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第二十一話 ふたたび

転移三十六日目、攻略開始から三十四日目 攻略階層三十六階


 佐藤が「今日はヤツに会うような気いがする」と朝からそわそわと落ち着きがない。

 例の奴のことかとビビったが、話を聞いたら赤い帽子のほうだった。どうやら一昨日、魔法書店にあった雑誌の付録フィギュアが切っ掛けらしい。


 昨日オレたちは三十五階の攻略組だったけれど、十人組での行動だったからか、そんな気配は感じられなかったが、今日の攻略階層は三十六階。オレたちは下層討伐組なので、昨日と同じ三十五階とその下の三十四階が担当となる予定だ。


 まあ十五階と二十五階では遭遇しなかったから、何とも言えないけど、そう言われると出会っても不思議じゃないような気がしてきた。


 赤い帽子のゴブリンになるのか? オレとしては余り出会いたくはない相手だ。



 それから討伐組の皆でエレベーターで三十五階へと移動し、中村係長がスマホのライトで昨日攻略が済んだ三十五階のマップを確認、其々《それぞれ》のパーティーに巡回経路が割り振られた。三十五階の探索時間は三時間で、昼にエレベーター前で集合となる。


 佐藤が早速カバンから懐かしのトラロープを取り出して、これで絶対捕まえたるわ。と意気込んでいる。


 そしてオレと鈴木に尻取り要請が入った。しかも再現とのことだ。


 再現かよ……再現しても面白くないだろうし、それで出てくるものでもないだろうに、そこまでの執念なのか……とオレが思っていると、「ほな、いくで、最初はりんごや」と、こっちの承諾も得ずに佐藤が始めた。


 鈴木が「ごまだんご」、オレは思い出しつつ「ごま」、そして「まったけやー」と佐藤。

 そして鈴木「けーき」、オレ「きのこ」、佐藤「こんにゃく」、鈴木「くりまんじゅう」と続いた。


 確か、オレはここで色々考えて、鈴木の饅頭その他スィーツ飽和攻撃を警戒して、リソースを節約する為に「うしのにく」と答えて佐藤のツッコミが入ったはずだ。

 分かっていながら同じツッコミを二度も受けるのはいやだなあ、いっそ飛ばしてしまって「うり」にしちゃおうか? と思いつつ、イヤイヤながら「うしのにく」と答えた。


 すると佐藤が即座に「うしのにくは牛肉や、ビーフやで、なんや、東京モンは、ビーフステーキのことを、うしのにくステーキちゅうんかい。アホか。アホやろ。あと、うしも、うまも、うさぎもうーまーいーも禁止や。このドアホウが」と早口で端折はしょって来やがった。いきなり往復びんたを食らったようで、なんだかとても悔しい。


 しかしここは我慢だ。オレには次に来る佐藤の「リブロース」がある。二回のアホ呼ばわり、そしてついでとばかりに熨斗のしを付けてのドアホウ呼ばわりしたことを後悔させてやる。絶対にだ。いけずな佐藤にあほをみせたる。


 オレが仕方なくという感じで「うり」と答えると、「リコッタチーズや」と佐藤が即答した。

 あれ? そこは佐藤さん、台本と違うんやおまへんか? と思うが、すぐに鈴木がクスクスと笑いながら「ずんだもち」と答えてきた。鈴木、お前もか……


 仕方がない、「ちーず」じゃ芸がない。佐藤の二番煎じみたいなのもしゃくだ。


 流れとしては、佐藤の「てっさ」から鈴木の「さぽじら」、そしてオレの「らざにあ」でがきて佐藤の「あかいぼうし」だったから、最初が「ち」で最後が「て」で終わる言葉を考えるが、「ちょっと、まって」以外、何も思い付かない。


 暫し黙考していると佐藤が「『ちー』なんて色々あるやんか。はよせいや」と督促とくそくされてしまった。


 台本を台無しにしたことなんて、まるで無かったかのようだ。


 そこで「あ」を放棄して「ちーかま」と答えると、佐藤が「まんじゅう」と応じた。イヤな予感がした。そしてそれは現実となり、鈴木の「うすかわまんじゅう」が来た。


 ひどい展開だ。


 オレは仕方なく「うなぎ」と答える。佐藤「ぎゅうめし」、鈴木「しおまんじゅう」と、「まんじゅう」が帰ってきた。


 ここは「うなぎのかばやき」と答えたいところだが、佐藤に「けっ」とか言われそうな気がする。そこでオレは、うーとうなって、「うめぼし」と答え、佐藤は「ししとう」、そして当然のように鈴木の「うぐいすまんじゅう」が続いた。


 また「う」だ。


 オレは「うなぎのかばやき」の誘惑に打ちち、「うに」を絞り出した。佐藤が「にくどうふ」、そして鈴木は「ふようまんじゅう」だ。


 もう饅頭はいらない。饅頭怖い。


 暫しの黙考の後「うのはな」が、ちょっとしおれた状態で、オレの抽出ひきだしから出てきた。

 その後の佐藤の「なにわやさい」との答えにクレームを入れるが、あるらしい。鈴木も両手で大きな丸を作った。どうやらしおれてすらもいないようだ。

 そして鈴木の「いなかまんじゅう」だ。まんじゅうが喉に苦しい。


 オレは抽出ひきだしの裏に、その欠片かけらが貼り付いていた「うずらのたまご」と答えた。続く佐藤は「ごぼう」だ。

 ははは、鈴木ざまあ、と思ったのも束の間、鈴木はしれっと「うのはなまんじゅう」と答えやがった。


 オレの「うのはな」を「まんじゅう」にしやがった鈴木見る。


 と、オレのほうを向いて、右手に何か持っているような仕草をしてにっと笑っている。


 そうしておいて左手のエア竹串で何かを刺して口に運び、右手のオニギリらしきものを、大きく口を開けて、笑顔でパクつくパントマイムだ。


 オレは喉に押し込まれた饅頭を忘れて考える。そしてひらめき、「ういんなあ」と答えた。

 やった。饅頭地獄からの脱出だ。待望の「あ」である。


 佐藤が「あ、あーやな」と言って、ぱっと後ろを振り向きながら、「あかいぼうしや」と言った。


 やはりというか、また居た。居てくれた。

 野球帽のような赤い帽子を被ったゴブリンだ。手には棍棒の代わりに赤いメガホンのようなものを持っている。


 「待たんかいこらー」と、まだ逃げてもいないゴブリンに佐藤が突っ込んで行く。と、ゴブリンが佐藤のほうに手に持っていたメガホンを向ける。

 何? あれって武器なの? 佐藤ヤバいぞと、声を掛けようとした瞬間に「ぱん」と大きな音がした。


 佐藤は腰を抜かして、へたり込んでいる。

 辺りに白い煙が立ちこめていて、火薬のにおいがする。

「な、な、なんやねん」と叫ぶ佐藤は、どうやら無事なようだ。


 ほっとして煙の中にゴブリンを探すが居なくなっていた。

 そして床にはゴブリンの持っていたメガホンが落ちていた。


 どうやらゴブリンが手に持っていたのは特大のクラッカーだったようだ。メガホンからは、色取り取りの細い色紙が、だらりと垂れて伸びている。


 捕獲作戦は大失敗である。佐藤がゴブリンが残していった特大クラッカーを手に「ぐぎぐぎ」とうなっている。


 ダンジョン五階の時同様、その後の探索でヤツを見つけることは出来なかったのだけれど、精力的な探索を続けていた佐藤が、靴箱サイズな宝箱をダンジョンの行き止まりで発見した。

 佐藤は「ゼニや!ゼニやで!」と踊り出さんばかりの大喜び、しかし宝箱の中を確認したところ、赤い帽子を被ったゴブリンのカプセルトイと、すこんぶ一箱が入っていただけだった。


 大阪人が演技でもなんでもなく、のリアクションで大喜びした後に、「うわっちゃー」みたいな――テレビ向けでない本場の言葉? ――を、何度も繰り返し、その後も思い出したように声を上げて落ち込む姿は、本物っぽさというのか、日常の、笑いと密着した暮らしをする関西の人たちの生活感? のようなものが感じられて、オレと鈴木にはとても新鮮だった。

 鈴木と二人、ほっこりした。


 そう言えば、と、鈴木に一連の饅頭飽和攻撃について話を聞いたところ、やはり「あかいぼうし」に繋がる、「ういんなあ」の答えを期待してのことだったと分かった。そして鈴木は、最初の頃は、オレがわざとウインナーの答えをを言わないでいるのかと思っていたそうなので、バカで済まんと謝った。


 しかし饅頭は、当分見たくない。



 尚、ギルドへ帰還後、お宝の「すこんぶ」は、佐藤からあかりちゃんに献上された。あかりちゃんが大喜びする姿を見て、佐藤もすごく嬉しそうだった。

 ミニチュアゴブリンは渡辺さんが気に入り、ギルドの受け付けに飾られることとなった。

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