第十八話 採掘場での戦い(4)
「しまっ……!?」
気付くのが遅れ、万事休すかと思ったその瞬間、大砲ロボットは激しい銃撃を受けて大破、爆発炎上した。
「ようやく操縦のコツが掴めてきました。お二人とも、ケガはありませんか」
二人の窮地を救ってくれたのはヤクモの乗る鳥型ロボットだった。ヒロシはナイフでメリアの身体を固定しているベルトを切ってやると、解放された彼女を座席から下ろしてやる。
「残念ながら状況は良くありません。動き出した古代兵器たちは強力な武装を持っているようです」
「そういえば、ダンとゴーレムは?」
ヒロシが周囲を見回すと、ダンの姿は見つからなかったが、ゴーレムとそれに群がるロボットたちの姿が目に入った。二体の鳥型ロボットは周囲を走りながら銃撃し、ゴーレムを足止めしていたが、問題は球体のオブジェクトのようなロボットであった。この球体の表面はうっすらと光を帯びており、台座から三十センチほど浮き上がってゆっくりと回転している。そしてその輝きが強くなった瞬間、光は一点に収束し、緑色の光線となって放たれたのである。ゴーレムは咄嗟に回避姿勢を取ったが、避けきれなかった肩の装甲が吹き飛び、穴が開いてしまっていた。
「レ、レーザー兵器!? そんなのまで出てくるのか!?」
幸いにも貫かれたのは装甲版だけで内部は無事だったようだが、あの攻撃を何度も受けてはゴーレムもひとたまりもないはずである。
「あの光線は危険だ! ゴーレムを助けないと!」
ヒロシが言うと同時にその意図を汲み取ったメリアが、素早く呪文の詠唱に入る。そして杖をかざすと、球体ロボットの頭上から強烈な稲妻が降り注いだ。直撃を受けた球体ロボットは狂ったように動作がおかしくなり、その場でバタバタと足を動かした後、上部の球体部分が爆発を起こして転がり落ち、動作を停止した。
「やった! やっぱり見た目通り電機には弱いんだな。頑張れゴーレム、そいつらをやっつけろ!」
敵の数が減って動けるようになったゴーレムは、まず周囲を走る鳥型ロボットに飛び掛かって殴りつけた。ゴーレムのパンチで胴体がひしゃげた鳥型ロボットは横倒しになり、火花を散らして動かなくなった。そしてゴーレムは鳥型ロボットから格納されていた銃器の部分を剥ぎ取ると、もう一体の球体ロボットに向けて榴弾を発射した。爆発の衝撃で足が折れて傾いた球体ロボットはまだ生きていたが、ゴーレムは攻撃の隙を与えないとばかりに走って近付き、球体部分に拳を振り下ろした。球体部分はロボットにとって重要な部分らしく、ここを破壊された球体ロボットは動作を停止してしまった。
「なんか手慣れてるな……もしかして、昔もこんな風にゴーレムは戦ってたのか?」
ヒロシが感心していると、ゴーレムは破壊したばかりの球体に手を突っ込み、中から部品を引っ張り出した。見た目にはバッテリーのような装置だが、ゴーレムはそれを胸元へ持っていくと、胸元の装甲が開いてそれを組み込んだ。するとゴーレムの前に立体映像の表示パネルが浮かび、そこにはこう書かれていた
『サブ動力パックを追加。出力上昇により機体能力向上。および武装:プラズマビームの使用が可能です』
ゴーレムは立ち上がって残り一体となった鳥型ロボットの方へ向き、右腕を突き出して構えた。すると右手の形が一瞬にして大砲のような形に変化し、灼熱の火炎を一点に収束させたような真っ赤な光線を発射した。その光線が直撃した瞬間、鳥型ロボットの胴体は大穴が空き、さらに残った部分も瞬時にして真っ赤に溶け出して派手な爆発を起こした。
「……!?」
あまりの光景にヒロシは言葉が出なかったが、全てのロボットを片付けたゴーレムは右手を元に戻し、いつものようにヒロシに近付いてきた。
「むっ」
敵をやっつけました、という事だろうか。恐ろしい火力を手に入れはしたが、ゴーレムは相変わらずヒロシに従ってくれているようである。これで一安心と言いたい所だったが、まだ脅威は残っている。残る魔王軍の兵士と、突如現れた黒いローブの魔導士である。宙に浮いたまま様子を眺めていた魔導士は、真っ赤に光る眼でヒロシたちを見降ろしていた。
「どうやら過ぎた玩具を持っているようだな。先に貴様を始末しておくべきであった。だが、これで勝ったと思うなよ」
魔導士は魔力を膨れ上がらせ、暗い波動を周囲に解き放った。その波動を浴びた生き残りの魔王軍兵士たちは突然頭を抱えて苦しみ始め、この世のものとは思えないおぞましい絶叫を上げた。そして次々とその姿を変化させ、下半身が馬の魔物へと変貌していったのである。
「この採掘場は放棄する……だが貴様らもただでは帰さんぞ。そのバケモノどもと心ゆくまで遊んでいくがいい」
そう言い残し、黒いローブの魔導士はかき消すように姿を消してしまった。後に残った下半身が馬の兵士たち――ケンタウロスは、正気を失った悪鬼のごとき形相で襲いかかって来た。彼らはいずれも獰猛で、なにより脅威なのはそのスピードとパワーであった。馬同様の巨体を正面から迎え撃つのは不可能であり、その体重とスピードを乗せた一撃の重さは、地上にいる者にとってシンプルな脅威であった。縦横に駆け巡りながら襲い来るケンタウロスの前に、ヒロシはメリアと一緒にゴーレムの陰に隠れてやり過ごすのが精一杯で、ゴーレムも彼らのスピードに対抗する武器を持ち合わせていなかった。
「ヒロシ様、あれを見てください!」
ふとメリアが声を上げたのでその方向を見ると、ダンに倒されて地面に倒れていた兵士の身体がビクンと跳ねた。そしてゆっくりと起き上がり、傷口から血を垂らしたまま、ふらふらと身体を揺らしながらこっちに近付いて来る。
「もしかして、さっきの変な術は、死体も操れるのか!?」
さらに敵が増えて戦慄するヒロシだが、反撃に出なければ押される一方である。動きの鈍い死体はメリアに任せ、ヒロシはまだ無事であろうヤクモの姿を探した。すると遠くの方でケンタウロスたちに追い立てられながらも、鳥型のロボットに乗って走り回っている彼の姿を見つけた。その隣にはダンの姿もあり、ヤクモは姿の見えなくなったダンを探していてくれた様子である。
「ヤクモ先生、ロボットは全部破壊しました! 後はこいつらをなんとかしないと!」
声が届いたかは分からないが、ヒロシはヤクモに向かってそう叫ぶ。一方のヤクモは動きの速いケンタウロス相手では、操縦と武装の照準を合わせる両方に手が回らず、攻撃は弾の無駄だと察して回避に専念していた。隣に乗っているダンは身を乗り出して剣を振り、周囲の敵をけん制しているが、あまり効き目はなかった。
「くそっ、騎兵がこんなに手強いとは思わなかったぜ! しかも全員頭がおかしくなってやがる!」
「ええ、古来より騎兵は戦場で中核を成す存在でしたからね。このような機械に乗っていても手が出せないのは、つくづく恐ろしいものです」
「感心してる場合かよ! ハッキリ言って単純にこっちの手が足りねえ! ヒナタとツキヨはまだ戻って来ねえのか!」
ダンがそう言った直後、採掘場の反対側から走ってくるケンタウロスの姿があった。
「くそっ、まだ新手がいやがったか!」
忌々しげに吐き捨てたダンだったが、よく見るとその背には見覚えのある二人が乗っている。それは間違いなくヒナタとツキヨであった。二人を乗せたケンタウロス――ウィルはさすがに重量が堪えているようで少し苦しそうな表情をしている。
「よーっす、アタシが戻って来たニャ! こっちもなんか派手にやってたみたいだニャ!」
「どうやらまだ油断できない状況のようだ。ヒナタ、こっちは任せた!」
「あいよ、いってら!」
ツキヨはウィルの背から飛び降り、素早く地上を走ってヤクモの操縦する鳥型ロボットの方へ向かう。そして一息に跳躍して操縦席に乗り込むと、弓を取り出してダンに言った。
「ここは私がやる! ダンはヒロシどの援護を頼む!」
「あ、ああ、その方が良さそうだな。んじゃここは頼んだぜ!」
ダンは状況を察し鳥型ロボットから飛び降り、ヒロシのいる方向へ向かう。ツキヨは立ったまま弓を構え、迫り来るケンタウロスめがけて矢を放った。放たれた矢はケンタウロスの眉間に命中し、絶命したケンタウロスは転倒し地面を何度も転がって離れていった。
「ヤクモどの、このまま走り続けてください。ここからならよく狙える……!」
ツキヨは高い位置を維持したまま移動し続け、走り回るケンタウロスたちを次々に射抜いていく。彼女の弓と鳥型ロボットの高さとスピードは絶妙に相性が良かった。そしてヒナタはウィルの背に乗ったまま、近くを走る魔王軍兵士と並走していた。
「ウィル、もっと近くまで寄せるニャ!」
「そ、そんなこと言ったって、敵の間合いですよ!」
「そんなんでビビってたら戦いなんかしてられんニャ! おりゃっ!」
ギリギリまで近付いたウィルの背中からヒナタはケンタウロスの背中に飛び乗ると、背後から心臓の位置をカギ爪で突き刺す。そして素早くウィルの背に戻ると、急所を突かれたケンタウロスはつんのめって転倒し、二度と立ち上がることは無かった。
「す、すごい……!」
ウィルが感心していると、ヒナタは彼の尻部分を手でぺしぺしと叩く。
「感心してる場合じゃねーのニャ! さっさとこいつら片付けて村に帰るんだからニャ!」
「は、はいっ!」
ウィルは預かった弓を構えて近くにいたケンタウロスの胸を射抜いて倒す。戦士たちが戻ってきたことで魔王軍兵士たちは一掃され、ついに二十人と魔物たちから成る魔王軍兵士たちは全滅した。戦いが終わり自分たちが解放されたと知った工夫たちは大いに喜び、ヒロシたちを囲んで村へと急ぐのだった。




