我慢と変化
ダンジョン内で積み上がるミンチの山。
「手加減、手加減」
「ミンチは手加減ではないぞ。粉砕剛拳を使わないで攻撃してみろよ」
バキッ
「げぇ、金具が外れた」
「主人、手加減手加減」
レベルが上がり、身体能力が変化が日常に現れてきた。それも困る形で。
「これ以上、弱い力で開けろってか。加減がわからん」
膝を着くと、板にヒビが入り、母さんにめちゃくちゃ絞られた。
ラビット相手では、一向に手加減がうまくいかないので、ビックラビットに変更した。それでも、ミンチ肉になる日々を過ごし、ルコから献上される経験値が身体に溜まっていく。おかげで、俺のレベルが凄いスピードで上がってしまい、2週間ぶりに見た鑑定鏡の前で崩れた。
そりゃ、わずか2週間でビックラビットを1人で狩れる様になったもんな。しかも素手で。
素人にはマネできない20秒狩猟。
1ビックラビットが向かってきます。
2衝突するギリギリのラインを見分け、敵の前足を掴みます。
3相手のスピードを生かし、そのまま背負い投げ。
4仰向けになったので、トドメに首を切る。
と、これが編み出した20秒狩猟の流れである。
やばい、このままだと俺が先に人間を辞めてしまう。まぁ、ルコが何もただ殴る威力が上がっただけじゃない。しっかり新しい技を習得している。でも、それがなぁ……、
「今日はよく絞れます」
「ギィ………」
モンスターを雑巾の様に捻り、体内の血を搾り尽くすとは……どうしてその方向へいった。
「ママもする」
母さんの雑巾絞りから、ヒントを得て習得したようだ。なぜなんだ。俺の【ルコが普通の使い魔にしか見えなくなったWINWIN計画】を崩されていくんだ。
いっそのこと開き直って、誰もいない階層を探し当てるか? 全国のダンジョンを周れば、いくつかありそうな気もする。
東堂さんに相談してみよう。
『え、ルコちゃんのスプラッタに磨きがかかり過ぎて、行けるダンジョンが見つからない? 』
自宅に戻り、事の顛末を説明すると、
『なるほど、ビックラビットのスプラッタはルコちゃんのスキルによるものだったのね。え? なんで知ってるのかって? 利用が少ない過疎化ダンジョンは半月に一回、センターの社員が間引きしに行くのよ。その社員が2階層の悪臭と肉片の山を見ちゃったわけ。その話が私の耳にも入ってきたの』
もう開き直って、ランク3にでも行けばーと言われる。すでに被害者が出ていた事実に、俺の苦労はなんだったのかと雫が落ちる。
俺の華麗な狩猟さばきは目撃されてなかった様で、ちょっと悔しかった。なんでも、フロアを出てすぐに悪臭にやられ、肉片を見てしまったらしい。ルコの姿は、ちょうど肉片に隠れており発見されなかった。
なので、ビックラビットの共喰いか、ビックラビットを狩るモンスターが存在するのではと噂になっていたそうだ。ルコは使い魔だし、ビックラビットをご飯にしているから強ち間違ってはいない。
「では、人気がないオススメはありますか。あ、遠方は金銭的に厳しいのでなるべく近場がいいです」
この2週間の儲けは、魔核分しか残らなかった。というのも、まずビックラビットはほぼルコが狩った。俺が倒したビックラビットは運良く見つけた生き残り。その1体分の買取金は、ボロボロになったナイフを新調した際飛んだ。
探索者専門店の武器は高いんだよ。ナイフ一本に10万取られた。とほほ。
その為、遠方に行けるだけのお金がない。移動費、ホテル代、食事代……考えるだけで財布が軽くなる。
『だったら、妙立寺カラクリダンジョンなんてどう? 県内1の死亡率を誇る、入ったら二度と出てこれない噂まで立つダンジョンよ』
ダンジョン名鑑からページを探す。
「そこ、ランク5じゃないですか」
『上位探索者にランカーも手が出しにくい、高橋くんの希望にピッタリだと思うけどねー』
死にに行けというのか。確かに、日帰りで行ける程近場で、上層でも人気がない。まさにルコの為のダンジョンだ。
「何かあったら救援来てくれますよね」
『自衛隊ダンジョン救出班なら2階層まで出せるよ』
それ以降は自力で乗り切れと。鬼だ。
『それだけランクが高いと、1階層のドロップでもいいお金になるわよ。遠征費なんて、すぐ貯まると思うけどなぁ』
……それなら無理して奥まで行かなくても大丈夫だから、行って市場に出せって事ですか。
『スタンピートがどのダンジョンで起こるかわからない。なるべく可能性がある芽は潰して欲しいのよ』
「わかりました。行ってみて死にそうならクレームつけます」
『期待してるよん』
東堂さんはルコを過大評価している。もちろん、報告相手の政府もだ。そうでなければ、死地へ行けとは言わない。それだけの力があれば出来る。そう信頼してくれているとも言えるが、命がかかっている俺としては、不満も不安もある。
「話終わった? 」
ご飯が出来たとルコが部屋にやって来た。
「なぁ、ルコ」
「なに? 」
「明日、死ぬかも知れないダンジョンに行こうと思うが……ルコはどうしたい? 」
「愚問。私は主人に従う。離れる事はない」
「わかった。ありがとう」
「当たり前。撫でる程でもない」
ありがとうの気持ちを込めて頭を撫でているのに、そっぽを向かれ凹む。でも、嫌がっていないのか、離れようとはしない。それが分かるとだんだん顔がにやける。
いつまで続けるんだ、と言われるまで撫で続けた。




