行ってみよう。勝山ダンジョン
アルマンディンが来てから、東堂さんはダンジョン職員を辞めた。と言っても仕事の依頼を外部から受けるフリー鑑定士へと転職した。
「うーーーん。お役所仕事がなくなって、気が楽だわー」
同じジュエリードールの主人として、行動を共にすることにした。理由はドールたちの食事事情。それと、
「とは言っても、気は抜けないよね」
ガーネットという、新たなジュエリードールの情報を得た今、いつ交戦してもいい様にお互いレベル上げを図ろうとダンジョンにやって来た。
「まさか、勝山に行くとは思いませんでした」
福井県勝山市。恐竜の化石で有名な山間の市だ。
「ここも人が寄り付かない数少ない穴場ダンジョンなのよ」
穴場と言っていいのだろうか。化石発掘のため削れた岩肌を抜けた先に、入り口がポカンと出来ていた。
「寄り付かないって、ヤバイモンスターが出るからじゃないですか」
「そうだね。とびっきりのヤバイやつ」
「「ヤバイヤバイ」」
いやいや、初日から飛ばしすぎでしょ。と喉から出そうになる声も、ルコたちの楽しそうな姿を見て呑み込んだ。
まぁ、無茶さえしなければいいんだから。
うん、無茶をね。
二度目の御陀仏となった俺の装備は、また新たに進化した。クロコゲールという二足歩行のワニから取れた鱗と、サイレントスネークの牙と皮で編み込まれた胸当てだ。
ナイフも、クロコゲールの歯を魔石というダンジョンで取れた鉱石と混ぜて作りあがったモノだ。
どこに装備の資金があるかって?
資金源はジュエリードールと妙立寺ダンジョンの件で政府から頂いた、情報料と迷惑料だ。それと口止め料も含まれていると思う。
東堂さんに連れられ、とある場所へ連れていかれた。その時に目の前でジュラルミンケースを積まれたのには、冷や汗が止まらなかった。
思い出しても身震いしてしまう。
それで、得た資金を使い装備を一新した。
「ここの救助要請は5階層までみたい。とりあえずの目標は5階層までだね」
ダンジョンは常に命の危険がある。特に人気の少ない所なら、尚更救助要請の可能範囲を確認しておかなければいけない。
「それじゃあ、行きましょう」
しっかり身なりを確認し合い、ダンジョンへ潜った。
「うわっ、すごい。ここ、本当にダンジョンの中ですか? 」
「高橋くんはフィールド型ダンジョンは初めて」
見渡す限り草原だ。所々に木が点々としていて水辺もある。
「はい。まるで外にいる様な錯覚を起こしますね」
見上げれば空と見間違えるが、先には天井があるはずだ。
「そうよね。私も最初はびっくりしたわ。けど、感動ばかりしていられないよ」
背を低くし、しーっと人差し指を口元に寄せる。
俺も背を低くし、草陰から頭を出す。
「何かいるんですか? 」
「ほら、よく見てあそこ」
指された方に目を凝らすと、草陰に紛れている大型の猫がいた。
「通常のダンジョンとは違い、ああやって身を隠しながら獲物を狙うモンスターがいるの。迂闊に行動するのはおススメしないわ」
敵はこちらに気づいているのかわからないが、微動だにしない。リュックで談笑していたルコとアルマンディン……ローラに出て来てもらうよう小声で話す。
出てきた2人は大人しく縮こまり、俺たちの指示を待ってくれる。できる子で助かる。
「あれはシャークキャット。サメの様に何度も生え変わる牙が特徴で、近づいてきた獲物の喉元を的確に狙う陸のハンターだわ」
「下手に動けませんね」
「そうね。何か注意をそらすモノか、遠距離攻撃が出来ればいいんだけど……」
2人の視線がローラに向いた。
「えっ、いきなり囮ですか? 」
「ハズレだチョーップ」
「ルコ、いきなり何するです」
「ローラには扇ある。アイツの喉元を切れ」
あながち間違ってはいないが、敵の注意をそらしたり、顔面に当たるだけでいいよ。そう言いたいが、
「こうして、こう」
「ふむふむ」
ジェスチャーで指示を出している所に水はさせぬ。
「では、ローラ。主人のため初陣行って参ります」
1人距離を詰め、召喚した扇の1つを飛ばした。それに反応し、シャークキャットが飛びかかる。
「今です」
飛び出し、さらけ出した無防備な身体にもう1つの扇で斬る。お腹を中心に上と下が別れ、地面に倒れた。
「やりました。成功です」
「さすが私のローラちゃん」
見事初陣を勝利で飾り、東堂さんの激励を一身に受け止めている。
「私の指示がよかった」
「そうだな。ルコのおかげだよ」
さて、食事にしますか。と言っても2人のだ。仲良くひと塊りずつ持ち、それぞれ好きな様に吸収していく。ルコは剛拳で粉々にし、ローラは扇でみじん切りにする。
細かくした方がエネルギーとなる、魔力の吸収が良くなるそうだ。へぇー、魔力か。俺にもあるのかな。そう軽い気持ちで聞いてみたら、「粉砕すれば美味しく頂ける」と、ぞわりとした返事がきた。
「東堂さん、大丈夫ですか? 」
「ええ、大丈夫よ。ただ……アレに慣れる自信はないわ。高橋くんは凄いね。いつもアレを見ているのでしょう? 」
「いやいや、食事は基本別行動ですから。いつも見てる訳じゃありません。でも、グロ耐性はついたかもしれません」
これを見た後でも、お肉食べれるし。以前よりはそこまで、気にはならなくなった。
「「次のご飯」」
2人にせがまれたので、東堂さんの腕を引っ張りながら次の獲物に向かう。背を低くしながら歩くこの体勢はキツイ。が、堂々と歩けば格好の餌食だ。我慢して、恐る恐る進む。
また同じ獲物を見つけると、指示を出す前に飛び出したルコが飛びかかるシャークキャットの顔面を叩き落としていた。
殴られた顔は陥没しており、即死だとわかる。これもサッと2つに別れ、あっという間に吸収されドロップだけが残った。それを拾い、リュックへと仕舞う。
ここのモンスターから得られるエネルギーがどの程度かは判らない。下手したら今日は丸一日、この作業で終わるかもしれない。
そう思い、東堂さんに声をかけようとすると、すでにガスマスク姿へ切り替わっていた。
順応性が高いというか、嫌なモノに対しての反応がスピーディというか。慣れるより、遮断を選ぶ判断の速さに恐れ入ったと感心した。
自分の信念を曲げない、芯の太い子だ。




