表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独なダンジョン攻略  作者: 主食がお菓子
24/31

勝利と報酬

イミティーションドールが泡となって消え、代わりに黒い人型がルコの前に立ちはだかる。ゆらゆら揺れるそれは、ルコを包み込む様に襲いかかる。


行動を読み取っていたのか、難なくかわす。人型はそれでも飲み込もうと、大きく広がりルコを狙う。


「諦める。私は私。渡さない」


もしかして、この姿がイミティーションドールの本体なのか。そいつが、仮の姿を手放してルコを乗っ取るつもりか。


慌てて駆け出そうと足に力を入れ、その場で倒れた。


「高橋くん、無茶しないで」


地面に八つ当たりしても、何も変わらない。


「今はルコちゃんを信じましょう」


切れて血が出た手に、包帯を巻いてくれた。申し訳なさと不甲斐なさに、ただ黙って見上げる事しか出来なかった。


「媒体を失って。それでもまだ諦めない。無謀」


やがて人型は追う速度が落ち、天を仰ぐ様に散っていった。黒いモノがなくなり、宝石が1つ地面に転がった。


「終わったのか」


東堂さんに支えられながら、ルコの元へ向かう。それをタックルの如くものすごいスピードで抱きついてくる。やべ、あばら逝ったかも。


「主人、主人」


「うん、よく頑張ったね。えらいえらいしたいけど、ちょっと離れてくれないかな? そろそろもう一本骨が逝きそうなんだけど」


「主人、死ぬな」


だから、抱き締めないでーーー。 あっ




その後、救援を呼び病院へ運ばれた。今月2回目の救急車である。全治2ヶ月を言い渡されたが、次の日東堂さんが持ち込んだポーションによって傷が完治した。


「あれだけの怪我が治るなんて、本当に凄いモノね。お高いんでしょ? 」


「気にしないでください。今回の件も私のわがままから招いた事です。お詫びの品としてはまだ足りないくらいです」


前回使ったものより明らかにランクが高いポーションだと思う。宝箱からしか出ない、上級ポーションじゃなかろうか。


マジで、こいつナニモンなんだと、目が座る。だって、下手したら時価1億はするだろう。折れた骨を一瞬で治すんだからな、需要は高い。それを用意出来るなんて、どんな権力を使ったんだ。


まぁ、お陰で退院出来たし、深く探るのはやめよう。あばらの骨折は、ルコによる事故だし。東堂さんが謝る必要はなかったんだよな。


退院の手続きを済ませ、自宅に帰った。リビングに東堂さんを案内し、ソファに腰掛けテーブルにアレを置いた。


「さて、いろいろ教えてほしい事があるんだけど、いいかな? 」


ルコは、アレを手に取りぎゅっと抱き締めた。


「あの黒い人型はなんなんだ? 」


「あれはドールを造る時に用いた人間。この宝石とエネルギー、ドール本体を繋いでくれる」


「人間…だと」


思わず立ち上がってしまった。


「あの思念はイミティーションドールのモノか、この子のモノかはわからない。が、あの時あいつが言った言葉は、思念を解放し身体を乗っ取る究極魔法」


そう言って、ペタンとテーブルにつっぷす。あ、これエネルギー不足のサインだ。


「まだ、話せる」


お開きにしようかと思ったら、ルコはギギギと、顔を上げた。


「究極魔法、方法それぞれ。思念散る。残ったこれまだ生きてるかも」


それだけ言って、またつっぷした。


「生きている。今生きているって言ったの。じゃじゃあ、早くダンジョンに行きましょう! この子にエネルギーを吸わせてみようよ」


グイグイと東堂さんに押されるが、俺はさっきまでベットの上だったんだぞ。


「今からは少し遠慮し「この子の命がかかっているのよ」わかりました」


そんなこと言われたら断れないじゃんか。母さんはルコを激写中だし、渋々動きやすいジャージに着替えリュックにミキサーを詰め込んだ。


「ルコ、ダンジョンに行くよ」

「ご飯」


スパッとポケットにイン。あまりの早さに、母さんのシャッター音が遅れて聞こえた。


「あーん。惜しかったわ」


そう言って自室へ行ってしまった。おそらくパソコンで画像整理でも始まるのだろう。まぁ、それは置いといて、さっさと行きますか。


日が高くなり、眩しい。今年も暑くなるのかとげんなりしつつ、北浅井ダンジョンへタクシーで向かった。




人がいない入り口、閑散とした空間。あー、今日も閑古鳥が鳴いてるわ。ダンジョン内で大きく背伸びし、空間を腹一杯吸い込む。


ルコも真似して伸びをした後、去って行った。さて、俺もラビット探しに行きますか。


「早くラビットをミンチにしましょう」


女性が笑顔でそんな事を言うと、顔が引きつるな。いや、やる事は間違っていないが、口に出すのはまだ抵抗がある。


それからはテキパキと、ラビットを倒しミキサーにかける。以前、ルコが衰弱し目が覚めなかった時と同じ要領でこなしていく。紙皿に盛った肉の上に宝石をかざす。


「反応しませんね」


「間に合わなかったのかも」


変化のない状態に、ダメだったかと肩を落とす。それでも、あと少し、もう少しと、粘り強く待った。


あれから10分が経ったその時、


「き、きた」


薄くだが間違いなく、エネルギーが宝石に吸い込まれている。何体分ダメにしたか忘れたけど、漸く成果が出た事にホッと胸を撫で下ろした。


そのあとは、宝石がエネルギーを吸い込むのをやめるまで、ラビットを狩り、ミンチにするまで1人でこなした。


「代わるよ? 」


「いいですよ。じっとしているのは性に合わないので」


宝石をずっと持っていてもらい、俺だけ忙しなく動いた。たまに遠くでルコの衝撃音がして、食欲旺盛だなぁーと和んだ。


イミティーションドールがダンジョンのモンスターを食い尽くしたとか言っていたけど、ルコや宝石に吸わせている量を考えると、あれは嘘じゃないと納得する。


というのも、ラビットとの遭遇率が落ちてきたからだ。ラビットはどこだーー?



やっと、宝石のエネルギー吸収が終わった。はぁーと息を吐きながらその場にヘタリこんだ。こんなに動いたのはいつぶりだろう?


ルコのお陰で体力は上がったと思っていたけど、それ以上に今回はハードだった。


「このあとはどうすればいいのかしら」


「とりあえず、ルコが戻ってくるのを待ちましょう」


ドールについてはルコ頼りだ。今は休ませてくれ。仰向けに転がった。床がひんやりしていて気持ちいい。見上げた東堂さんの顔はガスマスクでわからないが、きっと呆れているな。


「ありがとう」


見上げると、ガスマスクを外し穏やかに微笑む東堂さんがいた。


「高橋くんがいてくれて。ルコちゃんに出会えてよかった。あのダンジョンで散った人たちの魂が、少しでも報われた報われた」


「なんだか照れますが、そうだといいですね」


「赤井裕二は私の年の離れた兄なんです」


「えっ」


「向こうは結婚して苗字が違うけど、私にとってたった1人の兄。その兄が消息不明になってから、もう1年ですよ。やっと、自分が納得できる結果を知れた。それだけで、心が救われた様な気がします。だから、2人には感謝しても仕切れないの。本当にありがとう」


東堂さんがあのダンジョンに拘っていた理由が、それだったのか。探索者としてとても強い人だったんだろう。イミティーションドールが現れ、人を食ったと言われるまで死を受け入れられなかった。


その胸のしこりが消え、漸く兄の死と向き合えたのだろう。


「それなら尚更、その宝石に宿る命を助けなくちゃですね」


「もちのろんだよ」


1年前は救えなかった命。


でも、今彼女の手の中には微かに息する、救える命がある。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ