表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生しても無能でした  作者: 抹茶ice
第三章 北の辺境
PR
48/86

第十八話 採掘場での戦い(3)


「他の連中は無事かニャ。アタシもさっさと合流しないと」


 ふと顔を動かすと、自分の近くに一人の若い男が立っていた。汚れた作業服姿で、魔王軍に連れて来られた村人の一人であるのはすぐに分かった。身長はヒナタより高く大人と同じ体格だが、髪は短めの金髪で、まだあどけなさを残した若い顔立ちである。


「あ、あの、これ……どうぞ」


 若い男が差し出したのは、ヒナタが放り出した弓であった。


「おっ、わざわざ拾ってくれたのかニャ、さんきゅー」


 ヒナタが笑顔で弓を受け取ると、若い男は少し顔を赤くし、どもった口調で言った。


「あう、えっと……さっきの戦い見てました! たった一人で魔物と戦ってあっという間に全部やっつけるなんて……凄いです!」


 やや早口でまくし立てるような若い男に、ヒナタはふふんと鼻を鳴らして得意げな顔をする。


「ほほう、おめー見どころがあるニャ。アタシは天才だから、あれくらい朝飯前だけどニャ」

「お、俺、ウィルって言います。村に魔王軍がやって来て、本当はみんなを守りたかったけど……自分一人じゃなにも出来なかった。その勇気も無かった……どうやったらお姉さんみたいに強くなれますか!」


 思いがけない言葉を口にしたウィルという若者を、ヒナタはつま先から頭のてっぺんまでジロジロと眺めて言う。


「ふーん、まあいいカラダはしてると思うニャ。戦いの腕がどんなもんかは知らんけど、必要なのは覚悟と度胸、あとは頼りになる仲間を見つけることだニャ。いくら強くても、一人じゃすぐにやられちまうニャよ」

「仲間……」


 仲間という言葉にウィルは押し黙ってしまい、ヒナタは彼の肩をポンポンと叩き、逃げ惑う工夫たちの方を指す。


「ま、気持ちは分かるけど素人は無茶しない方がいいニャ。騒ぎになってる今のうちに、仲間と一緒に逃げニャよ」


 そう言って背を向け歩き出そうとするヒナタの手を、ウィルが掴んで引き留めた。


「待ってください、俺も戦います! 大事な人たちが苦しめられているのに、なにも出来ず逃げるのはもう嫌なんだ!」


 そう言って手を離さないウィルの方へ、ヒナタはゆっくり顔を向ける。


「……はぁ。アタシが言っても聞かなそうニャね。そんで、オメーはなにが出来るニャ? 悪いけどこっちも足手まといを連れてく余裕はニャいからな」

「ええと、弓と槍なら多少は……」

「多少ねぇ、なーんか頼りないニャ」

「あ、で、でも! 俺ならきっと役に立てると思うので! 見ててください!」


 少し焦った様子のウィルだったが、彼はヒナタから手を離すと、数歩離れた場所でぐっと真剣な表情をした。そして彼の身体が光に包まれたかと思うと、次の瞬間にはウィルの腰から下が馬に変化していた。


「うわっ、変身した!? それどうなってんのニャ!?」

「俺はケンタウロス族なんです。普段は人間と同じ姿で暮らしてますけど、いざという時はこの姿になれるんで」

「すげー! なんかかっこいいニャ!」

「えっ、かっこいい……?」


 思いがけず褒められ、ウィルは照れくさそうな顔をする。ヒナタは馬そのものである部分をぐるりと回って眺めた後、その背にひょいと飛び乗った。


「わわっ、お姉さん!?」


 急に背中に乗って来たヒナタに驚き、ウィルは少し慌てた様子である。


「アタシはヒナタって言うニャ。確かにこれなら歩かずに済んで楽チンそうだし、気に入ったニャ!」

「ん? 楽チン?」


 ヒナタの言葉に微妙な引っ掛かりを感じたウィルだが、そこへ弓と矢の入った矢筒を彼女から押し付けるように渡された。


「とりあえずコレを渡しとくニャ。武器も無しに走り回るのはあぶねーからニャ」

「は、はい、ありがとうございます!」

「よーし、そんじゃアッチにアタシの仲間がいるから、さっさとススメー!」


 尻をぺしぺしと叩かれ、ヒナタを背に乗せたウィルは採掘場の中を駆け出して行った。


 ツキヨとヒナタが魔物と戦っているのと同じ頃、ヒロシたちも魔法で生じた煙に紛れて移動を始めていた。周囲では視界を奪われて戸惑う工夫たちのどよめきと、不測の事態に警戒する魔王軍兵士たちの声も聞こえてくる。ほどなくして採掘場の反対側から、騒ぎの声が聞こえてきた。別行動の二人が上手くやってくれることを祈りつつ、ヒロシたちも先を急ぐ。しばらく進んで発掘された機械が並べられている場所の近くまで辿り着いたが、さすがに兵士たちの警備が集中しており、十人ぐらいがその場に留まっていた。視界を奪う煙も次第に流れていき、敵の目を誤魔化せる時間も残り少なくなっていた。


「よし、ここまで近付ければ十分だろ。俺が先行するから、お前らは援護を頼むぜ」


 ダンは腰の剣を鞘から抜き、煙に紛れて静かに走り出す。そして近くにいた兵士の背後を取ると、素早く口を押さえながら剣で突き刺すと、すぐさま次の相手の元へ向かう。そして同じように二人目を始末したところで、異変に気付いた魔王軍の兵士が声を上げた。


「襲撃だ! 敵が紛れ込んでるぞ!」


 兵士たちが背を向けてダンを探し始めたその瞬間が、またとない絶好のチャンスとなった。ヒロシは目立たないようタマゴ型のままで連れて来たゴーレムに、ここぞとばかりに命令をした。



「今だゴーレム、魔王軍の兵隊をやっつけろ!」


 ゴーレムは瞬時に人型へと姿を変え、乾いた地面を踏み締めながら前進していく。煙の中から突如現れた巨大な影を見た魔王軍の兵士たちは取り乱し、周辺は大混乱に陥った。


「むっ」


 ゴーレムは近くにいた兵士を掴んで放り投げ、さらにもう一人を平手で弾き飛ばす。見た目には手加減しているようにも見える攻撃だが、三メートルの巨体から繰り出される威力は相当なもので、地面に叩き付けられた兵士も平手を受けた兵士も、もはや地面から立ち上がれなくなっていた。しかもゴーレムに気を取られていると、今度は煙の中からダンが忍び寄って息の根を止めに来るという挟み撃ちで、魔王軍の兵士たちは次々にその数を減らしていった。


「よし、今のうちに俺たちは機械の所へ行こう!」


 ヒロシはメリアとヤクモを連れて、煙に紛れつつ発掘された機械の元へと急いだ。並べられた古代の機械はどれも錆ひとつ無く、まるで新品のように磨かれている。そしていずれも平和利用のためとは思えないような物々しい雰囲気に、ヒロシは嫌な予感を感じずにはいられなかった。


「動かせるか分からないけど、とにかく調べてみよう」


 ヒロシは首が無い鳥のような形をしたロボットに近付き、あれこれと調べてみた。頭上には楕円の胴体らしき部分があり、ダチョウのように長い金属製の二本足がそれを持ち上げている。ちょうど目線に近い位置の関節に触れてみると、ロボットは滑らかな動きで足を畳んでしゃがみ、胴体部分が低い位置に降りて来た。横や下からは良く見えなかった胴体部分は人が乗る座席のようになっており、二人まで一緒に乗ることが出来そうだった。


「そうか、これは人が乗って操縦するタイプのロボットだな。ええと、どうやって操作するんだ?」


 ヒロシは座席に座り、正面にある小さなボタンらしきものに触れてみた。すると垂直にモニタ用の立体映像が浮かび上がり、様々な機能が表示されていた。


「ええと、なになに……起動可能、システム異常なし。操作は操縦桿とペダルのみのオートマチック……武装に機関砲と榴弾砲が一問ずつだって?」


 思った通りに物騒な表示が出てきてヒロシは苦笑したが、これを逆に利用できれば一気に決着が付けられる。ヒロシは一度鳥型のロボットから降りて、もう一体のロボットも胴体を下ろして起動の画面を表示させた。


「メリア、ヤクモ先生、このロボットは俺たちで操縦できそうだ」


 ヒロシは二人を呼んで簡単に操作の説明をする。メリアの手が塞がるのは問題があるので、もう一台の方はヤクモに操縦を任せることにした。ヤクモは興味深そうに操縦席に乗り込むと、操作パネルに目を通してからせり上がって来た操縦桿を握る。するとロボットは滑らかな動きで立ち上がり、生き物のように歩き始めた。


「なるほど、思った以上に操縦は簡単なようです。これなら勝機は十分ですよヒロシどの」


 あっという間に順応してしまったヤクモに驚きつつ、ヒロシはメリアと一緒に最初に見た方へと乗り込んだ。


「よ、よし。こっちも運転開始だ。あ、その前にシートベルトをしておかないと」

「は、はいっ」


 座席には身体を固定するベルトが用意されていたので、ヒロシとメリアは念のためにベルトの先端を金具に差し込んで身体を固定する。


「よーし、行くぞ!」


 せり上がって来た操縦桿を握り、ヒロシが足元のペダルを踏みこむと、ロボットは突然全速力で走り出した。


「うわあああっ!?」

「きゃーっ!?」


 敵のど真ん中を巨大なロボットが突っ切って行き、辺りはにわかに騒然となる。


「誰だ、古代兵器に勝手に乗っている奴は!」


 ヒロシは暴走するロボットをなかなか止められずに右往左往していたが、その目立ちすぎる行動がかえって敵の注意を引き、魔王軍は完全に統率を失っていた。



「へっ、やるじゃねえかヒロシ! これなら楽勝だな!」


 地上で兵士を斬り倒していたダンも笑いながらその状況を見ていたが、急に上空に暗く重い雲が立ち込めたかと思うと、一筋の稲妻がすぐ近くに落ちた。


「うおっ!?」


 轟音と共に無数の破片が周囲に飛び散り、頭上からパラパラと落下してくる。その場に立ち込めた砂煙が風に流されていくと、その場に真っ黒なローブを身に纏った魔導士のような風体の人物が浮かんでいた。


「なんだ、新手か!?」


 ダンは剣を構えて身構えるが、黒いローブの魔導士は彼のことなど意に介さず、騒ぎの起きた採掘場に不気味な瞳を向けて言った。


「なにやら騒がしいので来てみれば、我が兵器の採掘を邪魔する愚か者どもめ……ならば望み通り、絶望と死をくれてやろう!」


 魔導士が両目を妖しく輝かせると、それまで沈黙していた他のロボットたちがひとりでに動き始めた。ヒロシたちには見えていなかったが、ロボットの操作パネルは赤く色付き『自動殺戮モード』の文字が浮かんでいた。


「わわっ、止まれ、止まれぇぇぇっ!」


 ヒロシは揺れる操縦席で叫びながら、足元にあるもうひとつのペダルを力いっぱい踏む。するとロボットに急ブレーキがかかり、ようやく暴走は収まった。


「はあ、はあ、えらい目に遭った……メリアは大丈夫だったかい?」

「は、はい……いつ転ぶかと怖かったですけど……」


 二人でため息をついた直後、ヒロシが顔を上げると、そこはロボットに乗り込んだ場所のすぐ近くだった。しかし、地面に並べられている他のロボットたちの様子がおかしいことにすぐに気が付く。赤い表示パネルが点灯し、小刻みに振動しているのがすぐに分かる。最初に変化があったのは、並べ置かれた大砲のような機械だった。大砲の左右から内側に折り畳まれていた四本の足が飛び出し、昆虫のように地面を歩き始めたのである。それと同じように、台座に置かれた金属の球体としか言いようがないそれも、土台部分から折り畳まれていた四本足が出現して動き始めた。最後にヒロシたちが操縦している鳥型のロボットの、残り三体が操縦者がいないまま動作を開始したのである。全力で嫌な予感を感じたヒロシはすぐにその場を離れようと思ったが、ふと見た先に、歩く大砲がこちらに向かって狙いを定めているのが目に入った。


「ま、まずいっ!?」


 ヒロシは咄嗟にレバーのボタンを押した。すると鳥型のロボットは素早く足を折り畳んでその場にしゃがむ格好となった。直後、大砲のロボットが放った弾が頭上をかすめていき、背後の岩壁に命中して爆発した。


「ひええっ、このままじゃやられる、反撃しないと……!」


 ヒロシが操縦桿を傾けると、鳥型ロボットはすぐに走り出す。操作パネルにある武装の表示に目をやると、機体の前方に照準用の画面が広く展開された。


「よ、よく分からないけどこれで狙えばいいんだな。くらえっ!」


 ヒロシは砲撃を行ってきた大砲ロボットに照準を定め、操縦桿のトリガーを引く。すると鳥型ロボットの胴体に格納されていた左腕のような部分がせり出し、一発の砲弾を発射した。砲弾は狙い通りに命中、爆発し、脚が吹き飛び半壊した大砲型のロボットは動かなくなった。


「やった、命中したぞ! メリア、今の見てた!?」

「やりましたねヒロシ様、すごいです!」


 ヒロシとメリアは無邪気に喜んでいたが、その直後、激しい揺れが二人を襲う。残っていたもう一体の大砲ロボットが、ヒロシたちの乗る鳥型ロボットの片脚を撃ち抜いていたのだ。バランスを保てなくなった鳥型ロボットは、そのまま真横に倒れ込む。


「うわーっ!?」

「きゃあっ!?」


 激しい衝撃と共に地面に叩き付けられた――かと思いきや、ヒロシとメリアはシートベルトで身体を固定していたため、投げ出されずに無事であった。ヒロシはベルトを外して座席から降り、メリアに声をかけた。


「痛てて……シートベルトしておいてよかった。メリア、大丈夫かい?」

「な、なんとか無事みたいです。でも、ベルトの金具が歪んでるみたいで……」


 ヒロシも一緒になって金具が外れないか試したが、衝撃で歪んでしまった部分は動きそうになかった。そうしているうちにも二発目でトドメを刺そうと、大砲ロボットの砲口が彼らの方を向いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ