怯える者と待ち受けるモノ
幻覚をかけた1体。媒体となる鉱石を投じたもう1体。少なくとも2体のモンスターが、この先に潜んでいる。
「ここは一度作戦を練り直す必要がありそうですね。地上へ帰り、出直した方が賢明な判断です」
「いや、敵の姿が確認出来ていない。作戦を考える上でも、先へ進み対象を把握するべきよ」
「何言っているんですか。前回俺たちは死にかけたんですよ。危険過ぎます」
上に戻るべきだと説得するが、
「ダメだ!! 」
「ダメ…なんだ。私のわがままで上には迷惑をかけている。今回成果を上げなきゃ……あの場にいられない」
成果……その言葉でブラック企業時代の記憶がフラッシュバックする。終わらない書類の山。限られた時間でこなすいくつもの商談。成果を上げなければ貶され、俺の居場所がなくなる。
東堂さんの姿が、あの頃の恐怖に怯える俺と重なって見えた。
「わかりました」
「え? 」
「東堂さんにはルコの件や、ポーションで治療して頂いた事。この装備を頂いたお礼があります。……だから、今回はそのお返しという形で、東堂さんについて行きます」
「ありがっ…ありがとう」
万が一何かあっても救援要請範囲内だ。それに、敵と遭遇しても絶対逃げれない訳じゃない。
大丈夫、いける。
「前は俺とルコに任せてください。東堂さんは背後に注意でお願いします」
「わかったわ」
鼻水を拭き取り、いつもの調子に戻ってよかった。テントをしまい、声が聞こえた方へ足を運ぶ。
「確かに、微かに何か聞こえる」
「そろそろ幻覚が現れると思います。警戒してくださいっ」
言ってる側から、左の壁からモンスターが飛び出してきた。これが本物なのか幻覚なのかわからない。左手に掴んだナイフで切りつけてみた。
すぅー、と刃が通り切った感触がない。
「幻覚だ」
「粉砕」
ルコの両手が幻覚を包み込む様に握り込まれる。
バギィ
あっという間に幻覚の媒体に使われた鉱石が粉々になった。
「凄い幻覚ね。モンスターにしか見えなかった」
幻覚効果の高さに、東堂さんは賞賛の声をあげる。確かにこのレベルの幻覚は、低レベルモンスターが扱えるとは思えない。
「ルコの力で潰せるので、更に奥へ進みましょう」
その後も、声のする方へ行く。近づいているのか
、だんだん声量が大きくなり、幻覚も増えていった。ルコの捌ききれない相手は、東堂さんを庇いつつ、壁に激突するよう媒体がある中心部をナイフで流す。
徐々に進んでいくと、ぽっかり拓けた大広間に出た。奥に目を凝らすと、影が見える。あれが、幻覚を使うモンスターなのか?
姿を隠す場所はない。声が幻覚作用をもたらすのなら、それを阻止しなければならない。
思うより先に、ルコが相手に飛びかかった。
ルコの剛拳を扇が防ぐ。
「お前はっ」
「やはり来てしまうのですね、ターコイズ姉様」
ルコの元へ駆け寄ると、容姿は違えど、ルコ同様ひじとひざの先がない人型がいた。
「1階層が騒がしいと思い来てみたら、あら懐かしい気配がするもの。待ち伏せしてみました」
ゆっくりと喋るその姿には光る宝石が1つ。
間違いない。戦闘妖精、ジュエリードールだ。
「そんなっ、ジュエリードール。なんで、このダンジョンに」
東堂さんの鑑定結果も、ジュエリードールと出た。ルコが感じていた気配は、コイツのモノだったんだ。
「くっ、私のスキルレベルでも種族名しかわからない。一体なんなのよ。このモンスターは」
「主人を見つけたのですね。それも非力な低レベル。ふふふ、ターコイズ姉様は物好きな方ですわ」
チラッとこちらを見たと思ったら、俺らを馬鹿にしたように高笑いをあげる。
ドゴォッ
「主人を持てない者が、主人を笑うな」
ルコの右手が、扇を殴る。が、ヒビひとつ入らない。
「腕が落ちましたの? お姉様」
「お前に姉など言われたくない」
「カッチーン。人が下手に出ているというのに、やはり貴女は気に食わないですわ」
扇がルコの右手を跳ね返す。風圧が凄い。
「貴女には、ここで退場していただきますわ」
大音量の声が壁に反響し、こだまする。ジュエリードールを中心に、幻覚であろうシノビが大量に湧いてきた。
「これ、前は手応えあった。あれはわざとか」
「ふふふ、そうよ。あらかじめ脳に刷り込ませ、幻覚をより強くする。その為に野放しにしていた餌。まさかこんな大物がかかるなんて、胸熱ですわ」
「覗き魔」
「うっさいわね。大人しく沈んでなさい」
溢れ出すシノビが、俺たちに襲いかかった。




