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転生しても無能でした  作者: 抹茶ice
第四章 王都
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第二十三話 幕間(3) リィナ姫の頼みごと


 珍しく気落ちした様子の彼女を気の毒には思ったが、ヒロシは少し考えて難しい顔をする。


「事情は分かりましたけど、それって俺たちでどうにかできる話なんですかね」

「どうにかしてもらわなきゃ困るのよ! あなたたちが味方に付いてくれれば、お父様を悪く言う連中も静かになるはずだわ」

「いやー、気持ちはお察ししますけど……俺たちが味方に付いたくらいじゃ、あまり意味はないのでは?」

「……え? なに言ってるの?」

「はい?」


 リィナ姫は信じられないような顔をした後、眉間を指で押さえてため息をつく。


「もしかしてヒロシ、あなた自分の立場を全然自覚してないの?」

「はあ……?」

「んもう! 度重なる魔物退治と王都の危機を未然に防いだ実績、今じゃヒロシ率いるパーティの評価は王都でもトップクラスなんだから!」

「な、なんだってー!? そんな話、全然知らなかった……」

「あなた達も遠くへ飛ばされたりで大変だったみたいだから、よく知らないのも無理はないけど……とにかくそういう事だから、いい感じにお父様を立てて味方してちょうだい」


 喋り続けて口が渇いたリィナ姫は、侍女が用意していた紅茶に口を付けて一息つく。その話をソファーで聞いていたヒナタは、両目をギラリと光らせて彼女の傍に近付いた。


「ふっふっふ、ちょっといーかニャ姫さん」


 露骨にニヤニヤした笑みで近付くヒナタに、リィナ姫は思わず背筋を逸らせて引いてしまう。


「な、なによ……」

「アタシらに頼みごとをするからには、とーぜんそれなりの謝礼があるんだろーニャ?」

「うっ……そ、それは……上手く行ったらお父様に頼んであげるわよ」

「オォン? 人様にモノを頼む時に、そんなテキトーな口約束でいいと思ってんのニャ?」

「だ、だからこうして直接頼みに来てるんじゃないの!」

「はー、分かってないニャねえ姫さん。面倒な依頼するだけしといて、仕事済ませたらやっぱり言ってないなんてこの世界じゃよくある話ニャ。用済みになったらソイツを口封じのために始末するなんて珍しくもねーのニャ。そーならないって保証はどこにあんのニャ」

 

 おそらくは実体験からくるであろうヒナタのスゴ味に、リィナ姫とついでに傍にいた侍女も涙目になってしまう。


「わ、私はそんなことしないわよ!」

「姫さんがしなくても、王様がどうかはわかんねーニャ。ヒロシもメリアも最初はあの王様にゴブリンの餌にされかけたニャ」

「う、ううっ……」

「さあ、どーすんのニャ? お人よしのヒロシと違って、アタシは結構根に持つ方だニャ」


 ヒナタに詰められて窮するリィナ姫を見かねて、ヒロシは苦笑いをしつつ言う。


「まあまあヒナタ、そこまで言わなくても」

「ヒロシは黙っとくのニャ」


 普段あまり見ることの無いヒナタの険しい顔つきに、ヒロシはごくりと息を呑む。


「世の中には絶対に安請け合いしちゃダメな話があるニャ。借金の保証人と付き合い出してすぐの結婚話、それからお偉いさんの非公式な頼み事ニャ」

(な、なんかやけに具体的だな……)


 これも実体験なのかと思うヒロシだったが、ヒナタは相変わらずリィナ姫への態度を緩めていない。


「わ、私にどうしろって言うのよ」

「今回の話はアタシらが積極的に関わる義理がないって言ってんのニャ。今すぐ払えるカネも無いんだったら、せめて覚悟くらい見せるのがスジってもんニャろがい!」


 ヒナタがテーブルを手のひらで叩くと、後ろにいた侍女は縮こまって震え出してしまった。リィナ姫も黙ってうつむいていたが、やがて顔を上げるとヒロシに向かって言った。


「ヒロシ、ナイフを貸してちょうだい。ちゃんと切れるやつよ」

「ナ、ナイフですか?」


 言われるままにヒロシが冒険用のナイフを持ってきて彼女に手渡すと、リィナ姫は意を決した表情でナイフを鞘から抜き、自らのブロンドの髪に刃を押し当てた。ザクっという音と共にブロンドの髪は切り裂かれ、リィナ姫の髪は三分の一ほどの短さになってしまった。


「ひ、姫様……!?」


 侍女は驚きのあまり口を手で押さえ、リィナ姫も両目に涙を溜めながら切り落とした髪をテーブルに置いた。


「今の私には……これしか価値のあるものは差し出せないわ。売ればそれなりのお金になると思うけど……それとも、私の髪の毛じゃ不満?」


 ヒナタは真剣な顔つきでリィナ姫をじっと見ていたが、ふっといつもの笑顔に戻って彼女の肩をポンポンと叩く。


「ちょっと見直したニャ姫さん。これで恨みっこ無しだニャ」

「……ふん、分かってるわよ」


 ヒナタは部屋の棚から糸を持ってきてテーブルの上の髪を束ねると、それを持ってソファーへと戻って行った。隣ではウィルが真っ青な顔をしていたが、彼女は「大丈夫」とケラケラ笑っていた。


「……それで、頼みは引き受けてくれるってことでいいのね?」


 リィナ姫が確認すると、頷いて口を開いたのはヤクモだった。


「ええ、リィナ姫のご依頼、正式にお受け致します。ですが今のダレル王が必要としているのは、我々の力ではありませんね」

「……えっ」


 その言葉を聞いてリィナ姫は凍り付く。


「あなたたちの力が必要ないって……待って、それじゃ私が髪を切ったのは無駄だってこと!?」


 リィナ姫は悲鳴に近い声で頭を抱えて叫んだが、ヤクモは相変わらずの微笑で落ち着くように促す。


「無駄ではありませんよ。まだ我々の出番でないと言っただけです。今のダレル王に必要なのは家臣や国民からの信頼を取り戻すこと。それは我々が王の素晴らしさを宣伝して回ったからといって、元に戻るようなものではありません」

「ま、まあそうだけど……」

「差し当たって、ダンが残していった古代の機械部隊をさらに充実させ、戦力を整えるのがよろしいかと。いずれ来る次の戦いで彼らが戦果を挙げれば、ダレル王への支持も再び盛り返すでしょう。その時は我々も助力は惜しみません」

「そ、そうね……今はそれしかないのかしら」

「詳細な編成や今後の方針は、私の方で作成し書簡で送っておきましょう。王の役目とは国を運営し民を守り戦うこと。それを果たすことを第一に考えて頂ければと」

「わかったわ。お父様にもそう伝えておくわ」

「ああ、それと姫様。ひとつお尋ねしたいことが」

「なあに?」

「ゲオルク卿の亡き後、後任はどのような方かご存じでしょうか」

「ええ、知ってるわ。ゲオルク卿の代わりに軍を指揮することになったのは、彼の弟のデーヴィド。兄と違って控えめで目立たない人だって聞いたけど、詳しくは知らないわ。今回の事件で立場を継ぐまでは、半分隠居みたいな生活してたらしいのよね。まだ二十代だっていうのに」

「なるほど、デーヴィド様ですか。一度お目にかかりたいものです」

「ええ、機会があれば紹介してあげる。変に気難しい所がなければいいんだけど」

「よろしくお願い致します」


 この時、話題に上がったゲオルク卿の弟について、後に王都にデーヴィドありと呼ばれるほどの大器であることは、まだ誰も知る由もない事だった。


「しかし……ふむ……」


 話題の途中、ふいに考え込むヤクモを不思議に思い、ヒロシは彼の顔を見て尋ねた。


「先生、急に考え込んでどうしたんですか?」

「様々な情報を総合すると、今は大きな転換点へ差し掛かっている気がするのです」

「転換点?」

「ええ、国の情勢や魔王軍の動きを含めて時の流れを見てみると、これまで保たれていた均衡が崩れ始めているようです。こういう時、大きく歴史が動く出来事が起きたりするものです。それが何であるかまでは、私にも予想は付きませんが」

「大きな出来事かあ……悪いことじゃなければいいですけど」


 ヒロシたちがそう話し込んでいるその時、まさに王宮ではひとつの事件が起こっていた。王宮の魔術師たちが慌ただしく駆け回り、彼らに呼ばれたダレル王が慌てて王宮の一角にある荘厳な間へと駆け込んできた。


「はあ、はあ……そなたら、予兆を感じたと言うのは本当か!?」


 ダレル王の声に振り返った王宮魔術師の一人が、広間の床に描かれた魔法陣を指して頷く。


「間違いありません! これは……新たな転生者が出現する前触れです!」


 床に描かれた文様には徐々に不思議な力が満ち、徐々に輝きを放ち始めた。それはダレル王がかつて見た、転生者ヒロシが出現した時とまったく同じ光景であった。



第二十四話 幕間  おわり

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