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転生しても無能でした  作者: 抹茶ice
第三章 北の辺境
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第十七話 盗賊団の砦(1)

登場人物


ヒロシ:人間。異世界へ転生してしまった普通の成人男性

    特別な能力がなにも無い『無能』の人


メリア:木精(ドリアード)の血を引く少女。託宣の巫女の後継者と判明

    魔法使いタバサの元で修行し中級魔法を習得した魔法使い


ヒナタ:キャットリング(ネコ人)の女戦士

    かぎ爪と野生の勘で戦う明るい楽天家。口調に独特の訛りがある


ツキヨ:ラビットリング(ウサギ人)の女戦士

    剣と槍、弓を自在に操る。真面目で慎重な性格


ヤクモ:薬売りを生業とする白衣の優男。戦略に関し天賦の才を持つ

    非常に頭が良く、『無能』の転生者ヒロシに興味を持ち仲間になる


ゴーレム:遺跡の地下から出て来た古代の戦闘ロボット

     女神の手により失った機能をいくらか回復した


ダン:辺境の村で暮らしていたリーダー格の男

   外界に憧れがありヒロシたちに同行することになった


「――俺の考える作戦はこうだ。砦の正面で奴らを挑発して気を引き、その隙に両翼に回り込んだ奴らが乗り込んで三方向から同時に攻める。盗賊なんざ大半がチンピラやごろつきの寄せ集めだから、軍隊みてぇな統率が取れるはずもねえ。単純だが効果的だと思うぜ」


 木の枝で地面に簡単な見取り図を描きながらダンは自分の作戦を披露していた。本人が言うように単純な内容だが、先手を取って有利な状況に持ち込みたいのであれば、多方向から仕掛けて相手を混乱させるのが合理的ではある。


「そうですね、こちらの手勢は七名。およそ三十名ほどの集団を相手に先手を打つなら有効な策でしょう。ただし寄せ集めとはいえ武装した集団である以上、決して相手の戦力を甘く見積もらないことです。我々はこのような場所で、一人でも欠けてはならないのですから」


 話を聞いていたヤクモもダンの作戦に賛同しながら、油断しないようにと釘を刺す。他の仲間たちがこくりと頷いている中、ダンは今の言葉に不思議な顔をしていた。


「ん? いま七名つったか? ここに居るのは俺を含めて六人だろ」


 その場にいる人数を指してダンは人数を確かめるが、何度数えてもその場には六人しかいない。


「ああ、そういえばダンはまだ知らないんだっけ。目立つとまずいから、ちょっとこっちに来てくれないか」


 ヒロシは砦から見て馬車の影になる位置へダンを連れてくると、荷車の中に向かって声をかけた。


「おーいゴーレム、出てこーい」


 荷物に混じっていタマゴ型のそれは、ヒロシの声に反応して表面に無数の青い線を走らせると、床板からわずかに浮いた状態でふわふわと移動し、荷台から飛び降りてきた。


「な、なんだこいつは……?」


 ひとりでに動く大きな置物のような物を見て驚くダンの前で、ヒロシはタマゴ型の物体に向かって言う。


「ゴーレム、新しい仲間のダンだよ。元の姿に戻って挨拶するんだ」


 その言葉を聞いた途端、大きなタマゴ状のそれはあっという間に装甲を持つ人型の姿に形を変え、両目を光らせてダンを見た。身長が三メートル近くあるゴーレムが立つと頭が馬車からはみ出してしまうが、遠目からは身体が馬車に隠れ、正体がバレる心配も少ない。


「むっ」


 相変わらずそれしか発せない音声を鳴らすと、ダンは驚きのあまりあんぐりと口を開けていた。


「お、おい、なんだこりゃあ!? でけえタマゴが人みたいなバケモンに……!?」

「これはゴーレムっていうんだ。古代のロボットで、俺たちの味方だよ」

「な、なんだと……お前、どこでこんなもんを見つけたんだ」

「あーっと、それを説明すると話が長くなるから……とりあえず、ゴーレムも人数に加えて七人ってことで。ゴーレムは俺の言うことなら聞いてくれるし、すごく頼りになるんだ」


 ダンは唖然としながらもゴーレムの身体を隅々まで眺め、ついには顔を手で押さえて笑いだしてしまった。


「くっくく……わははは、こいつぁすげえ! おいヒロシ、こんな隠し玉を持ってやがったとは人が悪いぜ。だが、こいつが味方だってんなら、こんな田舎盗賊くらいワケはなさそうだな!」


 ダンはゴーレムの脚装甲を拳でコンコンと叩き、その手ごたえを確かめていた。


「よし、そのままだと目立っちゃうからゴーレムは小さくなっててくれ。後でまた呼ぶから頼んだよ」

「むっ」


 ゴーレムはヒロシの言葉に従い、再びタマゴ型に縮んで小さくなった。


「よし、そんじゃ作戦会議の続きと行こうか!」


 ヒロシとダンは仲間たちの元へ戻り、盗賊の砦を攻めるための段取りを再開した。


「よし、それじゃあ俺が考えた配置を伝えるぜ。まず正面組はさっきのデケえ奴とヒロシ、魔法使いの嬢ちゃん、それと俺の四人だ。俺たちは門の前で騒ぎを起こして盗賊どもをおびき出す。ゴーレムってヤツの図体と嬢ちゃんの魔法があれば、盗賊どもの注意を引き付けるにゃあ十分だろう。で、騒ぎに乗じてヒナタとツキヨが砦の両翼から内部に乗り込み、奴らを挟み撃ちにして掻き回すって寸法だ。人数から見て、一人あたり四、五人くらい倒す必要があるが……二人とも大丈夫だな?」


 ダンがヒナタとツキヨに視線を送るが、彼女たちに臆する様子は見られない。


「任せとけニャ。盗賊なんぞに後れを取るようじゃ、戦士なんて名乗ってられんニャ」

「ああ、病み上がりの肩慣らしにちょうどいい」


 二人とも単独行動に対する恐れはなく、気合も十分のようだ。最後に残ったヤクモに顔を向けると、ダンは続けた。


「ここまでの作戦に文句はあるかい、戦略家の先生?」

「いえ、私が口を出す部分はありませんね」

「へへ、そいつは良かったぜ。それであんたの役目だが、作戦が始まったら俺たちが正面の門を突破するから、そのドサクサに紛れて砦に忍び込んで、盗賊どもの親玉が居そうな場所を見つけておいてくれ。ヤツを取り逃がすと後が面倒だからな」

「分かりました。居場所が分かったら合図をしましょう」

「ああ、頼んだぜ。だが一人で無茶はするんじゃねえぞ。アンタの身に何かあると、作戦を立てた俺が吊るし上げられちまうんでな」

「ええ、心得ています。己の力量はよく知っているつもりですから」


 それぞれの役割が決まり、後は作戦を実行に移すのみとなった。相手が三十人程度とはいえ、武装した人間の集団に戦いを挑むという事実に身震いが止まらなかった。ヒナタとツキヨは一足先に展開し、数少ない物陰に身を隠しながら砦の両翼へと移動していった。単独行動がかえって功を奏した形となり、二人の姿は目立つことなく、無事に砦の両翼にある馬除けの杭の陰に隠れることが出来た。二人が配置に付いた頃合いを見計らい、ダンを先頭にヒロシとメリア、そして目立たないよう布を被せたタマゴ型のゴーレムが砦正面の門の前にやってきた。


「おいコラァ! 出てきやがれロクデナシども! てめぇら誰に断ってここに住み着いてやがる!」


 思わず耳を塞ぎたくなるような大声を張り上げ、ダンは砦の門に向かって叫ぶ。これだけよく通る声なら、向こう側にいる盗賊たちにもしっかり聞こえているだろう。ほどなくして門の上部にある見張り櫓に、粗野な風貌の男が姿を現した。手には弓を持ち腰に剣を差しており、見た目からしても盗賊の一員に間違いなさそうである。


「誰だテメーは。ここがどんな場所だか知ってて言ってんのか?」

「知ってるから呼んでるんだよ。ゲスな盗賊風情が空き家を借りてデカい顔してんじゃねえ」

「言うじゃねーかこの野郎。俺らにそんな口の利き方をして、どうなるか覚悟は出来てるんだろうな!」


 盗賊は持っていた弓を構えて引き絞り、矢を放ってきた。ダンが身を反らして避けると、矢はヒロシの足元に音を立てて突き刺さった。


「ひえっ……!」


 引きつった表情と共に後ずさるヒロシとは対照的に、ダンは不敵な笑みを浮かべたまま盗賊に向かって叫ぶ。


「こんなもんで相手がビビると思ってんのか三下。脅しってのはこうやるんだよ! 頼むぜ嬢ちゃん!」


 ダンがそう言うと同時に、メリアが杖を構え火球の魔法を放つ。火球は同時に三発出現し、盗賊の立つ櫓めがけて一直線に飛ぶと、爆音と共に櫓の半分ほどを粉々に吹き飛ばしてしまった。盗賊は運よく直撃を免れ、残った櫓の柱にしがみついて目を丸くしていた。


「す、すごい……! メリア、前よりずっと魔法が上達してるんじゃないか?」

「はい、師匠に教わった通りに毎日訓練はしていましたから」

「くうっ、いいなあカッコいいなあ。俺も魔法のひとつも使えれば……うごごご」


 嬉しそうに照れるメリアと、彼女を褒めつつ悔しそうなヒロシの前で、ダンは両腕を組んで大声を張り上げる。


「これで分かっただろうが! とっととお仲間でも搔き集めて出てきやがれ!」

「ぐぐぐ……舐めやがって……!」


 櫓の上にいた盗賊が首からぶら下げていた笛を吹き鳴らすと、周囲に甲高い音が響き渡る。すると砦の内側が騒がしくなり、物々しい雰囲気が漂い始めた。やがて重々しい音と共に砦の門が開くと、その向こう側には武器を手にした盗賊団が十人ほど並び、敵意を隠そうともしない顔つきでこちらを睨んでいた。


「楽に死ねると思うなよお前ら! たかが三人でこの数に喧嘩売ったこと、あの世でも後悔し続けな!」


 櫓上の盗賊がそう叫ぶと同時に、盗賊たちは雪崩を打って襲い掛かってきた。敵意を剝き出しにする盗賊たちに気圧されつつも、ヒロシはなるべくギリギリまで引き付けてから叫ぶ。


「今だゴーレム! あいつらをやっつけろ!」


 その瞬間、布を被っていたタマゴ型のゴーレムは一瞬にして三メートルほどの巨体へと姿を変え、盗賊たちの前に立ちはだかった。


「なっ、なんだあっ!?」


 突然の出来事に意表を突かれた盗賊たちは、ゴーレムを見上げて立ち止まってしまう。ゴーレムは目の前にいた盗賊を片手で捕まえると、ひょいと遠くへ投げ飛ばしてしまった。投げられた盗賊は地面に落下すると「ぐえっ」と踏まれたカエルのような声を出して動かなくなった。ゴーレムは続けざまに二人目、三人目と掴んでは投げ飛ばし、残る盗賊に向かって両目を光らせる。


「なんなんだコイツは!? これでも食らいやがれ!」


 焦った盗賊たちはゴーレムめがけて一斉に弓矢や投げナイフなどを飛ばしたり、手持ちの刃物で斬り付けたりしたが、ゴーレムの強固な装甲には全て弾かれてしまうだけだった。


「バ、バケモノだ……! いったん退却しようぜ!」


 怖じ気づいた盗賊たちは踵を返して砦へと逃げ込んだが、そのうちの一人は砦の中がにわかに騒がしくなっていることに気付いて足を止めた。あちこちから叫び声や悲鳴が聞こえ、無数の盗賊たちが訳も分からず砦の中を走り回っており、すっかり混乱した状況に陥っていた。


「ど、どうなってんだ……!?」


 騒がしくなった砦の様子を見て、ダンは口の端を持ち上げて笑みを浮かべた。


「よし、両翼の二人も上手くやってくれてるみたいだな。俺たちもこのまま押し通るぞ!」


 ダンは腰の剣を抜き、背を向けたままの盗賊を一刀のもとに斬り捨てると、そのまま門の向こう側へと突っ込んでいった。


「わわっ、待ってくれダン! 俺たちも行こう!」

「はいっ」


 ヒロシはゴーレムを先頭に、その後を付いていくようにして砦の門をくぐり、砦の中へと飛び込んだ。地面には数人の盗賊が血を流して倒れており、武器を手にした盗賊たちが慌てふためいている。ゴーレムの姿を見た三人の盗賊がすぐさま襲い掛かってきたが、そのうちの一人はダンが素早く斬り捨て、残りの二人はゴーレムの装甲に武器を砕かれ、巨大な拳でまとめて殴りつけられて吹き飛び、積んであった木箱を突き破るように突っ込んだまま二度と立ち上がらなかった。


「ううっ、どうにも見た目にエグいなあ」


 ヒロシは剣を構えながら周囲を警戒するが、幸いなことに奇襲を仕掛けてくるような相手はいなかった。その時ふと、視界の上の方に動く影を見つけて顔を上げると、砦の屋根から屋根へ素早く移動するヒナタの姿を見つけた。


「ヒナタ! 大丈夫なのか!?」

「おっ、やっほーヒロシ! こっちは余裕だニャ! アタシはもうちょい雑魚と遊んでくるから、オメーはちゃんとメリアを守ってやるニャよ!」


 ヒナタは屋根の上から手を振ると、再び向こう側へと姿を消してしまった。話しぶりからして特に手傷を負った様子もなく、盗賊相手に上手く立ち回れている様子である。その時ヒロシたちの後ろから、ひょっこりとヤクモが顔を出す。


「さて、いい具合に砦も混乱しているようですし、私も自分の仕事をするとしましょう」


 ヤクモは普段の白い服ではなく、ゴーレムに投げ飛ばされた盗賊から衣装を剥ぎ取り、それに着替えていて地味な見た目の服装になっている。これなら目立たずに砦の中を探れると言い、静かに砦の奥へと向かって行った。


「おらおら、次はどいつだ! 達者なのは口先だけかよテメェら!」


 ダンはあえて大声を張り上げ、盗賊たちの注意を引き付けている。それに逆上した盗賊が二人がかりで彼に襲い掛かるが、ダンは素早く右の一人を逆袈裟の剣で斬り、返す刀で左の相手も斬り倒してしまう。それはまさに、あっという間の出来事だった。


「つ、強い……凄いんだな、ダンも」


 ダンの太刀筋は洗練されているとは言い難いが、実戦の中で鍛えられた力強さと躊躇いの無さがあった。ヒロシはそんなダンの姿に感心していたが、それに気を取られて周囲の警戒が疎かになってしまっていた。そして、その隙を伺っていたかのように、死角の物陰から盗賊の一人がメリアめがけてナイフを振りかざし突っ込んできた。


「きゃあっ!?」


 普段は気配に敏感なメリアも周囲の喧騒に気を取られて気付くのが遅れ、魔法も間に合わない。


(しまった!)


 ヒロシは反応が遅れてしまったことを即座に後悔したが、すでに凶器はメリアの眼前に迫っている。もはや考える余裕もなく、ただ夢中で身体ごと突っ込む事しか出来なかった。


「ぐっ……!」


 腕の振りは不十分、無理やり盗賊とメリアの間に割り込むような形でぶつかる形となったが、ヒロシの構えていた剣が盗賊の腕に当たり、盗賊はナイフを持たない方の腕をだらりとぶら下げていた。


「あ、あっちに行けっ! メリアに近付くなっ!」


 ヒロシは剣を構えたまま声を絞り出すが、盗賊は痛みに顔を歪めながらもナイフを構え、引く様子が無い。ぶら下げた腕からはボタボタと血を流し、それでも近付こうと踏み出してくる。


「こっちに来るなって言ってるんだ、聞こえないのか!?」

「ぐっ……クソが……っ」


 盗賊はヒロシの言葉に従う様子がなく、敵意にまみれた顔で迫ってくる。もはやこれ以上の余裕はお互いに残ってはいなかった。


「う、うわあああああっ!」


 ヒロシは叫びながら剣を振り上げ、そして夢中で振り下ろした。刃から柄へと伝わる鈍く重い感触。やがてそれがスッと抜け、剣を振り下ろしきったヒロシは我に返る。盗賊は鎖骨から袈裟斬りの形になり、そのままよろめいて顔面から地面へ倒れ込み、二度と動かなかった。物言わぬ塊となった盗賊の身体から流れ広がり、剣の切っ先からも滴り落ちる鮮血。それを目の当たりにした瞬間、ヒロシは視界がぐらぐらと揺らぎ、眩暈を起こしてその場に膝を付いてしまった。


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