第十四話 新型兵器
転移十九日目、攻略開始から十七日目 到達階層十四階
転移から十九日目だというのに到達階層は十四階だ。十一階から六日間で四階層の攻略。このままだと期限に間に合わない。あの、中二の夏休みの悪夢が頭を過ぎる。
ゴブリン地獄が続くなか、何か打開策が必要だった。
そんな苦境におっさんが、朝のギルド会議で戦い方を抜本的に見直しましょう。と提案してきた。
なんでも、昔見たというサムライ映画かウェスタン映画のワンシーンから、アイデアを捻り出したのだという。
現場工事用の手押しタイプの一輪荷車、猫車(通称ネコ)の上に、片側の尖端を鋭く尖らせた、長さ一メートル半、直径十センチ位のひのきの棒を複数本取り付けたネコ車戦車に改造する。
ダンジョン通路の幅は約四メートルなので、一人で後ろから押すネコ車戦車を三から四両を並べて、一斉に通路を突貫する。
逃げ場のないゴブリン二匹はひのきの棒で消し飛ぶ。
ゴブリンとネコ車戦車操作者の間に、充分な距離が取れる。直接殴るわけではないので、心理的な負担も少なくなる。
小回りが利くから曲がり角も問題ないし、もしもの混戦でも咄嗟の運用が可能だ。
後方からの襲撃に備え、ネコ車戦車を後方用にもう二両、都合操作者が六名。
そのほかにネコ車戦車陣の中に五、六名の冒険者とチームリーダーを入れ、マッピングや警戒、脇道や突発事態に対応する。もちろんドロップ金貨も拾う。
総員十一、二名を分隊構成としたネコ車戦車分隊を創設しましょう。と言ってきたのだ。
ネコ車などと可愛いネーミングになっているが、兵器である。
迷宮ダンジョン攻略に集団兵器運用とか、オレは寡聞にして知らないが、おっさんの説明は具体的で納得のいくものだった。これは試してみる価値が大いにありそうだと思った。
但し、問題は製作費用である。
そもそも、ギルドの収入というものはない。ダンジョンへの入場料やスマホの充電料金などはないのだ。ギルトの緊急対策費は十階ボス討伐祝賀会で放出してしまった。新たに積み立てられつつはあったが、まだまだ金額的には少ない。
全員で話し合った結果、攻略組全員が無理のない範囲となる金貨二十枚を出し合い、合計四百枚を戦車隊創設の予算として、まずはプロトタイプの製作をする運びとなった。攻略組限定参加なおっさんも、山田さんや渡辺さん、その他居残り組の人たちからカンパを集め、担当分の金貨を何とか捻出したようだ。
翌日が元世界での日曜だったこともあり、ダンジョン攻略の臨時休息日に決まった。
そして、ネコ車戦車を試作機を製作することになったのだが、作業メンバーはおっさん、オレ、山田さん、渡辺さん、ホットヨガチームの山崎さんと木村さん、山下さんの七人だ。
なんか女子が多いんですけどー
男子はー こういうのでポイントを稼ぐべきなんじゃないかと、思うんですけどー などと言ってみたくなる。
池田さんはいちゃこらに忙しいらしく「工作はさ、僕の得意分野じゃないからさ」と不参加。何が得意か知りたいものだ。
井上君たち高校サッカーチームもフットサルの練習を理由に揃って辞退。サッカーボールが元中華料理店の荒物屋兼鍛冶屋で、金貨一枚で売っていたとのこと。
中村係長と中島さんのサラリーマンチームも、いやあちょっと腰の調子がね……と辞退。いや教会で完治でしょ?
書店転移の男子大学生の小川さんと百円ショップ転移の橋本さんの二人はフィールド探索。鈴木のスマホ写真の角ウサギを、今日こそ見つけると意気込んでいる。
佐藤と鈴木も裏切って、ハンバーガー女子高生、伊藤さん山本さんと、朝からカードバトルで盛り上がっている。くっそー。
物づくりは楽しい。誰かに強制されるのではなく、自分で必要だと考えて始めるのだ。
どうして作るのか? 何を作りたいのか? どういうふうな形にするのが良いのかを、いろいろと考えて、アイデアを出して、自分の手で作る。何もない状態から新たに何かを作り出すのだ。
人よりもちょっとばかり器用なことも関係しているのかも知れないけれど、失敗しても次には少し上手になっているのが分かる。
手を使って作業していると頭も回って、もっと良さそうなアイデアが出てきたりもする。
そうして自分が思っていたものとちょっと違うかな? と思えるものが出来てしまっても、やる気さえあれば次がある。
自分で一から考えて作ったものというのは、何より特別なものだ。
勿論それを誰かに誉めて貰えれば、それこそ有頂天になるほど嬉しい。それは作ったものが、自分にとって特別なものだからだ。
本来は、だれかの目を気にする必要なんてまったくない、自分だけのものなのだ。
みんなでやれば更に楽しい。とても楽しい遊びなのに、まったく勿体ない話だと思うが、ゴブリン地獄な毎日のダンジョンから、開放される久しぶりの休みなのだ。リフレッシュも必要なんだろうと思う。
そんなわけで、七人で動き出した。
おっさんが構想を山田さんと煮詰めて、渡辺さんがざっくりと「必要なものリスト」を作り、そのリストを、ハンバーガーショップ転移の女子高生、伊藤さんと山本さんの調査結果と照らし合わせて、異世界商店での販売が確認されていないものを抜き出す。
それを持って残りのみんなで異世界店舗を回り、おつかい事前調査を行ったところ、元中華料理店の荒物屋兼鍛冶屋にネコ車、ひのきの丸太(細)、固定アングルや金具など、ほとんど全ての必要部材が売っていることが判明した。
報告に帰ってみると、渡辺さんが構想図を完成させていたので、改めて皆で買い出しに行く。
一台あたりの製作費の高さに、このままでは予算が不足してしまうと、山田さんが、どこかから取り出してきて装備した伊達眼鏡(威圧+2?)のツルをクイクイ謂わせて、NPC店長相手に購入代金の値引き交渉をするが、NPC店長が無言無表情のまま、瞬きもせずに、右手のひと差し指を一本立ててゆっくりと横に振る新技? 新動作を炸裂させ、素気なく撃退されてしまう。
「せめて人間なら……それがインド人でも、華僑でも……」と、とても悔しそうだ。
それから昼食を挟んで皆で組み立てを行い、ネコ車戦車のプロトタイプ、初号機が無事完成した。製作費は金貨百六十枚だったようで、予算的に三両の製作は厳しそうだ。
まだ二時過ぎだったので、ダンジョンで実際に運用してみることになった。
山田さん、渡辺さんは初ダンジョンとなるが、好奇心が抑えられなかったようだ。
オレ、山田さん、渡辺さん、山崎さん、木村さん、山下さんが周辺警戒。
おっさんにネコ車戦車を実際に押してもらい使い勝手の検証を行ったところ、一両でも効果は抜群、ネコ車戦車は圧倒的な効率で、ゴブリンたちを蹂躙した。
荒物屋兼鍛冶屋で――ホームセンターのように――無料貸し出しをしていたノコギリを使って、先を尖らせたひのきの丸太(細)がゴブリンに当たってゴブリンが消える。そのままネコ車戦車の小回りを利かせて、もう一匹のゴブリンへと突っ込むと、そのゴブリンも消える。
丸太(細)の先を尖らせる必要すらなかったような感じである。
おっさんの晴れやかな笑顔に、みんなで順番に使ってみると大好評を得た。
おっさん曰く「ひのきの丸太棒(細)の刺突側を放射状に広げるのではなく、逆にちょっと狭めるという山崎さんたちのアイデアが、実に秀逸だよ」と賞賛していた。
確かにおっさんの言う通り、ゴブリンを刺突するならばその穂先は扇状に広げたほうが、一度で二匹のゴブリンに対応出来るんじゃないか? と単純に思っていたのだが、ダンジョン内での取り回しが楽だった。
取りあえずは今の予算で、もう一両分の部品は購入が可能なので、夜までにもう一両が製作されて、明日の実戦投入を、今夜のギルド会議で提案することになった。
その夜のギルド会議でおっさんが皆に、ネコ車戦車の効果と想定攻略手順などの説明をした。
その後、皆で話し合った結果、予算の都合で追加で必要となった金貨八十枚が皆から都合されて、明日のダンジョン攻略では二両での運用を行い、その間に山田さんと渡辺さんが他の居残り組の人たちと協力して、三両目を製作する方針が決まった。
また、三両目が完成した暁には、ネコ車戦車操作員三名とマップ製作担当の二名、側方後方警戒の四名、指揮官一名の十人前後で構成される攻略組と、のぼり竿武装で十一階から到達階層一階層下までのリスポーンゴブリンの討伐をする討伐組が、交互に役割を入れ替えて攻略することが暫定案として決定された。
リスポーンゴブリンは一匹での出現となり、動きが遅い。
さらには棍棒すら持っていないこともあるので、討伐組はパーティー毎に別れて巡回討伐をする感じだ。
居残り組だった男子大学生ペア、書店転移の小川さんと百円ショップ転移の橋本さんのフィールド探索パーティーも、悲願だった角ウサギとの遭遇を果たし、以後はダンジョン攻略に正式に参加することになった。
この為、編成はオレ佐藤鈴木パーティーとホットヨガ山崎さんチーム、そして中村係長と中島さんのサラリーマンコンビの十人組。
そして池田パーティーと井上君たち高校サッカーチーム、そして小川さんと橋本さんパーティーを加えた十一人組となった。
明日からはオレ達のターンだ。オレはそう確信して、久し振りに安らかな眠りに就いた。




