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転生しても無能でした  作者: 抹茶ice
第四章 王都
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第二十話 暗雲(1)

登場人物


ヒロシ:人間。異世界へ転生してしまった普通の成人男性

    特別な能力がなにも無い『無能』の人


メリア:木精(ドリアード)の血を引く少女。託宣の巫女の後継者と判明

    魔法使いタバサの元で修行し中級魔法を習得した魔法使い


ヒナタ:キャットリング(ネコ人)の女戦士

    かぎ爪と野生の勘で戦う明るい楽天家。口調に独特の訛りがある


ツキヨ:ラビットリング(ウサギ人)の女戦士

    剣と槍、弓を自在に操る。真面目で慎重な性格


ヤクモ:薬売りを生業とする白衣の優男。戦略に関し天賦の才を持つ

    非常に頭が良く、『無能』の転生者ヒロシに興味を持ち仲間になる


ゴーレム:遺跡の地下から出て来た古代の戦闘ロボット

     採掘場での戦闘でパーツを回収しパワーアップした


ダン:辺境の村で暮らしていたリーダー格の男

   外界に憧れがありヒロシたちに同行することになった


ウィル:ケンタウロス族の若者。人間と半人半馬の状態を切り替えられる

    少し気弱だが実直な性格で、強い戦士に憧れている


タバサ:自称、大魔法使いの女魔法使い。

    メリアに魔法を教えているが、普段は酒場で飲んだくれている


 大列車に乗車して旅をすること二週間。魔王勢力下の南端、大陸を南北に分かつ山脈のふもとまで辿り着いたヒロシたちは、世話になったカーラたちに別れを告げ国境の砦を目指した。狭い渓谷の道を馬車で日が暮れるまで進むと、見覚えのある砦へ辿り着いたヒロシたちは声を上げて喜んだ。砦を警備する兵士たちも北から近付く馬車に最初は警戒していたものの、乗っているのがかつての戦いで活躍した面子だと分かると、驚きと喜びをもって迎え入れてくれた。砦を預かるケイン将軍にも迎えられ、その晩を砦で明かした後、ヒロシたちは帰路を急いだ。


 そしてさらに一晩の野宿を経て、とうとう彼らは王都へと戻って来たのだった。女神の島へ託宣を受けに出発して以来、実に一ヶ月以上ぶりとなる帰還だった。王都を囲む外壁はあちこちが損傷しており、オークの軍勢と戦った様子がまだハッキリと残っていた。だが、それ以外に目立った被害なども見られず、門をくぐった城壁内の街の様子は全く変わっていなかった。オークの軍勢との戦いについて門の番兵に話を聞いたところ、急に増援が途絶えたオークの軍勢は孤立し、その状況に気付いた港町リンドの代表トリスタンが兵を動かして背後を急襲、挟み撃ちを受ける形となったオークの軍勢は跡形も無く壊滅したのだという。


(よかった、俺たちのやったことは無駄じゃなかったんだな)


 転送装置の破壊によって王都が危機を脱したことに安堵しつつ、ヒロシたちは自宅へと急いだ。一か月ぶり以上の自宅は記憶の中と変わらず、窓を割られたり泥棒に入られたような形跡もない。やっとの思いで玄関の扉に手を伸ばすと、なぜか鍵が掛かっておらずそのまま開いてしまう。奇妙に思いながら家に入りリビングを覗き込むと、テーブルの椅子に腰掛けて優雅に紅茶を飲むネズミ人がいた。


「ガ、ガンバ!?」

「よう、遅いお帰りだな」


 ガンバは紅茶の入ったカップを掲げ不敵に笑って見せる。彼の右目は黒い眼帯で隠され、大きな右耳も一部がちぎれて無くなってしまっている。


「お、お前、生き……生きてたのか……!」


 ヒロシは思わずガンバの近くへ駆け寄り、じっとその姿を見る。多少様子が変わっているが、ヒロシの良く知るガンバに間違いなかった。


「俺もどうやら悪運てのが強かったらしくてなぁ。この通り、右の眼と耳をやられちまったが、なんとか五体満足で逃げおおせたのさ。四魔将の一人が相手だ、このくらいで済むなら安いもんだろ」

「あの時、急に格好つけるから……本当に心配したんだぞ」


 泣きそうなのをこらえて変な顔になるヒロシを見て、ガンバはカカカと前歯を見せて笑う。


「お前らも元気そうでよかったじゃねえか。一足先に街へ戻ってみたはいいが、お前らが帰ってなかったんでな。その間、この家はしっかり留守番しといてやったぜ。感謝しろよな」


 ガンバの言う通り、テーブルやキッチンなどあちこちの掃除は行き届いており、ヒロシたちが家を出た時とほぼ変わらない様子である。絶体絶命の危機を救われ、家の面倒まで見てもらったガンバに何から話そうかと言葉を詰まらせていると、ガンバは紅茶を飲み干して立ち上がり、ヒロシの手をパンと弾いてリビングから出て行こうとする。


「ちょ、ちょっと待てよガンバ、どこへ行くんだ?」

「俺ぁ自分のねぐらへ帰らせてもらうぜ。お前らの無事も確かめられたし、もうここに残る用事はねえよ」

「そんな、せめて食事くらいは……」

「前に言っただろ? 俺は馴れ合いとか集団行動が苦手なんだ。また用があれば顔も出すさ。じゃ、あばよ」


 ガンバはそう言って立ち去ろうとしたが、その肩を掴んで引き留めたのはヒナタだった。


「おっと、俺にまだ用でも?」


 ヒナタはガンバの眼帯を指で持ち上げ、その下にある傷痕を見てすぐに元に戻す。


「……ヒロシが危ないトコを助けてくれたことは感謝しとくニャ。おめーがひとまず無事だったのも良かったニャ」

「へへっ、そりゃどうも」

「でも、アタシらの近くであんまりわざとらしい行動はしない方が身のためニャ」

「おお怖い怖い。よーく肝に銘じておきますぜ姐さん」


 そう言ってガンバはヒナタの手からするりと抜け出し、そのまま家を出てどこかへ行ってしまった。


「ヒナタ、あのラット人がそんなに気になるのか? 確かにあの状況から生き延びたのは奇跡的だが」


 そう言ったのは隣でヒナタの行動を見ていたツキヨだった。


「うまく説明できニャいけど、アイツなーんか引っかかるニャ。喉に刺さった魚の小骨みたいな感じで」

「不自然な点が無いとは言わないが、彼がこれまでヒロシどのや我々を何度も手助けしてきたのは事実だぞ」

「だから余計に引っ掛かってんのニャ。まあいいや、この話はヤメヤメ! アタシは腹へったニャ!」


 難しいことを考えるのが苦手なヒナタは考えるのをやめ、いつものように定位置のソファに身を投げ出して横になる。それぞれが荷物や装備を下ろして椅子に腰掛ける中、ダンは家の構造や床などを興味深そうに眺めていた。


「こいつは驚いたな……ヒロシお前、ずいぶんと立派な家に住んでるじゃねえか。王都の民家ってのは、全部こうなのか?」

「いや、この家は知り合いに協力してもらって、ボロ屋だったのを立て直したんだよ。基礎とか隙間の処理、あとは家具のレイアウトなんかも俺がお願いして、その通りにやってもらったんだ。こっちの世界に来る前は、建物関係の仕事をしてたから」

「なるほど……こんな建築の発想は他じゃ見たことがねえ。大したもんだぜ」


 感心した様子であちこち眺めた後、ダンも空いた席に座りテーブルを囲む。


「で、この後はどうするつもりなんだ?」


 ダンの質問に、用意した紅茶に口を付けてからヒロシは答える。


「とりあえず王様に顔を見せに行くよ。孤島へ託宣を受けに行くって出て行ったきりだし、その辺も含めて色々と報告しないと」

「だったら俺も一緒に行かせてもらうぜ。王様の顔ってヤツも拝んでおきたいしな」

「王様の前で変なこと言い出したりしないでくれよ?」

「わかってるって。人間てのは第一印象が肝心だからな」


 ガハハと笑うダンに少し不安を感じつつ、ヒロシはもう一度紅茶を口に運ぶ。久しぶりの


「とりあえず一休みしたら、みんなで顔を出しに行こう」


 それからしばらく自宅で休憩した後、ヒロシたちは王宮へと足を運んだ。謁見の間では一ヶ月以上も行方知れずとなっていたヒロシたちの帰還に驚きや喜びなど様々な声が上がっていたが、ダレル王は相変わらずの真顔でヒロシの報告に耳を傾けていた。


「――うむ。長旅と数々の働き、ご苦労であったな。転送装置とやらの破壊が無ければ、王都も甚大な被害を被っていた。民に代わって感謝するぞヒロシよ」

「いえ、そんな……でも役に立ってよかった」

「魔王については依然として分からぬことばかりだが、油断はできまい。我らもさらに守りを固めねばならんが……して、始めて見る顔がいるようだが」


 ダレル王はヒロシの後ろに控えているウィルとダンに目をやり尋ねる。


「彼らは北の地で俺たちに協力してくれた仲間です。特にこのダンは北の土地のことに詳しくて腕も立つので、ずいぶん助けてもらいました」


 ヒロシの言葉を聞いてダレル王はダンに視線を移し、じっと眺める。


「確かにその男、頼りがいのありそうな身体つきであるな。厳しい土地で暮らした賜物といったところか。ヒロシを無事に送り届けてくれたこと、わしからも礼を言おう」


 決まり文句のような言葉でも感謝されて気をよくしたのか、ダンは顔を上げて口を開く。


「北の辺境より参りました、ダンと申します。以後お見知りおきを」

「うむ。ダンとやら、北の地の情勢については不明な点が多くてな。その方が知る北の情報を教えてもらえると助かる。無論、それなりの礼はしよう」

「はっ、もったいないお言葉。魔王軍に一矢報いる為なら、協力は惜しまぬつもりです」


 普段のくだけた態度と違い、ダンの受け答えは礼儀正しくそつがない。ヒロシはその役者ぶりに感心しつつ、ダンが語る北の地の様子などを黙って聞いていた。


「――北は荒れた厳しい土地が多いですが、だからこそ連中が目を付けた物がある。それが古代の機械ってヤツです」

「キカイ……確かヒロシが古戦場跡の遺跡で見つけたと聞いたが、それと同じような物か?」

「ええ、その通りです。複雑な仕掛けで動く古代の機械が、地面の下にいくつも埋まってるようでしてね。魔王軍はそれを掘り起こし、武器として利用しているんですよ。まともに動きさえずれば、機械ひとつで兵隊の十人や二十人分の働きはするでしょう」

「うむ……魔王軍がそれらを手駒に加えているとなれば危険だな。次にキカイの軍勢を送り込まれては、今度は耐えきれぬかもしれん」


 ダレル王の表情に懸念の色が浮かぶと同時に、謁見の間にもどよめきが起こる。だがダンは口元に笑みを浮かべ、じっとダレル王を見て言った。


「ならばその件について、俺に任せて頂けますか。俺は機械の実物を見たことがあるし乗ったこともある。四、五十人ほどの人手を貸してもらえれば、埋まってる機械を掘り出して見せますよ」


 ダレル王はしばらく黙ってダンを見ていたが、しばらくして近くの使用人に合図をする。使用人はずしりと重い貨幣が入った革袋をダンに手渡すと、静かに王の傍へと戻っていく。


「キカイについて詳しい者がおらぬ以上、そなたに一任するよりあるまい。その金は依頼料と必要経費である。無駄遣いせぬように」

「これだけ頂ければ十分でございます。では、俺は人手の準備が付き次第、仕事に入らせてもらいましょう」


 その後、ヒロシも転送装置破壊の報酬を受け取り、ダレル王との謁見は終了となった。その帰り道、重い革袋を持って上機嫌なダンに、ヒロシは少し呆れた顔で言った。


「しかしまあ、よく舌が回るなあダンは。あんな約束して本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だってヘーキヘーキ。さすがに出来もしねえことを約束なんかしねえよ」

「でも、古代のロボットがどこに埋まってるのか知らないだろ」

「アテならあるさ。ヒロシがゴーレムを見つけたっていう遺跡だ。俺の勘だと、まだ他にも機械が埋まってると見たね」

「そんないい加減な……もし見つからなかったらどうするんだ」


 不安げなヒロシにダンは顔を向け、その背中を力強くバシッと叩く。


「いでっ!?」

「あのなあ、やる前からそんなんじゃあ見つかるもんも見つからねえよ。実はな、俺たちが戦ったあの採掘場は遠い昔に戦場だったって村の年寄りが言っててな。で、お前らがゴーレムを見つけたっていうのも古い戦場跡だ。てことは、そこら辺の土をほじくり返すよりずっと機械が出てくるアテはあるだろうがよ」

「いやまあ、そうかもしれないけど……」

「まあいい、こいつは俺が個人的に受けた仕事だ。お前らに手伝ってくれとは言わねえ。そういうわけで、俺はここから別行動だ」

「えっ、おい、ダン!?」

「お前らとの旅は楽しかったぜ。仕事が終わったら、また酒でも飲みに行こうや。じゃあな、兄弟」


 ダンはそう言って大金の入った皮袋を掲げたまま、向きを変えて街の繁華街の方へ一人で行ってしまった。何度か呼び止めようとしたが、ダンは手を振るばかりで足を止めることはなかった。


「たく、仕方がないな……」


 ため息をつくヒロシの横で、メリアも心配そうにダンの後ろ姿を見つめている。


「ダン様、一人で大丈夫なんでしょうか」

「俺と違ってたくましいから、ヘンなのに絡まれても平気だと思うけど」

「いえ、そういうことではなくて……」


 メリアの脳裏には、大列車の中でカーラと交わした言葉が浮かび上がっていた。嫌な胸騒ぎを覚えながら、メリアもただ彼を見送るしかなかった。


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