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転生しても無能でした  作者: 抹茶ice
第三章 北の辺境
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第十九話 キャラバン(1)

登場人物


ヒロシ:人間。異世界へ転生してしまった普通の成人男性

    特別な能力がなにも無い『無能』の人


メリア:木精(ドリアード)の血を引く少女。託宣の巫女の後継者と判明

    魔法使いタバサの元で修行し中級魔法を習得した魔法使い


ヒナタ:キャットリング(ネコ人)の女戦士

    かぎ爪と野生の勘で戦う明るい楽天家。口調に独特の訛りがある


ツキヨ:ラビットリング(ウサギ人)の女戦士

    剣と槍、弓を自在に操る。真面目で慎重な性格


ヤクモ:薬売りを生業とする白衣の優男。戦略に関し天賦の才を持つ

    非常に頭が良く、『無能』の転生者ヒロシに興味を持ち仲間になる


ゴーレム:遺跡の地下から出て来た古代の戦闘ロボット

     採掘場での戦闘でパーツを回収しパワーアップした


ダン:辺境の村で暮らしていたリーダー格の男

   外界に憧れがありヒロシたちに同行することになった


ウィル:ケンタウロス族の若者。人間と半人半馬の状態を切り替えられる

    少し気弱だが実直な性格で、強い戦士に憧れている


 ケンタウロスの若者ウィルを新たな仲間に迎え、ヒロシたちは休息を取った。翌日には旅に必要な食料や道具を買い揃え、予定通り三日目の朝には村を後にした。ただし来た道を引き返すのではなく、東方面から下山できる道を教えてもらったので、ヒロシたちはそちらから街道を目指すことになった。このルートは切り出した石材を運ぶために使われていて、盗賊の砦方面よりも整備されていて道幅も広く、楽に進むことができた。およそ一日ほど進むと景色が開け、ヒロシたちの眼前には広大な平原が姿を現した。


「ひ、広い……!」


 丈の短い草を敷き詰めた緑一面の大地と、それを文字通り水平に分かつ地平線と青空。その光景は、ここが魔王軍の支配下にあるとは思えないほど穏やかなものだった。遮るものが一切ない風景を眺めながら、ヒロシは美しい自然の姿を目に焼き付けていた。


「それで、ここから先の目的地は? 確か王都へ戻るための当てがあるという話だったが」


 御者台で馬の手綱を握るダンに、荷車の中からツキヨが尋ねる。ダンは顔だけ振り向いてニッと歯を見せて笑った。


「この大草原は呆れるほど広くてな。とこまで行っても同じ景色が続くから道に迷いやすいし、昼と夜の温度差が激しくて体力を奪われる。おまけに危険な獣や魔物もうろついてたりで、見た目と違って厳しい土地なのさここは。だが、この大草原で家畜を育て、(したた)かに生活してる連中がいる。そいつらのキャラバンが、もうじきこの辺を通る頃合いなんだよ」


 ツキヨも馬車から顔を出して周囲の風景を眺め、風に耳を立てて気配を探る。乾燥した風に吹かれざわめく草の音は、手付かずの大地が秘めた厳しさを内包しているようだった。


「遊牧民のキャラバンか……話には聞いたことがある。彼らの助けを借りなければ、この大草原を無事に抜けるのは難しそうだな」

「ああ、そういうこった。で、そのキャラバンは俺の知り合いがリーダーをやっててな。そいつに頼めば国境の砦に続く街道まで無事に送り届けてくれるはずだ」


 ダンが居なければキャラバンの存在を知り得ず、知り合いへの頼み事も無理だったであろうことを考えると、彼が案内役を買って出てくれたことは幸運と言うより他に無かった。やがて地平線の向こうから大きな黒い影が姿を見せたが、近付くにつれてその姿がはっきりしてくると、ダン以外の全員がキャラバンの姿に驚きを隠せなかった。


「あ、あれがキャラバン……?」


 ヒロシは目に映るそれを見て、ただ唖然とするばかりだった。それはまさしく草原を走る巨大な列車であり、それはざっと見ただけでも一両の高さと幅が十メートル、長さが五十メートルほどもあり、それが四両繋がって草原を走っていたのである。巨大列車はヒロシたちの馬車の近くまでやってくると、けたたましい警笛を鳴らしながら目の前で止まった。ダンは馬車を止め、御者台から「おーい」と声を上げながら両手を振って合図をする。やがて列車の横にある扉が開き、中から長身の女性が姿を現わした。年齢は二十代後半か三十路くらいの美女で、手足の露出が無い異国風の民族衣装に身を包み、真っ直ぐな黒髪を腰まで伸ばしている。切れ長の瞳にダンの姿を映したまま、彼女は唇の端を持ち上げている。


「草原のど真ん中で誰かと思えば、珍しいヤツと出会ったもんだね」

「お前も相変わらずそうで安心したぜ、カーラ」


 ダンは馬車から飛び降り、カーラと呼んだ女性の前に歩み寄る。お互いの会話や距離感からして、よく知った間柄といった雰囲気である。


「積もる話もしてえところだが、まずは頼みたい事があるんだ。俺とこいつらを途中まで乗っけてってくれ」


 馬車から降りて列車を見上げているヒロシたちを一瞥し、カーラはダンに言う。


「珍しいねえ、アンタが誰かとつるんでるなんてさ。それもこんな若い連中ばかり……今度はなにを企んでるワケ?」

「人聞きの悪い言い方をするなよ。こう見えてもな、こいつらは魔王軍とやり合ってきた命知らずどもなんだぜ」


 ダンがヒロシたちの事情を簡単に説明すると、カーラは驚いた顔で目を見開く。


「こんな子たちが魔王軍と……急には信じにくい話だね」

「ま、色々あってこいつらを南の王都まで送り届ける約束なんだ。頼む手を貸してくれ」


 カーラはしばらく黙り込んで考えた後、目を伏せて小さく息を吐いた。


「ったく、しょうがないね。私の大列車を送迎に使おうなんて、相変わらずいい根性してるよ」

「俺だってタダ乗りするつもりはねえよ。乗車賃はちゃんと払うさ。できれば後払いにしてくれると助かるんだが」

「はいはい、わかったよ。こんな所で立ち話もなんだし、全員列車の中へおいで。話の続きはその後でね」

「すまねえカーラ、恩に着るぜ!」


 ダンは顔の前で両手を合わせて感謝のポーズを取り、ヒロシたちを大列車へと案内した。四両で編成される大列車は一両目が巨大なエンジンを積んだ機関車で、二両目が遊牧民たちの居住用スペース、三両目が貨物用の倉庫と一部が住居スペース、最後の一両が羊や馬といった家畜たちを収容する厩舎となっていて、全部合わせたその姿は、陸上を走る大型船とでも呼べそうな規模である。それでいて不思議なのは、見た目こそヒロシの知る列車に近いものの車輪は付いておらず、車体が地面からわずかに浮かんでいる事だった。ゴーレムのような古代文明の機械による技術かもしれないが、大列車はその巨体で草木や大地を踏み潰すことなく移動をしているのである。馬と馬車をそれぞれ預けた後、ヒロシたちは広いラウンジに案内され、そこでカーラと改めて挨拶を交わした。


「ようこそキャラバンへ。私たちはこの大列車で草原を移動しながら、家畜を育てたり売ったりしながら生活してるんだ。他にも積み荷の運搬や、世界各地の商売人と情報交換や取引もしてる。時には魔王軍の積み荷を運んだりもしてるけど、そこは勘違いするんじゃないよ」


 魔王軍の荷物を運んでいると聞いてヒロシはぎょっとしたが、話を聞いていたヤクモは落ち着いた様子で言う。


「なるほど、おかげでこの大列車の安全も担保されているというわけですね」


 その言葉に満足したように、カーラは笑みを浮かべる。


「そういうコト。自分とこの荷物に攻撃を仕掛けるバカはいないだろ? だからある程度は持ちつ持たれつでやってるのさ。私だって魔王軍は気に入らないが、仲間の命や生活もかかってるからね。悪く思わないでおくれよ」

「いえ、合理的な判断だと思いますよ。魔王軍の侵略を受けず、独立性も維持するには最善の方法でしょう」


 自分たちの置かれている状況に理解を示すヤクモに、カーラは嬉しそうに笑う。


「ふふ、そう言ってくれると助かるよ。で、アンタらを国境の砦前まで送り届ける話だけど、おおよそ二週間ってとこだね。羊や馬に食事をさせながらだと、どうしてもそれくらいの時間が必要なんだ」


 二週間と聞くと長く思えるが、これまで旅と戦いの連続だったこともあり、ヒロシたちもまとまった休息が欲しい所であり、敵地で安全が確保されている以上、文句を挟む余地など見当たらなかった。


「あんたらは目的地に辿り着くまでのんびり過ごしておくれ。たまにはこっちの仕事を手伝ってくれると嬉しいんだけどね」


 そう言うカーラに、ヒロシはぐっと両手の拳を握って頷く。


「それはもちろん。お世話になるんだしそのくらいは……!」


 それは大列車に乗せてもらった礼もあるが、ヒロシは単純にこの巨大な乗り物に興味があった。現実世界ではお目にかかれないような巨大な乗り物は、いくつになっても男子の心をくすぐるものなのだ。そうして挨拶を終えると、ヒロシたちはそれぞれが寝泊まりする部屋へと案内された。部屋は簡素で、両脇に二段ベッドがそれぞれ設置されているだけというシンプルなものだったが、寝具の質は良く快適に眠れそうである。二週間ほど滞在するだけであれば、十分な待遇と言えた。


「さて、それじゃごゆっくり」


 わざわざ部屋へ案内してくれたカーラに礼を言ってヒロシたちが礼を言うと、カーラはそそくさと離れようとするダンの奥襟をむんずと掴み、怖い顔をする。


「アンタは私と一緒に来てもらうよ、ダン」

「おっと、どうしたんだよカーラ。怖い顔しちゃってまあ」

「数年ぶりの再会とは思えないセリフだね。ろくに手紙すら寄越さないで……アンタには言いたいこと、聞きたいことが山ほどあるんだよ。今日はとことん付き合ってもらうから覚悟しな」

「わ、悪かったカーラ。連絡しなったのは謝るからよ、だからお手柔らかにお願いしますッ!」


 そのままダンはズルズルと引きずられて行ってしまった。その様子を見ていた、特に女性陣がにんまりと笑みを浮かべている。


「なーなー、アレってつまりそういうコトだよニャ?」

「た、ただの知り合いって感じじゃなかったですよね、絶対」

「以前からの付き合いがあったようだし、そういう関係だったとしても不思議ではないな」


 ヒナタとメリア、そしてツキヨは顔を突き合わせてあれこれと喋り続けている。やはり女性が三人集まれば、こういう話題に花が咲くものなんだなとヒロシは思った。翌朝、げっそりと干からびたダンが部屋の前で立ち尽くしているのを見つけたヒロシたちは、その姿を見て全員が「うわぁ……」とドン引きしていた。


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