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第十三話 ゴブリン

転移十四日目、攻略開始から十二日目 攻略階層十一階


 十一階からはゾンビの代わりにゴブリンが出現した。


 ゾンビと違いゴブリンは必ず一枚金貨を落とす。だからドロップ率は100%、これまでの二倍になったし、開放されたエレベーターのお陰で行き帰りの移動も楽にはなったのだが、ゴブリンは悪夢のような相手だった。


 おそらく、その存在を知っている諸兄からすれば、「お前ゴブリンみたいだな」が、破壊力最大級の侮蔑語ぶべつごになるはずであろう存在。それがゴブリンという生き物なのだ。


 ゾンビのような強烈なにおいはないが、グギャグギャと小うるさい。

 小鬼と呼ぶに相応ふさわしく、身長は一・三メートルもないが、ゴブリンはそれなりに素早い動きをする。

 ゾンビ同様、ゴブリンについても頭が弱点ではあるようなのだが、流石さすがに「ぽこん」ではない。「バシン」が必要だ。


 さらにはゾンビとの戦闘のように、こちらから寄っていって「ぽこん」とするのではなく、奴らがオレ達を発見して、武器の棍棒で襲い掛かって来るのだ。


 その明確な悪意の存在がオレ達を困惑させ、疲弊させる。


 ゾンビは囲まれこそしなければ、走るどころかゆっくり歩いてでも逃げられる。という安心感があったのだが、ゴブリンはしつこい。

 話に聞くヨーロッパ中世期の徴税人のように、終わりなき欲望をたぎらせ、悪魔的な笑顔を浮かべて、問答無用とこっちの虎の子、命を刈りに来る。

 搾り取れば取るほど自分のふところが暖かくなるわけでもないのに、異常な攻撃性だ。


 そして、そんなゴブリンが二匹がペアとなって行動しているので、一匹と戦っている間にもう一匹に襲われることを考えると、ストレスは小さくない。

 トリガーハッピーになるとか言う、自称のバフ魔法が効果を発揮しているとは思えない。

「ひゃっはー」などと言いながら、ゴブリンに負けない闘争心で戦うようなバフは勘弁だが、ゴブリンと一緒に消えてしまう棍棒くらいは残しておくとか、ドロップアイテムになるとか、そういう配慮が欲しいものだと思ってしまう。


 ダンジョン攻略がゾンビの時のような一方的な戦い、掃除のようなものではなく、カサコソと逃げれば良いのに何故か掃除中にこっち目掛けて飛んでくる、同じ「ゴ」から始まるヤツ同様、危険な相手との戦いになったのである。



 そのためダンジョン探索は二パーティーでの団体行動となった。前衛組の四人が二人ひと組になって、ゴブリン一匹に対して二人で対応し、一人がゴブリンの棍棒を叩いたりして牽制しつつ、もう一人が頭をバシンするような形となるのだが、実際にやってみるとなかなかに連携が難しく、状況によってはうまく歯車が噛み合わない。


 例の奴を含め、未だ復活の実証が為されていない状況で死ぬのはイヤだ。ダンジョン神(自称)の悪辣あくらつさを知ってしまった今、誰もがその復活に対して大いなる猜疑心さいぎしんを持っていた。


 元百円ショップの魔道具雑貨店で、ヒーリングポーションの販売が確認されているので、お守り代わりに各自もしくはパーティー単位で一本持てれば良いのだが、武器などと同様に金貨五百枚だ。攻略組全体でも一本すら買うことは出来ない。


 ゲーム気分などまったくない。

 ゴブリンは出来れば戦いたくない。近づきたくない相手なのだ。



転移十七日目、攻略開始から十五日目 到達階層十三階


 十二階以降のゴブリンの同時出現数も二匹で変わらなかったのだが、ここ数日、攻略のペースが更に落ちている。

 高校サッカーチームの加藤君が、ゴブリンからの攻撃を受けて大怪我をったことが大きく影響している。


 オフサイドを気にせずに一人突っ込んだ加藤君が、ダンジョンの曲がり角に居たゴブリンにはさまれて、襲われてしまったのだ。

 すかさずパーティーメンバーの井上君、小林君、田中君、清水君らが前線を押し上げて、救援に入ったものの間に合わず、加藤君はゴブリンの攻撃を頭に受けて倒されてしまった。


 その後救出された加藤君は――自称のバフ魔法のせいか――それほど痛がる様子は見せなかったらしいが、頭から結構な量の出血があったようで、その報告をおっさんにしていた小林君の顔は青褪あおざめていた。

 教会での治療で、加藤君の頭の傷はキレイに完治したものの、攻略組の皆はこれまでよりも一層慎重に行動するようになったのだ。



 そしてゾンビと同様、ゴブリンが攻略階層より下の階層でリスポーンすることが判明した影響も大きい。

 本来であればエレベーターが使える十一階層から上では、攻略階層でエレベーターを降りて、その後は上層階への階段を探すダンジョン探索となる為、用の無くなった下層階など縁が無いのであるが、乗降階を間違えた池田さんたちのパーティーによって、下層階のゴブリンがリスポーンすることが判明したのだ。


 このリスポーンゴブリンは一匹での出現でゾンビ程ではないが動きが遅い。そして攻略階層のゴブリンと同じように、一枚金貨を落とす。

 つまり攻略階層で好戦的なゴブリンの襲撃を警戒して神経をすり減らすよりも、下の階層で、ゾンビ校生を相手にしていた時のようなイージーモードのゴブリンを討伐するほうが、圧倒的に楽なのだ。


 勿論もちろん、出現数は一匹なので、ゴブリンとの一度のエンカウントで手に入れられる金貨は半分となる一枚になってしまうが、しっかり一日ダンジョンで巡回すれば、自分たちの生活費とノルマ分の金貨は何とか手に入れることが出来るのだ。


 池田さんたちは、パーティーに女の子が三人も居るからと、早々に下層での討伐に切り替えてしまった。


 書店転移の男子大学生の小川さんと、百円ショップ転移の橋本さんの二人パーティーが助っ人として、ダンジョン攻略に参戦してくれるようにはなったのだが、ずんずんと前に向かっていればよかった十階までのゾンビ出現階層と違い、ダンジョン内でゴブリンの襲撃を常に警戒する必要が出てきた十一階からは、これまでのように一日一階層だった攻略が停滞してしまっていた。


 攻略期限のことを考えると、頭が痛い。

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