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第十一話 十階攻略

 そんなこんなでオレ達はだれ一人死ぬ(復活する)こともなく順調にゾンビの駆逐を敢行し、改めて全員で話し合った結果、ギルドの雑務などを担当してくれている居残り組な人たちにも一人一日金貨七枚が支給されるようになった。


 またそれとは別にギルトの緊急対策費も攻略組から任意でつのられることになった。こっちはギルドにプールされることになる。

 オレ佐藤鈴木の三人は攻略初日に貰ったペットボトル購入用の金貨一枚を、緊急対策費として使って貰うことにした。


 ぽこんが二回で金貨一枚ならば、もっと稼げても良さそうなものだが、ゾンビとのエンカウント率に変動があることがその理由だ。パーティーによっては、一日に百匹くらいしかエンカウントしないこともあり、攻略階層が上階に移っても、残念ながら大幅な収入増とはなっていないのだ。


 そして攻略組なオレ達は日々金貨二、三枚くらいにはなる出来高分の金貨の、その重さを持て余して、当座のお小遣い以外はギルドに預けている。

 渡辺さんが窓口になっているギルド銀行はイスラム銀行と同じく、あずけても利息はつかない。むしろ日々のノルマ分が確実に毎日引き落とされるわけだが、それなりにどうにかはなっている。


 毎日薄暗いダンジョンを攻略、ゾンビたちをぽかりと消して金貨を持ち帰る。そんなガリンペイロのような暮らしの日々でも、一日三食しっかり食べてベッドで寝る。

 野菜やビタミン不足は気になるが、そこは管理栄養士のホットヨガ転移な阿部さんのチェックが入り、元コンビニの雑貨食料品店のサラダなどを追加して誤魔化しつつ、たまにはお菓子やジュースなどの嗜好品さえ買える。

 相変わらず牛丼店の水お茶サーバーのお世話にはなっているものの、みんながひとつのチームとなって助け合う生活には妙な充実感・達成感があった。



 例の奴はどうも夜間に徘徊しているようなので、昼間の見張りを担当してもらっていたハンバーガーショップ転移の女子高生、伊藤さんと山本さんはお役目終了となり、山田さんの部下としてギルドの受け付け及びその他の業務をしてくれていた書店転移の元眼鏡っ娘属性な松本さんの同僚となった。

 二人はペアで商業店舗で販売している物と価格の市場調査なんかをしているようだ。



 書店転移の男子大学生の小川さんと百円ショップ転移の橋本さんはパーティーを組んで、ダンジョン外のフィールド探索をしている。

 スライムや角ウサギなどのモンスターは依然発見されていないようだが、その発見に掛ける熱意は相当なものだ。

 出来ればダンジョン攻略にその情熱を使って貰いたいものではあるが、二人のフィールド調査もそれなりに意義のあるものなのかも知れないので、そのまま続行されている。


 石井さんは教会にあったパイプオルガンで、あかりちゃんのオルガンレッスンをしている。時には二人で声を合わせて歌ったりと、とても楽しそうだ。


「アタシもあと十年も若ければね、聖女になってこう、ウフフのアハハなんだけどねぇ」などと、不穏なことを言っていた吉田さんは、日向ぼっこ担当だ。

 尚、吉田さんはスマホゲーマニアで、孫たちが敬老の日に買ってくれたという、りんご印の最新上位機種にゲームが満載だったため、一部の熱狂的なファンの獲得に成功しているようだ。

 日向ぼっこ仲間が大抵は居る。



 そうして徐々に探索効率が上がっていき、転移十二日目、攻略開始から十日目に十階層に到達した。



 十階は所謂いわゆるボス部屋だった。


 ゾンビバトルロワイヤル会場である。これまでのように迷路はない。中央にしか柱がない。あとは上階への階段のみ、という超高層な建築物として、非常に問題のある作りになっていた。


 そして中央の大きな柱のそばにゾンビが一匹、たたずんで居た。

 なんだろう? さり気なく気取ったポーズを取って立っているような意識を持って立っている、ひどく嫌味いやみな感じなのだが、外見上はこれまで見慣れたゾンビと変わりがない。


 しかしボス格なんだろう。油断は出来ないと皆で声を掛け合って、半円状に囲い込む。

 そして左端に居た中島さんが「中島、一番槍!」と、大音声だいおんじょうの掛け声と共に気合いを入れて突っ込むと、外周一足違った、鎧袖一触がいしゅういっそくで消し飛んだ。

 何とも呆気あっけない。呆気なく殺される為に存在していたような存在だった。


 ゾンビのトップ格のボスゾンビが消えると、電子音なファンファーレが鳴りだした。長い。


 ちょっとイラつきながら我慢して聞いていると、メロディー途中で中途半端に切れる。それから数秒間の、切なくなるような間があってアナウンスが始まった。

 昔の音声合成ような発音や鷹揚おうように違和感のある薄気味の悪い声だ。


 ダンジョン十階ゾンビ校生ボス、カワスントーヨの討伐が確認されました。と、その声が言い、また数秒間の沈黙。

 カワスントーヨというネーミングについて考え、答えを得るだけの時間があった。


 それからまた電子音なファンファーレ。無駄に長い。


 立ち寄った商業店舗で聞きたくもないBGMを聞かされ続けるような不快感がつのる。

 歌詞がないだけマシなのか? 心が段々と冷えていく。


 そして、やっとアナウンスが入った。

 討伐成功によりダンジョンの十階層以下が開放されました。一階エントランスホールの施錠が解かれ、一階から十階までのエレベーターが使えるようになります。以降は到達階層のエレベーターの下降ボタンを押すことで、その階までのエレベーター使用が可能となります。一度開放されると、誰でも利用が出来る親切仕様です。とまくし立て気味に言う。うん、こっちのほうがマシだ。早く喋れ、早くこの場を去りたいよ。と思う。


 ささやかながら十階層攻略の褒賞ほうしょうとして、本日より九日間、一階に専用の自動販売機が一台設置されます。このガチャ売機に金貨を入れて、おつりレバーを操作すると、ガチャで金貨を落とす恩寵おんちょうが与えられました。

 そして、なんと嬉しいことに毎時間(ごと)にガチャの確率が変動します。さらに金貨を追加で投入すれば、驚くべきことに確率はさらに上乗せで変動します。そう続けて言われた時、マシとか思った自分をなじった。


 ゾンビ校生たちのお陰で食に事欠くことはなくなり、武器や防具購入のためのコツコツと貯金を始めたけれど、本物のソレはあまりにも高額で、未だに無料で入手した初期装備、のぼり竿からアップグレードされていないのが現状だ。

 ゾンビには十分だったけれど、ダンジョン十一階層で通用するのかは不明だ。


 確かに金貨は何枚あっても困るものではないが、これはない。

 そもそも確率を言わなかった。「嬉しい」が変動することに対して使われているだけで、変動して確率が上がるのか下がるのかさえも分からない。

 一枚の金貨に対して、必ず金貨が一枚は落ちてくるなら、損はしないのだろうが、それすらも言わなかった。

 確率がさらに上乗せで変動? 驚くのは別の意味だろう。あからさまに詐欺的手法を使いますと、宣言しているだけなのだ。


 ダンジョン神(自称)はオレ達を甚振いたぶることに生き甲斐でも見いだしているのだろうか?

 そしてヤツにように操られている現実が悲しい。そしてくやしい。


 兎も角ゾンビの悪夢から開放されたはずだ。と無理に自分を納得させる。


 皆で順番にエレベーターを使って、無事エントランスホール経由でギルドへと帰還した後、おっさんから皆に、ガチャは金貨を飲まれるだけの可能性がきわめて高いので、禁止にはしないが、やらないことを強く推奨された。


 その後、おっさんの提案で普段は割高でなかなか手が出せない、元ハンバーガーショップの肉串――おっさんいわく、異世界と言ったら肉串でしょう――や元コンビニのフライドチキンやポテト、ジュースやお菓子なども買って、ちょっとした祝宴しゅくえんることになった。

 購入資金は、ギルドの緊急対策費だけでは不足なので、主に攻略組からつのられることとなったのだが、池田さんが気前よく金貨三十枚を出して、皆から拍手されていた。


 そんな起爆剤があったものの、祝宴にしては、すこし落ち着いた雰囲気だ。悪くいえばテンション低めだ。浮かれているのは高校サッカーチームの井上君たち五人くらいである。

 一番槍でMVPの中島さんも、なんだか普段の元気がない様子だ。


 ボスゾンビが弱かったのは果たして喜ぶべきことなのか? という疑問を皆が持ち、それについて考えることを忌避きひしているようで、ボスとの戦いの感想戦として、その弱さをあげつらうような話はついぞ出てこなかった。



 今日の成果と言えるものは、エレベーターの使用が、以後可能になったことぐらいだろう。毎日攻略階層まで行って帰っては、途中でリスポーンゾンビが出たりもして、かなりの負担だったから、それは単純に嬉しいと思うが、十階まで十日、という好調とも思えるペースでの攻略であるにも関わらず、希望は逆にしぼんでしまったような気がした。

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