まさかのまさか
悪臭に意識を持っていかれそうになる。
つい後ろを振り返り、バランスを崩した足が躓き、背中を土につける。
たまたまだが、幸運にも、敵の牙から身を守る事ができた。
空を噛み切った主は苛立ち咆哮をあげる。
「うるさーーい」
「ギョルル」
バコっと、ルコの巨大な拳がティラノサウルスの脳天を直撃する。
頭から地面に倒れ気絶する。なおも、ルコの拳が雨の様に全体に降り注ぎ、あっという間に原型を留めない肉片と化した。
「主人に手を出すと、オコだからね」
ふん、と鼻息荒く肉片に言いつける。
(いやいやルコさん。そいつはもう死んでますから)
その後はいつもと変わらず、肉片をお腹の宝石に収めていく。
けっこう重量があったと思ったが、ペロリと平らげてしまった。
肉片があった場所には、今まで見た事がないサイズの魔核が落ちていた。
「うお、これはいったいいくらするんだろう」
まだ2階層だというのに、大きな収穫となった。落とさないよう大事にしまうと、東堂さんを探した。
どうやら逃げている間にはぐれてしまったらしい。まぁ、向こうはローラがついているし大丈夫だと思うが…。
「ルコ、石遊びはやめて東堂さん達探しに行こう」
「主人がそういうなら」
心配なので、また発掘をしようとしているのを止め、来た道を戻って行った。
もしかしたら、マジックアイテムで姿を隠しているかもしれないし。
まさか、俺たちを置いて先へ行く訳もないだろうと勘だ。
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「なにやってるんですか」
見つけたと思ったら、俺が必死に逃げている間、アンモナイトもどきやしじみっぽい貝と戯れていた。
「え、なんか動いたらやられると思ってじっとしてたんだけど……モンスターが高橋くん追って行っちゃったし、暇だったからレベル上げしてたの。てへ」
レベル上げね…、モンスターが瓶詰めになっているけど、これはどういうことか説明してほしい。
まさか持って帰る気じゃないだろうな。
「私たちの非常食…のはずよ。だから、睨まないでいてあげてください」
「ルコのご飯、じゅるり」
「わかったわかった。ここは目を瞑ります。でも、非常食にラベル貼る必要ってあるんだろうか」
そもそも、生きたまま収納出来なかったんじゃ。どうやってこの量を持ち運ぶつもりなんだ。
6個の瓶詰めは両手じゃ持ちきれないぞ。
「では、高橋くんそのリュック貸してください」
「ダメですよ。モンスターを背負うなんて嫌すぎます」
「男の子が情けない事言わないの。大丈夫、瓶を壊して出てくることはないわよ…たぶん」
たぶんって、たぶんって、何かあったらどう責任とってくれるんだよ。
「絶対嫌ですから。持っていくならご自身でお持ちになってください」
「心狭いわね。レディに危険物持たせる気なの」
「やっぱり、その瓶耐久性に問題あるんですね。危険物って認めちゃってますね」
「あら、そんな細かい事気にしちゃうの。やーねー、最近の男子は」
「あんたより人生長く生きてますが。それよりも、危険物はその辺に捨ててきてください」
結果、肉片に変わったモンスターの瓶詰めをマジックポーチに収納することになった。
素材がとか研究材料がとかグチグチ言っていたけど知らん。
そもそも、研究所を退職したのに、どうやってモンスターの生態研究をするつもりだったのだろう。
実家の地下に研究室でも持っているのかと言いたい。
それからは特にモンスターの気配はない。このエリアは発掘さえしなければ、襲われない安全エリアだということが身をもって判った。東堂さんもメモを取り、俺たちは次の階層へ向け下へ降りる階段を探すことにした。
「んーー、いつまでこの長い道は続くんだ」
「全く先が見えないわね。景色も山肌が露出している代わり映えのないものだし。これは飽きる」
「主人、ここボコってしていい」
「だーーーめっ。それでさっき死にそうになっただろ?俺が」
「よわっ」
「ルコ」
ちょっと怒り気味に呼ぶと、きゃーっと先へ飛んで行った。
ほんと、たくさんご飯を食べているのに、ルコの精神年齢がローラより幼いのが心配で仕方がない。
目を離すと、また何かやらかさないかハラハラする。
と、考えていると、遠くの方で砂煙が上がる。やっぱり何かやらかしたみたいだ。
「ギョオオオオオオ」
さっきのティラもどきが可愛く見えるほど、巨大な恐竜モンスターが煙の隙間から姿を現した。
「ジュラキング…この階層のボスモンスターだわ」
「え、ここ2階層なのに、ボス出るんですか」
「出るというか、ここでは掘り当てたんじゃないかしら」
そういえば、発掘しなきゃモンスター湧かないんだった。
ってことは、ルコのやつダメって言ったのに壁壊したな。
なんて呑気にしていると、大岩がこちらに飛んできた。
「気をつけて。あのモンスター土魔法が使えるみたい」
屈むと、その頭上を大岩が通過し、ヒヤッと肝が冷えた。
咆哮を上げこちらに飛び込むソレを、ルコは尻尾を掴み抑えている。
「んー、行っちゃダメ」
ブンっと風を切り、その巨体をぶんぶん回す。
モンスターもなにが起こっているのかわからず、身体をくねらせるがどうにもならない様子。
あ、これ詰んだわーっと大岩を頭上に生み出し、尻尾を犠牲にルコの上に落とした。
その衝撃は凄く、揺れで立っていられなかった。また、なにも出来なかった。
俺はルコとの力の差に、不甲斐なさを募らせる。
ルコは戦闘妖精。主人の為に戦い、その戦果を渡すのが使命だと言っていた。
けど、俺は…
「高橋くん、アレ」
「ルコ!」
刃のように鋭い大岩がルコの腹部を貫き、地面に突き刺さっていた。




