第七十六話 お引越し
「でも、お引越しとは言ったものの、どこに引っ越しますか?」
ずっと宿に泊まらせるわけにもいかないし、まずそんなお金が無い。さすがに女の子1人を野宿させるわけにもいかないし、可愛い容姿をしているから、危険が多すぎる。と、う~んといい考えが浮かばず、唸り声をあげる。
「少しの間、討伐依頼を受けて稼ぐか?」
「でも、それじゃあ根本的な解決にはならないんですよね。」
私としては、美月が自力で生活できる環境を作るのが目的ですからね。拾った以上、最後まで面倒を見るのが大人の役目です。でも、美月をじっと眺めて私は悩んだ。美月の実力は弱いわけでは無い。強いわけでも無いけど、ちゃんとした訓練とかやらせればもっと伸びるだろうし、プラス要素は割とたくさんある。それに努力もちゃんとしていたし、普通に良い女の子って感じの子だ。
だからこそ、ちゃんとした生活を提供してあげたい。
「美月は、何かこういうことやりたい。とか希望があったりするのか?」
「う~ん、やっぱりファンタジーの世界に来たんだから討伐はしたいかな?でも、あんまり強いのに挑むのは無理だと思う。」
その問いにやっぱりか、と私はさらに悩んだ。
「取り敢えずギルドに行ってみましょうか?マスターに情報を聞いてみましょう。」
「そうだな。」
私たちでいい案が出せないなら、他の人に聞いた方が良いでしょう。そう思い、急ぎ足でギルドに向かった。
「マスター!」
「おう、アクアか今回は何だ?」
「此奴の事でなちょっと相談したいことがあるんだ。」
「嬢ちゃんが?」
美月は当の自分が置いてけぼりで、話がドンドン進んで行って混乱している様子だった。あわわと見ているこっちが焦ってきた。
マスターに事情を話すと、ある提案を出してきた。
「誰かとチームを組むか、弟子入りするかだな。」
「「弟子入り?」」
前者は分かるけど、後者の方は全然聞いたことが無い。どういう意味なんだろう?と首を傾げると、マスターは丁寧に説明を始めた。
「弟子入りってのはその名の通りだ。自分の能力や技を継承したい奴らが、偶に募集の紙を張り出してるんだよ。」
マスターが後ろを見て見ろと促すので、私たちは後ろを振り向いてみる。依頼書の近くに弟子募集中という張り紙が沢山あった。
「ただし、相手もおふざけで募集しているわけじゃねえんだ。自分の学びたいものがあって、相手もそれを継承したいと思ったら、弟子入りが認められる。まあ、見ていくだけでも何か分かることはあるだろ。」
マスターの言葉を私たちは黙って聞いていた。そう言う事は私にも経験があった。料理を学ぶときに本だけの知識では足りなくて、専門学校に行こうとしたり、料理教室に行ったこともあった。けどそれとは逆に、私の料理を食べて、私に料理の教えを乞う人がいた。その時のことを思い出すと、マスターの言いたいことがよく分かった。
「ちょっと見てくる。」
そう言って美月はボードの方に小走りで向かった。
「弟子入りか。」
「アクアさんも、やっぱりそう言う経験ありました?」
「前にちょっとな。でも今んところだと、生きるか死ぬかの瀬戸際だったしな。生まれたらまず、食料の手に入れ方と、戦う術を身に着けた。あとはひたすら実践。」
ため息交じりに語られた内容に、私は思わず口を閉ざした。やっぱり危険な世界なんだと、改めて実感させられる。美月にはこんな気持ちは体験してほしくないな。と考えながらも、同時にそれは不可能なんだろうけど、と考えた。
この世界は本当に危険が多すぎるから。
「なあ、あたしこの人に会ってみたい。」
美月はそう言って一つの紙を持ってきた。私とアクアさんは美月からその紙を見せてもらうと、そこには鍛冶師と書かれた文字と、隻眼の紅い髪の女の人の絵が描かれてあった。
美月の持ってきた紙を見て、私たちは納得の声を漏らした。剣を作った時でさえ、あんなに楽しそうな顔をしていた。そのことを考えると、学ぶ分野は美月の得意なものでもあるし、思い入れもあるんだろう。
「いいんじゃないか?」
「やっぱりそう思う!?」
アクアさんの言葉に、美月は嬉しそうな声を上げた。紙を握り締めて幸せそうな表情を浮かべている。
「なら早速行ってみるか?」
「うん!」
「そう言えば私、鍛冶師と言う職業の方に会うのは初めてですね。」
嬉しそうに笑う美月を眺めながら、そんな風に話した。
そしてギルドから歩いて数分の近いところにその鍛冶師の拠点が聳え立っていた。




