二十九、タイムリミット
河川敷へ戻ったものの、ジロウたちはどこにもいなかった。
それどころか、野良猫一匹も見当たらなかった。
あの後、捕まってしまったのかも知れない。
俺は一体・・なにをしとんじゃろうの・・
元々は、山神からフクを守るために、旅へ出たはずじゃ・・
じゃが、山神は一向に俺の中から出て行くことはねぇんじゃ。
というか・・そもそも山神・・今も俺の中におるんか・・
-----コテツ・・
あっ!山神!お前、やっぱり俺の中におったんか!
-----なにをしよんじゃ・・
なにをて・・なんなら!
-----なにがあってもの・・お前の牙は守らんといけんぞ・・
なにっ!
-----お前はまだ完全に山神になっとらんけぇ・・
俺が山神にやこ、なるて、なに言よんなら!
-----せぇでの・・フクを生かしておくわけにやこ、いかんけぇの・・
なにをっ!
-----一旦は、ええ調子じゃったが。なにを迷うとんじゃ・・
迷うて・・なんなら!
-----優しさやこ、必要ないけぇ。それとバカな人間にも優し過ぎるけぇの・・
どがな意味なら!
-----慎平もそうじゃし、神崎もじゃ。人間やこ、ろくなもんじゃねぇけ・・
神崎は根性の腐った人間じゃが、慎平は違うけに!
-----人間やこ所詮、俺たち猫族のことやこ、見世物か自己満足の対象でしかねぇけの・・
・・・
-----手前勝手に我々のことを理解した風に思い込んどるだけじゃけぇ・・。せぇで都合が悪うなりゃ殺すんじゃけぇ・・
ええ人間もおるんじゃ!慎平はそうじゃし、島の人間もみな、ええやつばかりじゃ!
-----とにかく、お前はあと少しじゃ・・
なにがなら!
-----まあええ。時間の問題じゃ・・。立派な山神になるんじゃぞ・・
なにっ!俺は山神にやこ、ならんけに!
-----お前が完全に山神になったら・・俺はお前の中から消えちゃるけぇの・・
いま、たった今、消えぇ!
おい!山神!返事をせぇぇ~!
しかし山神は、それっきり返事をすることがなかった。
俺が山神になるじゃと?
それも完全な山神て・・どういうとこなら・・
山神が俺の中から消えたら・・その時俺は「生ける山神」になってしまうんか・・
もう、俺が俺でなくなるということなんか・・
そがなこと・・できん。嫌じゃ!
俺は行く当てもないまま、人間に見つからないよう、河川敷でひっそりと生きていた。
「クロ~~!どこなんだよおお~~」
数日後、神崎が河川敷へやってきた。
俺は見つからないように、草むらに身を隠した。
「またテレビ局から電話があったんだよ~!今度は実験するんだって~!だからお前がいないとダメになるんだよ~~!」
実験じゃと・・?
山神じゃねぇが、人間いうもんは、ほんまに勝手なもんじゃな・・
「クロ~~!クロ~~!」
神崎は大声を挙げ、必死に俺を探していた。
「また人間に捕まってもいいのかああ~~!今度は迎えに行ってやらないぞ~~!」
「あの・・」
そこに慎平がやってきた。
慎平・・なにしにここへ来たんなら・・
「なに~?」
「あなた、神崎さんですよね」
「そうだけど~、それがどうかしたの~?」
「この間、テレビ観ましたよ」
「え・・あっ!そうなんだ~。観てくれたんだ~」
「あの猫、僕の猫なんですけど」
「え・・」
「僕が飼ってたコテツっていう猫なんです」
「へぇ~そうなんだあ~」
「返してもらえませんか」
「どうして~?クロはもう僕の猫だよ~」
「違います!僕の猫です!」
「なに言ってるんだよ~。クロは保健所で殺されかけてたんだよ。そこを僕が助けたんだよ~」
「え・・そうだったんですか・・。コテツ・・捕まってたのか・・」
「そうだよ~。だからもう僕の猫。それよりさ~一緒に探してくれない?」
「え・・」
「またテレビ出演するんだあ~。だからクロがいないとダメなんだよ~」
「そんなこと止めてください。コテツは見世物じゃありません」
「なに固いこと言ってるだよ~。ギャラが貰えるんだよ~。あっ、きみにも分けてあげようか?」
「なに言ってるんですか!とにかくコテツは僕の猫ですから!もう二度とテレビに出させたりしません」
「クロ~~!出ておいでよ~~!」
神崎は慎平を放って、別の方向へ歩き出した。
「コテツ~~!もしいるなら聞いてくれ!もう時間がないんだ!お前は神社へ行かなければならないんだ!あの後、ネットでまた調べたんだ!そしたらやっぱり神社へ行かなければ呪いは解けないし、解くのも神社しかないんだ!」
え・・そうなんか・・
呪いが・・
俺は慎平のもとへ行こうとしたが、脚が動かなかった。
なんでなら・・なんで脚が動かんのじゃ・・
慎平を呼ぼうとしたが、声も出なかった。
なんなら・・これは・・
そうか・・山神の仕業じゃな・・
俺を慎平と接触させんように・・金縛りをかけとんじゃな・・
くそっ・・
「コテツ~~!もうタイムリミットギリギリなんだよ!それが過ぎてしまうとお前は一生山神のままなんだよ!」
やっぱり・・
山神が言よった・・
時間の問題じゃあ言うて・・
このことじゃったんか・・
慎平~~~!俺はここじゃけに~~!
必死になって叫ぼうとしたが、やはり声が出ん・・
どがにしたらええんなら・・
すると偶然にも、慎平が俺の傍まで来た。
慎平!ここじゃけに!ここにおるけに~~!
カサカサ・・
俺は身体で草を揺らした。
「え・・風もないのに・・草が揺れた・・」
慎平は辺りを探し始めた。
「コテツ!いるの?いたら返事して!」
慎平は草という草を掻き分けていた。
「あっ!コテツ~~~!」
慎平はやっと俺を見つけた。
「コテツ!どうしたんだよ。ほら、喋ってみて!」
慎平はポケットから機械を取り出した。
「う・・」
「なに?コテツ、声が出ないの?」
俺は精一杯、右脚を差し出した。
「そうなんだ。わかった」
慎平はそう言って、俺を抱こうとした。
「シャア~~~!」
次の瞬間、俺の身体は金縛りから解放され、慎平に襲い掛かった。
「なにするんだ!コテツ!」
慎平はその場に倒れ、俺は上から覆い被さった。
「シャア~~!」
そして牙を剥き出し、慎平を威嚇した。
「コ・・コテツ・・」
「フゥーー!シャア~~!」
「コテツ・・。あ・・そうか・・山神に操られてるんだな・・」
「二度と俺に近づくな!俺は山神として生き抜いてやるんじゃ!」
「わかった。だからどいてくれないかな」
「俺を連れ去ろうとしたら、殺すけにの」
「え・・」
「俺はフクを殺すまで、死ねんのじゃ・・」
「そのフクだけど・・もうとっくに死んじゃったよ」
「えっ!」
「だからもう・・お前が山神でいる意味なんてないんだよ・・」
「し・・死んだんか・・フク・・」
俺は全身の力が抜けていき、慎平の上から下りた。
「だから早く呪いを解いて、元のコテツに戻らないとね・・」
そう言って慎平は起き上がった。
「死んだて・・なんで慎平が知っとるんなら」
「ネットで見たんだよ。島ねこの動画」
「ほう・・か・・」
「それよりさ、一日も早く神社へ行かないと、もう時間がないんだ」
「・・・」
「コテツの中にいる山神さん!フクはもうこの世にいない。だからコテツが山神でいる意味なんてないんだ!あなたは成仏することが幸せなんだよ」
「・・・」
「知ってるかい?山神さん。このままコテツが山神になってしまったら、あなたは成仏できないんだよ。ずっとずっと地獄で辛い日々を送らなきゃいけないんだ。コテツをこんな目に遭わせたあなたを、神様は許してくれないんだよ」
「・・・」
「亡くなったご先祖様には会えないんだよ。たった一匹で苦しみに耐えなきゃいけないんだ。それでもいいのかい?」
「ニャオオオ~~~~!」
俺は独りでに大声を挙げて鳴いた。
「コテツ・・僕と一緒に神社へ行こう」
そう言って慎平は、優しく俺を抱き上げた。
「慎平・・」
「前にも言ったけど、新幹線ならあっという間だからね」
「フク・・死んでしもうたんか・・」
「うん・・」
「ほうか・・死んでしもうたんか・・」
俺はつくづく・・この旅が無意味だったことを痛感していた。
フク・・なんで死んだんなら・・
俺を置いて・・死んだんなら・・




