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転生しても無能でした  作者: 抹茶ice
第六章 四魔将
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第三十話 嘆きの牢獄(7) ヤクモとツキヨ.2


「いいねえお前。薄々思ってたが、やっぱりこっち向きなんじゃねえの?

 その目、その喋り方……平然と嘘を付き、人を騙すことに抵抗のない

 ヤツの顔だ。俺みたいにな」


 ルークの言葉を聞きながら、ツキヨはヤクモの顔を低い位置から見上げるが、

 彼はツキヨの方を一瞥もしない。


「そりゃあ良いことはいっぱいあるさ。魔王様に付いてりゃ、

 なんだって好き放題できる。能力のある奴なら、全てが思いのままだ。

 今なら特別に、人間よりずっと上等なカラダも用意してやれるぜ。

 そうすりゃ一生バケモノに怯えて暮らす必要も無くなるぜ。

 これが魔王軍に付くメリットってやつだ」

「……なるほど。では古代の遺跡や、機械兵器に関する知識も得られるという事ですか」

「ああ、もちろんさ。ありゃ便利な代物でな、俺が元いた世界にだって

 あんな装置は無かった。お前もそっち方面に興味があるのか?」

「……ええ、実に興味深く思っています。かつて存在した高度な文明の力が

 どれほどのものか……歴史を学んだことがあれば、興味を抱かずにはいられないでしょう」

「くくく、いいぜ。そっち方面の研究者も数が足りなくてな。

 俺らの側に付く気があるなら、それなりの待遇も保障してやるよ」

「なるほど、お気遣い痛み入ります」


 淡々と語るヤクモに、ツキヨは必死に声を絞り出す。


「待っ……ヤ……クモ……どの……!」


 しかしヤクモは微動だにせず、正面にいるルークの幻と向きあったまま動かない。


「聞いておきたいことがあります。今回の件も含め、これまでの行いは

 魔王の命令によるものなのですか」

「あん? ああ、まあそういう事になるんだろうな」

「ハッキリしませんね。そういう事とは?」

「あのお方が俺たちに言ったのはたったひとつ、シンプルな命令だけさ。

『好(・)き(・)勝(・)手(・)に(・)振(・)舞(・)い(・)人(・)間(・)ど(・)も(・)を(・)痛(・)め(・)つ(・)け(・)ろ(・)』ってな。笑っちまうだろ?

 だが、俺はそいつが大いに気に入っててね。

 こんな楽しい仕事、どこ探したって見つからないぜ、はははは!」


 カラカラと笑うルークに対し、ヤクモは表情を変えずに続けた。


「魔王が世界にとっての脅威だという話、どうやら本当のようですね。

 魔王の目的は人間を苦しめる事にこそある、と」

「そりゃ魔王って名乗ってんだから、そういうモンだろうさ。

 どこもおかしくはないだろ?」

「ええ、でしょうね。では最後にもうひとつだけ、尋ねておきたいことが

 あります」

「なんだ、言ってみろよ」


 ヤクモはじっとルークを見つめ、眉ひとつ動かさずに言った。


「あなたは『生(・)命(・)の(・)書(・)』というものをご存じですか?」


 その言葉を聞いた瞬間、眼鏡の奥にあるルークの瞳孔が一気に縮んだのをヤクモは見逃さなかった。

 ルークは表情を変えず、何事も無かったかのようにヤクモの方を見ている。


「あーっと、どうだっけな……いや、聞いたことないわ。なんだそれは?」

「いいえ、ご存じなければ結構」

「へっ、そうかい。で、そろそろ返事は決まったのか?」


 ルークの問いかけに、ヤクモは目を閉じて小さく息を吐き、

 ゆっくりと目を開いてルークを見据える。


「私も嘘は得意な方でしてね。ゆえに他人の嘘を見分けるのも得意なのです。

 都合のいい甘言ばかりをぶら下げ、腹の底で常に他人を見下しているような者の嘘は特に」


 ルークは眼鏡をギラリと光らせ、不敵な笑みを浮かべる。


「へっ、食えない野郎だ。さんざ俺にセールスさせといてそれかよ」

「魔王に出会ったら伝えておきましょう。

 四魔将の一人ルークが『生(・)命(・)の(・)書(・)』を知っていたと」


 その途端、ルークの表情は露骨に引きつり、珍しく焦った表情を浮かべた。


「ちっ……まあいい、今回はこの辺にしといてやる。

 だがお前……ヤクモとか言ったな。ロクな死に方は出来ないぜ」

「ご心配なく。もとよりその覚悟で私は旅を続けていますので」

「わーったよ、今回はお前らの勝ちって事にしといてやる。

 どうせこの施設も用済みで処分するつもりだったんだ。後は勝手にしな」


 そう言い残すと、ルークの幻影はかき消すように無くなってしまった。

 ヤクモはため息をついて目元を手で押さえる仕草をすると、まだ床に膝を付いたままのツキヨの傍にしゃがみ込む。


「お待たせしました。その身体の不調を解くために、まずはこの丸薬を飲んでください」


 ヤクモは小さな丸い薬を手の平に乗せてツキヨに飲ませようとしたが、彼女の目には疑いの色が色濃く滲んでいる。


「このままでは会話も出来ないどころか、呼吸に支障を来たす可能性があります。

 お叱りは後で受けますから、今はこれを」


 ヤクモの言葉に納得はしないまでも、他に方法は無いと観念したのか、ツキヨは小さく口を開く。

 ヤクモが彼女の口に丸薬を入れ、水筒の水で喉の奥へ流し込む。


「ううっ……ふうっ……」

「先ほどの体力を回復する薬ですが、回復を助けるために眠くなる成分が

 混じっています。ですがツキヨどののような種族の方には、効き目が強く

 出すぎてしまうようですね。迂闊でした」

「あ、あなたは……っ!」


 ツキヨは険しい顔つきでヤクモに両手を伸ばすが、まだ力が戻りきっておらずバランスを崩してしまう。彼女の身体をすかさず受け止め、そのままの体勢でヤクモは言った。


「申し訳ありませんでした。ルークから情報を引き出すためにも、

 あそこで一芝居打たねばならなかった。

 ツキヨどのの怒りは十分承知していますから、仕置きは如何様にも」

「……て」


 ヤクモに抱きかかえられたまま、ツキヨは絞り出すような声を漏らす。


「ヤ……クモどの……そ、そろそろ……離れ……て……」


 ツキヨの願い通りに身体を離し、しばらく彼女の肩をヤクモが支えていると、次第に彼女の手足に自由が戻って来た。ツキヨは深呼吸をして空気を吸い込むと、身体の感覚が戻ったことを確かめてから大きく息を吐く。

 そして恨めし気にヤクモを睨んだ。


「言いたいことはたくさんありますが、とりあえず……

 先ほどの『生(・)命(・)の(・)書(・)』とは何なのですか」


 ツキヨが尋ねると、ヤクモの表情は硬くなった。


「……残念ながら、まだ答えるわけにはいきません。

 これは後ろめたいからではなく、あなたには知って欲しくない事だからです」

「意味が分かりません。知って欲しくないとはどういう事ですか」

「この世には……知ってしまう、ただそれだけで危険なものが存在するのです。

 だからどうか、今は聞かないで頂きたい」


 そんな答えに納得できるはずもなく、ツキヨはヤクモの襟を掴んで詰め寄る。


「あなたはそうやって、また隠し事をする気ですか。

 どうあっても私たちには本当のことを喋りたくないと!?」

「……」

「ヤクモどの、私は……あなたを信じたいと思っている。

 ですが、こんな事では――!」


 珍しく感情が昂ったツキヨは、拳を握りヤクモの胸を叩く。

 そのままじっとして動かないヤクモの顔を見た時、それが初めて見るような、

 寂しげなものだったことにツキヨは驚いた。


「いずれ全てを語る時が来ます。おそらくは、そう遠くないうちに……

 それまでは、どうか許して頂きたい」


 おそらくはヤクモにも並々ならぬ事情があるのだろう。

 そう感じ取ったツキヨは、握っていた拳の力を緩め身体を離す。


「……分かりました。ですが約束です。その時が来たら、私たちに全てを

 話してください。あなたが何者で、どんな秘密を抱えているのか、

 先ほどの『生(・)命(・)の(・)書(・)』とやらを含めた、その全てを」

「ええ、約束します。ありがとうツキヨどの。やはりあなたは優しい人だ」

「なっ、なにを急に……私を褒めても――」


 ヤクモの笑顔と言葉に照れたツキヨがそう言いかけた時、塔全体に激しい音と振動が起こった。


 どこか別の場所で、強力な爆発が起きた――。


 二人が身構えて様子を窺っていると、しばらく間を置いた後、

 彼らの居る場所から数メートル離れた床を、強烈な光の筋が貫いて登っていく。

 二人は急いで武器を手に取り、床に開いた大穴へと近付いて行った。


次の更新は金曜19時予定です

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