眠るルコ
「知らない天井だ」
気がついた時は、真っ白い部屋中でベットに横たわっていた。
「日向、ルコちゃんを危険な目にあわせてっ。この親不孝者」
「ふべぇっ」
母さんから強烈なビンタを受けた。
「痛いじゃない。なんでこんなにも顔のお肉固くなっちゃったの」
レベルの所為だと思います。
「ここは? 俺ダンジョンで意識を失ったはずだけど」
「ここは市立病院の1人部屋です。高橋くん、この度は私の軽率な判断であなたを危険な目にあわせたこと……探索者を守る者として大変失礼いたしました」
東堂さんが涙を流し、俺の手を掴む。
「温かい。よかった」
そう言って綻ぶ彼女の目元にはクマが薄っすらと浮かんでいた。
「日向、あなた3日も目を覚まさなかったのよ。どれ程心配したか分かっているの」
「3日!! 身体が怠いわけだ。それより、ルコは? ルコはどこにいるんだよ」
「ルコちゃんは別室で安静にしてるわ。東堂さんがポーションをいくつも提供してくれてね、まだ目を覚ましていないけど、傷は良くなっていたわ」
そっか……よかった。
「ただ、手や足がどうなっているのかわからない状態なの」
手、そうだった。ルコの身体はもともとひじ、ひざ下がない。いつも彼女が意識して空間から出しているのだった。
「ポーションのあまりは持っている。今すぐにでもルコちゃんの元へ行ってあげて」
点滴を支えに、ルコの病室へ向かう。俺は背中に大量の切り傷や刺し傷、打撲があったがポーションで傷は塞がった。たが、ポーションは傷跡を消す効能はなく、痛々しい跡が残っている。
そう東堂さんに言われ謝られたが、
「ルコを守った勲章だから気にしないでください」
と返した。
母さんも、そこまで気悩むことはないと東堂さんを励ましている。
部屋に着き入ると、ルコが横たわっていた。その目は未だ閉じ、生きているのかわからない程微動だにしない。本来のドール…人形のように静かにそこにいる。
「ルコちゃん、日向が来てくれたわよ。あなたも早く目を覚ましてちょうだい」
優しく頬をさすりながら、母さんが呼びかける。が、ルコは反応を示さず重い空気が漂う。
「ルコ、ルコ起きろ。ダンジョンへ行こうよ、ご飯食べたいだろう」
俺も声をかけるが反応はない。【ダンジョン】この言葉にすぐ飛びついてくるルコからは、想像もしない静かさだ。「ご飯」といつもリュックから飛び出していたのが、嘘のようだ。
「東堂さん、ルコは3日間ずっとこの状態なんですか? 」
「えぇ、ポーションをかけ傷も体力も回復したと思うわ。だけど、それだけ」
ということは、ルコはずっとご飯を食べていない。
「もしかして……エネルギー不足? 」
「どういう事? 」
「以前ルコの食事事情を話しましたよね。実はあの日、ルコはご飯を食べていない。その前にモンスターにやられ、俺が庇ったから、一度もエネルギー吸収を行なっていないハズです」
もし、ルコがエネルギー不足によって眠りにつくスリープ状態ならば、エネルギーを供給すれば起きるかもしれない。
「何をあげればいいの? 今からうちに戻って作ってくるわ」
「いや、母さんは無理だよ。ルコのご飯は、その……モンスターのミンチから吸収できるものだから」
静寂が訪れる。
「日向……あんたルコちゃんになんてもの食べさせているのよ!」
「ふべらっ」
また強烈なビンタを食らった。そして悶絶する母さんを見る。俺の顔の強度を忘れたか。
「では、私は今からダンジョンに潜りミンチ肉を回収してきます」
「いや、待った。それは無理だ」
「なぜっ、………ドロップ化現象ですね。見落としていました」
モンスターのサイズによってドロップする時間が異なる。東堂さんが持ってこようとしたラビットは、ミンチ肉に出来てもその後1分と待たずにドロップ化される。東堂さんも知っている情報だけど、頭から抜けるほど気持ちが切羽詰まっていたのだろう。悔しそうに唇を噛んでいる。
「持ってくるのではなく、ルコをそこへ連れて行きましょう」
「あんた、また馬鹿なことを」
「母さんは黙ってて。大丈夫、行くのは北浅井だよ。あそこのラビットで試してみる」
「念のため、私もついていくわ」
ということで、院長を説得し退院をした。その足でダンジョンへ向かった。
「さぁ、行こう」
ルコを背負い、ラビットを目指す。
「あの、1つだけ教えてくれませんか? 」
「いいけど、なにを? 」
「どうして俺たちにあのダンジョンを進めたんですか? 東堂さんの情報網なら、あそこのダンジョンがどれほど危険か耳にしているでしょう? 俺はレベルが上がっていたから、1階層ならイケるかもって軽い気持ちで挑んでしまったけど。教えてください。なぜ、あのダンジョンを選んだんですか? 」
俺の言葉に目を開く。言いたくないのか、俯いてしまった。
「ルコちゃんなら、もしかしたらと思って」
「え? 」
「高橋くんはルコちゃんの強さを聞かされて、思ってしまったの。この子なら、妙立寺ダンジョンの事件の原因を探れるんじゃないかって。でも、蓋を開ければ私の浅はかな考えが、高橋くんたちに大怪我を負わせてしまった。ダンジョン職員失格よ」
そうだったのか、変に期待させてしまった俺にも非があるな。未知の存在であるジュエリードール。兵器になり得る可能性があるからこそ、ダンジョン攻略にうってつけだ。遅かれ早かれ、こうなってもおかしくはない。




