると、円の中に複雑で緻密な紋様が現れ輝き始める。

 この紋様がわずかでも狂えば『蘇生』の魔法は成功しない。


 膨大な魔力の発生と精密な操作。

 このふたつを同時に、かつ完璧に行わなければならないことが『蘇生』の魔法が特に難度が高いといわれる所以であった。


(必ず成功させてみせる……必ず――!)


 メリアの必至な願いに応じるかのように、緻密な魔法の紋様が少しずつ出来上がっていく。

 仲間たちも、その様子をただじっと見守り祈るしかなかった。






 そこは暗黒の空間だった。

 上下左右もわからない、ただ黒一色に塗りつぶされた空間。

 その中に、一人横たわる人間の姿が浮かび上がる。


(動けない……俺は……死んだのか……?)


 指一本動かせないが、自分がそこにいるという感覚だけは理解できた。

 ヒロシは果てのない暗黒に横たわっていた。

 音も聞こえない。光も感じない。匂いも、熱さや冷たさも感じない。

 それなのに自分の姿だけが、やけにくっきりと浮かび上がっている。


(そうか……死ぬってのは、こんなにも寂しいんだな……みんな……)


 そこにあるのは無限の孤独。

 自分以外に存在せず、いずれこの意識も消えてなくなるだろうという予感。

 どうせなら早くそうしてくれと思っていた矢先、前触れもなく――


 あるいは最初から、それは居た。


 鮮やかなオレンジの羽毛に見えるものに覆われた、そびえ立つ巨体。


 人の形に当てはめて言うならば、腕のようなものが羽毛の間から二本伸びているが、それは枯れ枝のように色褪せて細く、幾重にも別れ折れ曲がっているだけである。


 そして頭と思われる部分は扇状に広がった形状をし、その中心に巨大な目がひとつだけ付いている。他に形容しようがない『それ』が、いつの間にかヒロシの傍らに居たのだ。


(幻覚……? よく分からないな……)


 ヒロシがじっと奇妙な存在を見上げていると、オレンジ色の羽毛に覆われた『それ』は奇妙な音を発した。


 なにも無いはずの暗闇に響く、言葉では表せない音。

 それは人間には聞き取れない『それ』の囀りだっただろうか。


 『それ』はひとしきり音を発した後、巨大な独眼でヒロシをじっと見た。


 血のような暗い赤の瞳に見つめられているうちに、ヒロシの姿はそこから煙のように消えて無くなった。



次の更新は月曜19時予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。