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転生しても無能でした  作者: 抹茶ice
第三章 北の辺境
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第十八話 採掘場での戦い(2)


 翌朝、十分に休養が取れたヒロシたちは例の採掘場へと向かった。村のさらに北、険しい渓谷地帯を一時間ほど進んでいくと、露天掘りの鉱山が見えてきた。そこは比較的新しい場所のようで、最近まで作業が行われていた形跡がある。魔王軍たちが作業をしているのはここから更に奥の方ということで慎重に進んでいくと、次第に岩や土を削る音が聞こえてきた。


 近くの岩陰に身を隠し、そっと様子をうかがってみると、直径二百メートルくらいはありそうなすり鉢状の採掘場に、武器を持った魔王軍の兵士と発掘作業をさせられている工夫たちの姿が目に入った。工夫たちの数はざっと見て六十か七十人くらいは居そうだが、武器を持った魔王軍の兵士と、周囲を巡回するようにうろつく魔物に見張られ抵抗は難しそうな状況である。そして、すでに採掘が終わったであろう奇妙な機械が、採掘場の中腹辺りにずらりと並べられていた。それらは表面の材質や質感は銀色の金属製であり、形はゴーレムのような人型ではなく、足が長く首のない鳥のような姿をしたものが六体、大砲のようなものが二体、台座の上に球体が乗っかったようなものが二体であった。


「あれが掘り出された古代のロボットか。ゴーレムとは違うけど、どう動くのか想像できないな」


 呟きながらヒロシが別の方向へ目を向けると、大きな鉈のような刃物を手にしたトカゲ人間らしき怪物が見えた。


「な、なんだあれ……リザードマンってやつか?」


 リザードマンとは名前の通り、人間とトカゲを掛け合わせた魔物である。動物と人間の要素が混じっているという点ではヒナタやツキヨと共通しているが、リザードマンはより見た目がトカゲそのものに近く、凶悪そうな雰囲気を醸し出している。それが四匹と、巨大で赤い毛並みをした犬のような魔物も同じく四匹おり、採掘場の中を歩き回って工夫たちに睨みを利かせている。


「これは……思ったより厄介かもしれません。特にあのトカゲ人間と犬の魔物は獰猛で、私とヒナタで連中を引き付けておかないと危険です。そうなると残りをヒロシどのたちに任せることになりますが」


 同じように状況を観察していたツキヨは表情こそ変えていないが、その両眼は鋭く魔物たちを睨んでいる。ヒロシはその気迫に押されて同じように採掘場の方を見ていたが、しばらくして言葉の意味に気付いた。


「えっ……二人抜きで二十人の兵隊を……俺たちだけで?」


 前に出て戦えるのはゴーレムとダンの二人だけ、メリアの魔法もあるとはいえ、ヤクモとヒロシは白兵戦の戦力として数えるには厳しいものがある。これで二十人の魔王軍兵士を相手にするのは、単純な人数差で厳しいと言わざるを得なかった。


「だからってこのまま引き返すワケにゃいかねえだろう。こいつは愉快なパーティになりそうだぜ」


 低い声でそう言うダンではあったが、やはり状況を理解し表情には緊張の色が見える。


「そんな無茶な……ヤクモ先生、なにかいい作戦はないんですか?」


 すがるようにヒロシが言うと、ヤクモは発掘された古代兵器をじっと見つめたまま答えた。


「発掘された古代兵器ですが、あれを上手く利用できれば勝機があるやもしれません。ゴーレムを見つけた時、戦いで故障したゴーレムはヒロシどのを主と認めることで再び起動していました。仮にあれらの機械が動くのだとしたら、同じようにすれば味方に付けることが出来るかもしれません」

「そ、そうか、その手があった。見たところまだ起動してないみたいだし、一か八か賭けるならそれしかないのか」

「もちろん最悪の状況も想定しておくべきです。すでに兵器が起動済みで、敵の指令によって我々を攻撃してくる可能性も十分にあります。どんな攻撃を仕掛けてくるか分からない以上、危険な作戦であることに変わりありません」

「ううっ、やっぱりそうなるのか……」


 ヒロシはがっくりと肩を落としつつも、自分の後ろに付いて来ているタマゴ型のゴーレムに触れる。


「こうなるとお前が頼りだ、頼んだぞ」


 タマゴ型のゴーレムは言葉を発さないが、声は聞こえていたのか表面に光の筋を走らせて反応している。


「あの……皆さん、ちょっといいですか?」


 その時、じっと作戦を聞いていたメリアが声を上げた。


「私の扱える魔法に『目隠しの煙』というものがあるんです。といっても、しばらく周囲に濃い煙を出して視界を悪くするだけなんですけど……これで目くらましをしてから近付くのはどうでしょうか」


 メリア以外の全員はしばらく黙ったまま彼女をじっと見ていたが、やがて一斉に口を揃えて言った。


「「「「それだ!!」」」」


 採掘場へ攻め込む算段が決まり、それぞれが配置に移動する。ヒナタとツキヨは二人一組で左手側へ移動し、残るヒロシたちは正面から最短距離で発掘されたロボットたちの元を目指す。メリアが風上に立って『目隠しの煙』の魔法を唱えると、周囲に濃い煙が立ち込め、それはどんどん広がって採掘場を包み隠していった。視界を奪われた採掘場からどよめきが聞こえる中、ヒロシたちは放たれた矢のように飛び出していった。


「ツキヨ遅れるんじゃねーニャ!」

「ああ、分かっている! 行くぞ!」


 ヒナタとツキヨは最初に高い位置まで駆け上って採掘場の奥へ進むと、そこから一気に駆け下りて頭上から魔物たちに襲いかかった。ヒナタがリザードマンを、ツキヨが犬の魔物を一瞬で斬り倒すと、その絶命時の叫び声と周囲に広がる血の臭いによって、それを敏感に嗅ぎ付けた魔物たちが彼女たちの元へ集まって来た。


「狙い通りノコノコ集まって来たニャ。まとめて相手してやるからかかってこいニャ!」


 ヒナタはわざと大声を張り上げ、魔物たちの注意を引いて走り出す。その後をリザードマン一匹と犬の魔物二匹が追って行き、狙い通りに魔物たちの分断に成功する。残るリザードマン二匹と犬の魔物は味方の死体を気にする様子もなく、じりじりとツキヨに向かって距離を詰めてくる。


「仲間をやられても動じないか……これがお前たちの流儀か、それとも魔物ゆえか。どちらにしろ嫌な奴らだ」


 ツキヨは背中に括り付けていた槍に持ち直し、腰を低くして身構えた。犬の魔物は唸り声を上げ、一気にツキヨへと飛び掛かった。瞬きすら許されぬ猶予の中、彼女は鋭い牙が並ぶ口の中へ槍を突き刺すと、すかさず槍を手放し真横へ跳躍した。そして受け身を取りつつ地面を転がって素早く起き上がると、リザードマンが眼前に迫っていた。それを迎え撃とうと腰の剣を素早く引き抜いて振り上げた瞬間、剣を握る手にガツンと重い衝撃が走る。


「くっ!」


 リザードマンはツキヨより一瞬早く巨大な鉈を振り下ろしており、彼女はそれを剣で受ける形となった。だが武器の重さと筋力では圧倒的にリザードマンが勝っており、真正面からそれを受けるのは不可能だった。それを悟ったツキヨは手首の力を抜き、剣の角度を変えて大鉈の刃を滑らせる。金属同士が擦れ合う音が響き、火花が散る。リザードマンの怪力を受け流したツキヨは、手首を返して剣の向きをくるりと変え、リザードマンの喉元に鋭い突きを入れた。


「ガッ……!」


 喉を突き刺されたリザードマンは口から血を吐き、そのまま仰向けに倒れて動かなくなった。だが手応えを確かめる間もなく、ツキヨの脇腹に重く鈍い衝撃が走った。


「あうっ……!?」


 勢い余って吹っ飛ばされたツキヨが見たのは、もう一匹のリザードマンが丸太のような尻尾を鞭のようにして叩き付けて来た瞬間だった。その打撃は素早く重く、予想外の場所から飛んでくる恐ろしい武器に違いなかった。


「ギシャーッ!!」


 体勢を崩した彼女を見たリザードマンは今がチャンスとばかりに、大鉈を片手で持ち上げ、トドメを刺そうと何度も叩き付けて来た。ツキヨは地面を転がりながら大鉈の刃を避け続け、起き上がると同時に両足で地面を蹴って高く跳躍すると、空中でくるりと身を翻して弓を構え、素早く矢を放った。放たれた矢は空を切り裂いて一直線に飛び、リザードマンの眉間を貫いた。


「……!」


 リザードマンはうめき声ひとつ立てず、そのまま前方に倒れ込んで動かなくなった。


「ふう……やはり油断ならない奴らだ。皆も上手くやれているだろうか」


 脇腹の具合を確かめながら呟くと、ツキヨは犬の魔物に刺さったままの槍を引き抜き、混乱に包まれる採掘場の中へ飛び込んでいった。一方のヒナタはツキヨたちと十分に離れたことを確認すると、逃げるのをやめて切り出された岩の上に立って追っ手を待ち構えた。近くにはつるはしやシャベルといった道具を持ったままの工夫たちが残っていたので、さっさと逃げるように大声で伝えておいた。殺気立った魔物たちが来ると聞いて工夫たちは一目散に逃げ出し、それと入れ替わるようにして犬の魔物二匹とリザードマン一匹が追い付いてきた。犬の魔物たちはヒナタが高い場所にいるのを見るや、採掘場の斜面を駆け上って食らい付こうと迫って来た。


「おめーら犬コロはそう来ると思ってたニャ!」


 ヒナタは犬の魔物たちをギリギリまで引き付けてから飛び上がり、身を屈めてくるくると前方回転しながら低い場所に残っていたリザードマンの頭上に迫った。


「うりゃあっ!!」


 落下と回転の勢いを加えたかぎ爪の一撃が、空中に弧の軌道を描く。手にした武器で斬撃を受ける暇もなく直撃を受けたリザードマンは、頭から身に纏っていた鎧ごと切り裂かれ、その場に崩れ落ちた。だがその直後、もう引き返して来ていた犬の魔物の片割れがヒナタに向かって猛突進し、鋭い牙で嚙み砕こうと迫ってきていた。


「だから犬コロは好きになれんニャ!」


 ヒナタは近くに落ちていた拳大の石を掴み、まさに噛み付こうとしてきた犬の魔物の口に押し込む。さすがに石を噛み砕くのは難しかったらしく、その牙がヒナタに届くことは無かった。その隙を見逃さず、ヒナタは左手で犬の魔物の頭の毛を掴んで持ち上げると、すかさず喉元めがけてかぎ爪を突き刺した。角度的にそこは心臓の位置でもあり、急所を突かれた犬の魔物は声も立てず絶命した。だが、残るもう一匹はヒナタと距離を取ったまま四肢を踏ん張り、背中の毛を逆立てて唸り声を上げた。直後、犬の魔物の顔面が半分に裂けたかと思う程に口を開くと、喉の奥から灼熱の火炎を吐き出してきた。


「うわっちちち! 火を吹くとか聞いてないニャよ!?」


 ヒナタは素早く飛び退いて炎から逃れたが、わずかに髪の先が焦げてしまっていた。犬の魔物が正面を向いている間は迂闊に近付けなくなり、ヒナタは背負っていた短い弓を手にし、矢をつがえて構える。


「当たれっ!」


 雑に念じながら放った矢は、犬の魔物の頭上を越えて背後へ飛んで行ってしまう。ならばと二の矢を繰り出すものの、今度は動きを読んでいた犬の魔物が横に飛び、空しく地面に突き刺さるだけであった。


「うー、やっぱツキヨみたいに上手く当たらんニャ」


 ヒナタは弓矢の扱いが上手ではなかった。それでもいざという時のためにとツキヨに扱いを教わってはいたが、普段から己の感覚を頼りに腕を磨いてきたヒナタにとって、精密な狙いや動作というのは相性が良くなかった。仕方なく弓を放り出して身構えると、その一瞬の隙をも見逃さんとばかりに、犬の魔物は猛然と突進してきた。反射神経とスピードには自信のあるヒナタだが、そもそも身体の作りが違う動物系の相手は瞬発力が段違いであり、あっという間に鋭い爪と牙で彼女を引き裂こうと飛び掛かって来た。


「んぎっ!」


 ヒナタは咄嗟にかぎ爪で防御し爪と牙を防いだが、犬の魔物はのしかかって体重をかけ、強引に圧し潰そうとしてきた。しばらくかぎ爪越しに前足で掻いたり牙で噛みつく動作を続けていたが、途中で犬の魔物は動きを止めてヒナタを抑えつけたまま、背中の毛を逆立ててがばっと口を大きく開く。


「げっ、ま、まずい……!?」


 開かれた喉の奥は赤く光り、犬の魔物は至近距離から炎を吐き出そうとしていた。逃れようにもかぎ爪越しに前足で抑え付けられ、咄嗟に火炎の射程から逃れるのは不可能である。どんどん喉の奥の赤い光が強まる中、追い込まれたヒナタは叫ぶ。


「こんのぉ……調子に乗るニャ!」


 犬の魔物が炎を吐き出そうとしたその瞬間、ヒナタは片足で思いっきり犬の魔物の顎を下から蹴り上げた。それによって開いていた顎を強制的に閉じられた犬の魔物は、そのまま頭を真上まで跳ね上げた直後、行き場を失った炎の熱と圧力によって、頭部を真っ赤に焼いて爆発させてしまった。頭部を失った犬の魔物の身体は糸が切れたように力が抜け、ヒナタはそれを押し返し地面に転がして難を逃れた。


「ふう、危なかったニャ……たく、乙女の肌に焦げ跡が付いたらどうしてくれるニャ」


 ため息をついて身体の埃を払い、ヒナタは騒然となった採掘場に目を向ける。



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