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転生しても無能でした  作者: 抹茶ice
第五章 旅立ち
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第二十六話 勇者の旅立ち(2) 試し斬り


 ギリウスは鞘に収まった剣を手に取り、ヒロシたちと一緒に王宮へと足を向けた。ダレル王に武具の完成を報告すると、ヒロシたちは中庭へ向かうように指示された。中庭に案内されてしばらく待つと、ダレル王とリィナ姫、そしてデーヴィドと十数人ほどの兵士たちが姿を現し、その中にハヤトの姿もあった。ダレル王はギリウスから献上された剣をハヤトに手渡すと、中庭に転がっていた直径二メートルほどの大きな岩の前に立ち、それを指して言った。


「転生者ハヤトよ、その剣で岩を斬ってみてくれぬか。そなたの『能力』を今一度、我らに示して欲しい」


 ハヤトは「うん!」と頷き、まさに新しい道具を与えられた子供そのものといった様子で剣を構えたり振ったりしていた。やがてハヤトは岩の前に立つと、剣の柄を両手で握り、上段に振り上げた剣を岩めがけて真っ直ぐに振り下ろした。


「でやっ!」


 それは一瞬の出来事であり、最初は剣が空振ったかと思われたが、すぐに重い響きと共に岩がぐらりと傾き、中心から真っ二つになっていた。


「す、すごい! 大岩をたった一振りで……!?」


 剣の切れ味とハヤトの力、そのどちらもが驚嘆すべきものであり、その光景を見ていた兵士たちからもざわめきが起こった。


「その力こそ、天が我らに与えた刃に違いあるまい。その『能力』にて魔王を打ち倒し、我らの世界に平和を取り戻したまえ。転生者……いや、勇者ハヤトよ」


 ダレル王がハヤトの前に跪くと、それに倣ってリィナ姫、デーヴィド、そして彼に従う兵士たちも片膝を立てて跪く。呆気に取られて立ったままだったヒロシたちだが、リィナ姫からの刺すような視線で空気を察し、慌てて同じような格好で跪く。


「えっ、オレって勇者になれたの? やったー! 頑張って魔王やっつけてくるよ!」


 自分が負わされた使命の重さは、ハヤトには全く伝わっていない様子である。しかし転生者として『能力』を授かった者として、それは避けられない宿命でもある。ダレル王はゆっくり立ち上がると、兵士たちに命じてハヤトのために用意させた鎧に着替えさせ、中庭に十本ほどの杭を打ち込み、そこに使い古しの鎧を着せたカカシを用意した。


「ヒロシたちも武器を新調したのであろう。せっかくだ、ここで試し斬りなどしていくがいい」


 ダレル王の言葉を聞いて、待ってましたと前に歩み出たのはヒナタだった。右手に装着したかぎ爪をギラリと光らせ、踏み込むと同時に前方へバネのように跳躍し、その勢いのままカカシの脇を通り抜けた。足を止めたヒナタが振り向くと、金属の鎧を纏ったカカシは文字通り三枚に切り裂かれ、ガシャンと音を立ててその場に崩れ落ちた。


「ほへーっ、凄いニャ。鉄の鎧がサクサク斬れたニャ! これならカチカチの相手でも楽に戦えるニャね」


 ヒナタが感心する横で、ツキヨも剣を手にカカシへ斬りかかる。


「とあッ!!」


 掛け声一閃、鉄鎧のカカシは袈裟斬りに真っ二つとなり地面に崩れ落ちる。ツキヨは手にした剣の刀身に目を落とすが、刃こぼれひとつしていない。


「素晴らしいなこれは。これならドラゴンや四魔将とも十分に渡り合えるはずだ」


 手ごたえを感じながらツキヨが剣を鞘に納めて下がると、入れ替わりにウィルが槍でカカシを突く。鋭い矛先は鎧を易々と貫き、ウィル本人でさえその威力に驚いていた。ヒロシもまた、少し離れたカカシの前で自ら鍛え上げた剣を構える。 


「よーし、ここだっ!」


 ヒロシは上段から剣を振り下ろし、カカシに一撃を加える。ヒナタやツキヨのように真っ二つには出来なかったが、カカシに被せられた鉄兜と鎧の一部はざっくりと切れ込みが入っていた。両手にその感触が伝わった瞬間、ヒロシは苦い記憶を思い出したが、すぐにそれを振り払って剣を鞘に納めた。


「俺も少しは成長出来てるかな。そうだといいんだけど」


 ひとり呟くヒロシの前に、リィナ姫と並んでデーヴィドが近付いて来た。


「しばらくぶりですね、ヒロシどの」

「あ、こりゃどうもデーヴィド様」

「ドラゴンの素材で作られた武器というのは見事なものですね。なんでもヒロシどのも武器の作成に参加していたと聞きましたが」

「はは、俺はなんの取り柄もないので……せめて身体くらい動かして役に立てたらなーと。それくらいしか出来ることが無いのが情けないですけど」


 特に意識せず出た言葉だったが、それを聞いたデーヴィドは口の端を持ち上げ、目を細めてヒロシを見た。


「ど、どうしたんですか急にニコニコして。俺、変なコト言いましたかね?」

「いえ……とても良い言葉だと思いましたので」

「は、はあ」


 ひとまず笑われているのではないと分かり、ヒロシは安堵する。


「それより私からも、お礼を言わなくてはと思っていた所でして。魔王討伐への同行を快く引き受けて頂き、ありがとうございました。恥ずかしながら、今の私には転生者……いや勇者ハヤトに同行できる人材を集めることは出来なかった。申し訳ない」


 デーヴィドはヒロシに向かって頭を下げ、驚いたヒロシは慌てて周囲の目を気にしていた。


「あわわ、そんなので謝らなくても。ウチの仲間はもともと魔王を倒すのが目的だったし、俺自身もちょっとした因縁があったりで……色々と都合が噛み合っただけだから、気にしないでくださいよ」


 ヒロシの言葉に幾分か救われたのか、デーヴィドは再び軽やかな笑顔を浮かべる。


「その代わり、皆さんへの支援は可能な限り行います。直接役に立てなくとも、出来る限りの事はやらなくては。たった今、それをヒロシどのに教わったばかりですし」

「な、なんかそんな風に言われると身体がかゆく……うひぃ」


 ヒロシが背中を気にしてモゾモゾしていると、横で話を聞いていたリィナ姫がコホンと咳払いをする。


「私たちだって責任は感じてるのよ。国の命運をあなた達だけに任せるなんて、全部納得してるわけじゃないわ。ハヤトの事だって、いくら転生者でも、まだあんな子供なのに……」


 短くなった金髪の先を弄りながら、リィナ姫も複雑な表情を浮かべている。


「とにかくその……無事に帰って来るのよ。借りを作ったままにしておくのは趣味じゃないの」


 そう言って視線を泳がせるリィナ姫をまじまじと見つめ、ヒロシは聞き返す。


「あのー姫様。もしかして心配してくれてるんですか?」

「なっ……」


 珍しく顔を赤くするリィナ姫だったが、すぐにいつもの調子に戻ってムッとしてしまった。


「私だって心配くらいするわよ。あなたは他の連中と違って頼りないんだから、わざわざ気にしてあげてるんじゃないの、まったく」


 それは聞き慣れた彼女の口ぶりではあったが、ヒロシにとってはその方がかえって落ち着くのだった。


「そうそう、その方が似合ってますよ姫様には。俺もまあ、なんとか死なないように頑張ってみますんで。それじゃデーヴィド様、姫様の事はお願いしますよ」


 ヒロシに頼まれ、デーヴィドはこくりと頷く。


「ええ、もちろん。ヒロシどのもご武運を」


 二人は握手を交わし、ヒロシは仲間たちの元へと戻っていく。その後ろ姿を見つめて不安そうな表情を浮かべるリィナ姫を、デーヴィドは静かに見守っていた。



 転生者ハヤトは『勇者ハヤト』として、歓声に包まれながら魔王討伐の旅へと送り出された。類稀な『能力』を持つハヤトと、逆に『能力』を持たないヒロシとその仲間たち。奇妙な巡り合わせで集まった彼らの長い旅が、ついに始まった。不安や決意、あるいは未知への期待――様々な思いを乗せて、馬車は北へと進んでいく。


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