絶唱と絶叫と絶望
なんだこの数は。湧き出ては押し寄せてくるシノビたち。波に揉まれルコから離される。
「主人」
「ルコ、俺の事はいい。そいつを粉砕してくれ」
「了解であります」
くそッ。シノビの身体にナイフの柄に打ち込む。一撃は無理だが、叩き込む内に鉱石が割れシノビが消えた。中には小刀で反撃してくるが、幻覚には殺傷能力がないのかダメージも傷も受けない。
が、数が多く捌ききれない内に人の波で倒れそうだ。
「キャーーー」
遠くから悲鳴が聞こえた。この声は東堂さんだ。声の元へ目を向けると、まさに波に飲み込まれる所だった。
「東堂さん! くそッ、離れろ」
身体に纏わりつくシノビを一体一体幻覚を消していく。叩き割り続けるたび、反動で手が痺れる。
それでもがむしゃらに打ち込む。
それでも足りない。足に力を入れ、前へ前へ身体を押し込み東堂さんの元へ行く。
「東堂さん、がんばれ」
シノビが小山の様に重なっている塊からは、反応がない。顔から血の気が引くのを感じる。
ジュエリードールの狙いは、数による圧迫死。もしも敵に遭遇した際、攻撃範囲外になる様壁付近にいてもらっていたのが仇になった。
「くそッ、このこの、離れろ」
少しずつだが近づいていくが、もどかしい。
「ガァッ」
急な衝撃にシノビの中に倒れた。
「やだわ。低俗の生き物はなんとも脆い」
ジュエリードールの声に身が震えた。
ルコは? こいつと戦っていたルコはどうなった??
身体を動かそうともがくも、手足がシノビに抑えつけられ身動きが取れない。
「無様ですわ。なんとも、無様な姿」
目の前に扇が。
「ルコ…は。クッ……ルコはど…した」
肺が圧迫されて、上手く声がでない。
「ルコ? あー、ターコイズ姉様の事かしら。ふふふ、わたくしの歌声で文字通り潰してあげましたわ。この様に」
そう言い、歌いだす。
「あっあーー」
腕、脚を抑えているシノビの重さが増す。
痛い痛い痛い痛い痛い。
折れる。このままじゃ骨が砕ける。振り払いたいが、全く動かせない。これが幻覚の力なのか。
「無駄ですわ。わたくしの歌声に惑わされたらそれまで。幻覚だとわかっていても、脳からの伝達は届きせんわ」
ミシッミシッと、嫌な音がする。
「この光景もいいですけど。ああー、やっぱり耐えられない。赤を、濡れた赤を見たいですわ」
シュッと頬に熱が走る。
目の前で何が起きたのか理解出来ない。
「それも裏切り者からもたらされる絶望の赤が」
俺の血が付着した俺のナイフが、埋もれていたハズの東堂さんの手の中にあった。
「と…東堂さん? 」
俺の声に反応がない。
「ふふふふふ、あはははは。あーいいわ。いいわ、その顔。その絶望と戸惑いを彷徨う歪んだ表情。最高に美味しいですわ」
グサッ
「えっ? あっ? あっあっあっ」
左手に何度も何度もナイフが刺さる。飛び散る血が俺と東堂さんを汚す。
「んふ、最高ですわ。最高に濡れてイッちゃいそう」
何度も何度も血を出す手は、感覚がなくなる。ショートした脳では、ただただ、見てる事しかできない。
涙と涎で汚れた俺の顔は無残なものだろう。
「とんだ悪趣味に反吐がでる」
途切れる意識の中、地の底より低い声を耳にした。




