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転生しても無能でした  作者: 抹茶ice
第四章 王都
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第二十三話 幕間(2) 来客


 翌朝、ヒロシは自室のベッドの上で、目が覚めた。どうやって自室へ戻ったのか分からないが、たぶんメリアが連れてきてくれたのだろう。少し頭がぼんやりするものの、他に体調が変わった様子はない。身体を起こしてベッドから降りると、ヒロシは一階のリビングへと降りて行く。キッチンではすでに朝食の準備をしているメリアがいて、ウィルとツキヨも隣でその手伝いをしている。大きなソファーにはヒナタが寝転がってイビキをかいており、ヤクモはテーブルの席に腰掛けて静かに皆の様子を見守っていた。


「あ、おはようございますヒロシ様。もうすぐ朝食が出来ますから、待っててくださいね」

「う、うん。ありがとう」


 ヒロシがテーブルの席に座ると、正面にいるヤクモが水の入ったグラスと粉薬の包みを差し出して来た。


「ご気分はどうですか? もし酒が残っているようなら、こちらの酔い覚ましをどうぞ」

「あ、こりゃどうも」


 ヒロシは受け取った薬を口に流し込み、水でそれを流し込む。それは漢方薬らしく苦みは強かったが、おかげで気分はスッキリしてきた。


「ふう……って、あれ? どうして先生は俺が酒を飲んだって知ってるんです?」


 ヒロシが首を傾げると、ソファーでいびきをかいていたヒナタが大きなあくびをして目を開け、そのままヒロシの方を見て言った。


「夜中にあんだけガサゴソしてたら気付くニャ。マジメそーな話してたからアタシらは部屋の外に居たんニャ」

「う……まさか全員聞いてたのか?」

「泣いてたから慰めてやろーかと思ったけど、そのまま寝ちゃったからみんなで部屋に運んだんニャよ」

「そ、そうだったのか。はは……みっともないとこ見せちゃったな」


 ヒロシは苦笑するが、ヤクモはゆっくりと首を振る。


「いいえ、私はむしろ安心しましたよ。ヒロシどのが我々と同じ人間だと確認できたのですから」

「えっ?」

「転生者とは謎多き存在です。別の世界より現れ、特別な『能力』を身に宿している事といい、その姿が人であるだけで、我々とは別の生き物なのかもしれないという者もいます。ですがヒロシどのを間近で見た結果、身も心も普通の人間となんら変わりはしないのだと確信が持てました」

「そんなエイリアンみたいな……」

「ふふ、我々の側からはそう見えるということですよ。それ程に転生者というのは特別なのです」


 微笑むヤクモに少し安堵すると同時に、ヒロシの胸中には様々な感情が沸き上がってくる。


「くっ……そう思われていながら『能力』のない自分が情けない……ッ!」


 拳を握りながら悔しい顔をしているヒロシの元に、メリアが朝食の乗った皿を置き、真っ直ぐヒロシを見て言った。


「『能力』があってもなくても、ヒロシ様はヒロシ様ですから。私はそれだけで十分です」


 そう笑ってくれるメリアから、まばゆい後光が差しているようにヒロシは思えた。


「うう、なんていい子なんだ……!」


 思わずホロリとして鼻がツーンとしているヒロシの背後から、相変わらずソファーで寝転がっているヒナタがうつ伏せに姿勢を変えてニヤニヤと笑っていた。


「さーすがメリアだニャー。これが正妻のカンロクってやつニャ?」


 その言葉を聞いてしばらく間を置き、メリアは一瞬で顔を赤くして取り乱し始めた。


「きゅ、急になにを言い出すんですかっ! 正妻って、そんな……私まだ、その……」


 途中から小声になってごにょごにょと言葉を濁すメリアに、ヒナタはさらに追撃の一言を放つ。


「心配しなくてもアタシは愛人枠で構わんニャよ? ニャハハハ!」


 その瞬間、ヒロシはテーブルに額を打ち付けて派手な音を出していた。


「ぐはッ!? よ、嫁入り前の娘がそんなこと言うんじゃありませんッ! どこでそんな言葉覚えてきたんだッ!!」


 ツッコミもどこ吹く風で笑うヒナタにヒロシは頭が痛くなってきたが、肝心のメリアがずっと静かな事に気付いて視線を移すと、彼女はショックのあまり硬直してしまっていた。


「ああっ、メリアが真っ白になっているッ!? しっかりっ!」


 ヒロシがメリアの周囲でわたわたしている間に、騒ぎ声を聞いてやってきたエプロン姿のツキヨが丸いおぼんを振り上げ、ケラケラ笑っていたヒナタの頭めがけて振り落とした。ぽこんと音がすると同時に『ギニャ!』というヒナタの悲鳴が響いた。


「いってーのニャ! いきなりナニすんのニャ!」

「仲間の和を乱すような発言はやめろといつも言っているだろう。ヒロシどのもメリアも困っているじゃないか」

「えー、アタシは三食昼寝とお小遣いとお酒も込みで養ってくれるならー、別にやぶさかでもないけどニャ?」


 ヒナタが懲りない発言をすると、ツキヨは顔に影を落とし両目をギラリと光らせ、再びおぼんを頭上に振り上げる。


「そうか、次は本気でぶん殴ってもいいんだな?」

「わーっ、ウソウソ! 茶目っ気のある冗談だニャ!」

「だったらいつまでも寝転がってないで席に就け。朝食の準備は出来てるぞ」

「はーい、朝飯だニャ―」


 ヒナタはぴょんと飛び起きてテーブルの席に座り、全員揃ったところで朝食を口にするのだった。



 それから何事もなく数日が過ぎて行ったが、ある日の昼前頃、ヒロシの家のドアを叩く者があった。


「はい、どちら様……って、うわ!?」


 顔を出したヒロシは、そこに立っていた人物を見て思わず声を上げてしまった。訪問者は二人いて、一人は見覚えのある王宮の侍女であったが、もう片方が問題だった。声を聞いて集まって来た仲間たちも、玄関に立つその人物を見て全員が目を丸くしていた。


「リ、リィナ姫……どうしてこんな場所に?」


 訪問者は紛れもなくリィナ姫その人であった。服装こそお忍び用のフード付きマントを羽織って姿を隠しているが、顔を見れば一目瞭然である。彼女はフードの中から青い瞳と美しいブロンドの髪を覗かせ、ヒロシにジトッと視線を送った。


「なんか失礼な反応ね。うわってなによ」

「い、いや、まさか姫様がいるとは思わなかったもので。それで、今日は一体なんの用で?」

「それよりもまず中に入れなさいよ。私にここで立ち話させるつもり?」

「あ、いや……ど、どうぞ」


 ヒロシは上擦った声を出しながらドアを開き、リィナ姫とお付きの侍女を招き入れる。リビングに通されたリィナ姫は羽織っていたマントを脱ぎ、腰まで届く見事なブロンドの髪を手で掻き上げて整えると、テーブルの席に座ってヒロシを正面に座らせた。ヒロシの側にはヤクモとメリア、そしてツキヨが座り、ヒナタとウィルはソファーに腰掛けてこちらの話に耳を傾けている。


「それであのー、今日はどんな御用なのでしょうか」


 ヒロシが恐る恐る尋ねると、リィナ姫は相変わらずムッとした表情のままヒロシを睨む。


「だから、さっきからどうしてそんな態度なわけ? 私と顔を合わせるのが嫌だっていうの?」

「いっ、いやそんなコトはありませんよ。突然の訪問で緊張しちゃって、はは……」


 リィナ姫は小さくため息をついた後、少し不満そうな顔つきで言った。


「ここに来た理由はふたつよ。ずっとバタバタしてて、あんたたちにお礼もちゃんと言えてなかったから。その……助けてくれてありがとう。私のことも、お父様のことも。あなたたちが居てくれなかったら、今頃どうなってたか……」


 珍しくしおらしい彼女の態度に全員が顔を見合わせたが、どうやら紛れもない本心のようであった。


「それでもうひとつの話、こっちが本題。相談したいというか……話した所でどうにかなるかは分からないんだけど」


 そう前置きして、リィナ姫はため息交じりに話し始めた。


「最近、お父様の様子がおかしいのよ。落ち着きがないし、誰かの話し声がすごく気になってるみたいで……それで私も少し調べてみたんだけど、そしたら家臣の……いいえ、王都の民の間でもお父様に対する良くない話が広がってるみたいなのよ」

「はあ、良くない話ですか」


 いまいちピンとこないヒロシに一瞬ムッとするも、リィナ姫は気落ちした様子で続けた。


「ほら……魔王軍が攻めてきたり、ダンという男のせいで王位を奪われそうになったり、立て続けに色々あったでしょ。それでお父様に国を任せてていいのかって声が、あちこちで出始めてるらしいのよ」

「あー、確かにそれは……」


 魔王軍との戦いでは後手に回り、ダンにたやすく王位を奪われそうになったとあれば、王としての信用が落ちるのも無理はない。その重圧を一番に感じているのはダレル王本人であり、落ち着きが無くなるのも当然の話である。


「それで……恥を忍んでここへ来たの。お願い、お父様の力になってあげて」


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