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転生しても無能でした  作者: 抹茶ice
第三章 北の辺境
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第十八話 採掘場での戦い(1)

登場人物


ヒロシ:人間。異世界へ転生してしまった普通の成人男性

    特別な能力がなにも無い『無能』の人


メリア:木精(ドリアード)の血を引く少女。託宣の巫女の後継者と判明

    魔法使いタバサの元で修行し中級魔法を習得した魔法使い


ヒナタ:キャットリング(ネコ人)の女戦士

    かぎ爪と野生の勘で戦う明るい楽天家。口調に独特の訛りがある


ツキヨ:ラビットリング(ウサギ人)の女戦士

    剣と槍、弓を自在に操る。真面目で慎重な性格


ヤクモ:薬売りを生業とする白衣の優男。戦略に関し天賦の才を持つ

    非常に頭が良く、『無能』の転生者ヒロシに興味を持ち仲間になる


ゴーレム:遺跡の地下から出て来た古代の戦闘ロボット

     女神の手により失った機能をいくらか回復した


ダン:辺境の村で暮らしていたリーダー格の男

   外界に憧れがありヒロシたちに同行することになった


 盗賊団から保護した三人の子供のうち、二人は女の子で一人は男の子であった。見つけた時は全員が汚れた顔をしていて見分けが付かなかったが、後で顔を拭いたりしてやったところで性別が分かった。その中でも年長と思われる女の子は口調もしっかりしており、彼女たちが暮らしていた村の位置を詳しく知ることが出来た。女の子の話によれば村は砦から北の方角、山岳地帯の中ほどに位置しており、主に石炭や石材などを産出する鉱山として生計を立てているという話であった。ヒロシたちにとっては寄り道になってしまうが、子供たちを放って先を急げるはずもなく、ヒロシたちの馬車は一路北を目指して進んでいった。村までは直線なら一日くらいで辿り着ける距離だが、山岳地帯の道は路面が悪い上に曲がりくねった折り返しが多く、ゴーレムの力も借りて馬車を押したりしながら、結局三日ほどの時間がかかってしまった。


「ふう、やっと辿り着いた……思った以上に大変な道のりだったなあ」


 盗賊団の砦を出てから三日目の夕方、村の入り口で馬車から降りたヒロシは、疲れた様子で周囲の様子を見渡した。村は切り立った山沿いにあり、所々で崖を削った場所に家が建てられている場合もあり、それなりの人数が暮らしているのが見て取れた。しかし村にはあまり活気が無く、昼間だというのに表を出歩いている人間の姿がほとんど見当たらない。もう一度村の様子を注意深く観察していると、食料の入った籠を両手で抱えた、疲れた表情の若い女性が歩いているのを見つけた。彼女はヒロシたちの姿を見た途端にひどく怯え、急いでその場から走り去ろうとしたのだが、ちょうど馬車から降りてきた子供たちの姿を見た途端、手にしていた籠を地面に落として立ち止まった。


「あ、ああ……アンナ……!」


 女性は村の位置を教えてくれた少女をじっと見つめ、わなわなと震えながら近づいて来る。少女もその女性を見た途端、彼女の元へ駆け寄って抱き付いた。


「お母さん!」

「アンナ! 良かった、無事だったのね……! ごめんね、助けてあげられなくてごめんね……!」


 二人はボロボロと大粒の涙をこぼしながら、ずっと強く抱き合っていた。話を聞くまでも無く、この二人は親子なのだろう。その声を聞き付けて周囲の家から村人たちが顔を出し、状況が分かると十数人ほどの村人が集まって来て、ちょっとした騒ぎのようになってしまった。すぐに残りの二人の子供の母親らしき女性たちも現れ、それぞれに再会を喜び合っている。その光景を微笑ましく思いながらも、奇妙なことが心に引っかかっていた。集まって来た村人は全員が女性か、まだ小さな子供ばかりなのである。


(なんか変だな……)


 しばらくすると、落ち着きを取り戻した女性とアンナと呼ばれた女の子が並んでヒロシに声をかけてきた。


「話は娘から聞きました。盗賊団を倒して私の娘も助けてくださったそうで、本当にありがとうございました。本当なら村を挙げてお礼をしなければいけないのですけど……」

「ああ、いいんですよ。お礼を期待してここへ来たわけじゃないので、気にしないでください」

「そんな、恩人になにもせず帰すなんて出来ません! でも……」


 女性の口ぶりからして、どうやら事情がありそうである。奇妙に感じていることも含め、ヒロシは表情の晴れない彼女に尋ねてみた。


「さっきから気になってたんですが、この村には男の人の姿が全然見えませんね。みんなどこかへ行ってるんですか?」


 その言葉を聞いた途端、目の前の女性だけでなく周囲の村人たちも一斉に押し黙ってしまい、急に静まり返ってしまう。


「……すみません、ここではちょっとお話がしにくいので。良ければ皆さん、私の家までおいでください。詳しいことはそこでお話しします」


 女性や周囲の人々の反応に不穏な気配を感じつつ、ヒロシたちは言われるまま彼女の家へ付いて行くことにした。村の中央から少し奥まった小高い場所が彼女の家らしく、周囲と比べても一回り大きく立派な作りをしている。家の中に案内され、大きなテーブルにヒロシと仲間の六人が並んで座ると、反対側に向き合って女性と娘のアンナが腰かけた。


「自己紹介が遅れました。私はジル。この村の村長の娘です。皆さんに助けて頂いたのが娘のアンナです。どうぞよろしくお願いします」


 丁寧に挨拶するジルの横で、アンナは明るい様子で手を挙げている。本来は明るく人見知りをしない性格のようだ。彼女はお茶を用意すると言って、椅子から降りて台所の方へ行ってしまった。ヒロシは席に残ったジルに目を向け、尋ねた。


「それじゃ詳しい話を聞かせてもらえますか?」

「はい……もう一ヶ月以上も前になりますけど、この村に魔王軍の人たちがやって来たんです」

「ま、魔王軍……!」


 魔王軍がこの地にいるという事実にヒロシはぎょっとするが、女性は変わらず落ち着いた様子である


「ああ、今は大丈夫です。昼間は全員、村にはいませんから」

「そ、そうか、よかった……」

「彼らは急にやってきて、命令に従えと……逆らえば命は無いと脅されて、私たちは従うしかありませんでした。それで働ける村の男たちは全員、魔王軍に連れていかれて働かされているんです。私の父と夫も……」

「そうだったんですか、道理で男の人がいないわけだ。それで魔王軍はどんな目的でここに?」

「私も詳しくは聞かされていないのですけど、ここからもっと山奥にある古い採掘場の跡で、なにかを掘り起こしているらしいんです。なんでも古代のキカイというものらしいんですけど」

「な、なんだって!?、その話、本当ですか!?」

「は、はい。古い採掘場の跡には、それがいくつも埋まっているそうで。その発掘を男たちは無理やり手伝わされているんです」


 ジルの話を聞いて、ヒロシは嫌な汗が止まらなかった。もしゴーレムと同じような古代のロボットが無数に眠っており、それが敵に回ってしまったら大変な脅威となるのは間違いない。この状況を見過ごせば、魔王軍は発掘した古代の兵器で軍団を作り、王都へ攻め込んでくることも想像に難くない。転送装置を実際に起動して軍隊を送り込んできた前例もある以上、この事実を無視するわけにはいかなくなてしまった。


「みんな、話は聞いてたと思うけどまずいことになった。魔王軍がゴーレムと同じようなロボットを手に入れたら、手が付けられなくなるかもしれない」


 ヒロシの言葉に全員が頷き、ヤクモが口を開く。


「ええ、ゴーレムがいかに強力なのか、それは我々が一番よく知っていますから。これらのような古代兵器が敵に回るのは、できるだけ阻止しなければならないでしょう」


 ヤクモに続き、今度はツキヨが言った。


「では、採掘場にいる魔王軍の兵士と一戦交えることになりますね。ですが敵の人数も把握せず仕掛けるのは命取りになる。その辺、詳しく分かりませんか」


 ツキヨに尋ねられ、ジルは少し困ったような表情をしながらも、必死に記憶の糸を辿っている様子である。


「ええと……正確には言えませんけど、武装した兵士たちが二十人くらいだったと思います。他にも大きなトカゲや犬みたいな魔物、それに翼があって空を飛ぶ魔物なんかも何匹か一緒に連れていました。だから私たち、本当に怖くて……しかも男たちの留守を狙って、盗賊も村にやってきたりで……ううっ……」


 村は思った以上の苦境に立たされていたようで、ジルがずっと疲れた顔をしていたのも無理のないことだった。


「そのくらいの数なら勝てない相手じゃないニャ。盗賊どもは弱っちくて消化不良だったから、こっちで思いっきり暴れてやるニャ!」


 相変わらず気楽に言うヒナタに、話を聞いていたダンも思わず苦笑する。


「へっ、言ってくれるぜまったく。だがまあ、聞く限りじゃ無茶な人数差ってわけでもねえ。それにこっちにもゴーレムがある以上、全くの不利にゃならねえだろう。調子に乗ってる魔王軍の連中に、いっちょ思い知らせてやるとするか!」


 手のひらに拳を当てる仕草をして、ダンも不敵に笑う。およそ全員の意見が一致したところで、ヒロシは隣に座るメリアに目をやる。


「メリアは大丈夫かい?」

「はい。今回も私の魔法がお役に立てると思います」

「そっか、ありがとう。よし、俺たちで魔王軍を追い払おう!」


 そう意気込んだはいいが、窓の外は日が沈み薄暗くなり始めている。元々寒い地方だが、標高の高い位置にあるこの村の冷え方は一段と厳しいものがあった。


「今日は日も暮れてしまいましたし、長旅でお疲れでしょう。今夜はうちに泊まっていってください。一晩くらいなら魔王軍にも見つからないはずです」


 ジルの言う通り、ヒロシたちは村へ辿り着くまでの道中で十分な休養は取れていない。万全を期す為にも今夜は彼女の提案を受け入れ、身体を休めることにした。娘を助けてもらった礼ということもあって、用意された食事は状況を顧みれば豪華な内容であった。食事の準備はジルと娘のアンナ、そしてジルの母でもある村長の妻の三人で行われ、大きめの肉や野菜を煮込んだスープは素朴だが厳しい土地で生きるための、濃い味付けだが身体が温まり、力の付く料理だった。食事が終わるとアンナが空になった食器を重ねて台所へと運び始め、それを見たメリアが残りの食器を集めて重ねると、戻って来たアンナに手渡した。


「アンナ、お手伝いできてえらいね」


 両手で食器を抱えるアンナを、メリアは微笑みながら褒めてやる。


「これくらいは当然だもん。私だってお姉ちゃんたちに恩返しがしたいから」


 得意気な顔でそういうアンナの前でしゃがみ、目線を合わせてメリアは彼女の頭を撫でながら尋ねた。


「ねえアンナ、お父さんやお母さんは好き?」

「うん、大好き! でも今はわるい人たちが来て、いつもお母さんは悲しそうな顔してるの。それにお父さんもお爺ちゃんも連れていかれちゃって、ずっと帰って来なくて……」


 自身も盗賊に誘拐されるという恐ろしい目に遭いながら、それよりも家族の身を案じる幼い少女の姿に、メリアも悲しげな表情を浮かべる。


「大丈夫だよ。明日になったら悪い人たちは、みーんな追い出しちゃうから。だからアンナはいい子にして待ってて」

「うん、わかった」

「家族を大切にしてあげてね。もうみんなから離れちゃダメだよ」

「うんっ」


 明るく返事をして台所へ向かうアンナの背中を見送り、メリアはゆっくり立ち上がる。その様子を少し離れてヒロシは見ていたが、あえて声はかけず用意された来客用の寝室へと足を運んだ。来客用の部屋は広めの空間に暖炉がひとつ、そしてベッドが六つ並べてあるだけだったが、柔らかい床で身体を横にして休めるだけでも充分である。翌日の戦いに備えて装備や道具の確認を行った後は、旅の疲れもあり全員すぐに眠ってしまった。


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