第七十五話 疲労
「ハアッハアッ」
「そろそろ休憩にしましょうか?」
「休憩と言っても、俺たち何にもしてないけどな。」
結局あの後、美月は一人でコーンラビットの群れを四つほど制覇した。数で言うと数百匹と言う数を討伐したんじゃないかと思います。美月は絶対育成ゲームとか好きそうな子ですよね。
「ところで、後何匹討伐すればいいの?」
「え?」
「は?」
いや、普通に数匹討伐しただけで終わりですけど、あれだけ倒しておいてまさかまだ足りないと思っていたんでしょうか?
「何言ってんだよ。もうとっくにノルマ達成してるけど。」
あっけらかんとアクアさんが言うと美月はその場に崩れ落ちるように倒れこんだ。
「終わってたんなら、終わったって言ってよ!?あたし、てっきりまだ終わってないと思ってたんだけど!」
美月の嘆きに私とアクアさんは揃って苦笑いした。寧ろあれだけ倒しておいて、まだ足りないと思ってたのか!?でも、初心者にしては根性ありますね。私も初めて討伐に行ったときは、結構心配でしたけど、まあ、終わり良ければ総て良しってところですね。
「それじゃあ帰りましょうか?」
「おう!」
「え!?休憩は!?」
美月の驚く声を無視して、そのままギルドに行って報告した後にお城に帰りました。美月はお城に到着するまで、まだ休憩しないの!?と叫んでいましたが、叫び続けていられるうちはまだ大丈夫かな?と判断して、行ったらお城に着いたってだけなんですけどね。
お城に着いた途端
「やったー!」
と叫んで自分の部屋まで走っていくところを見る辺り、中々体力のある子ですね。と私は感心した。でも、そろそろ自立できるくらいに成長させるか、どこか別の拠点を作らないと美月の命が危ないですね。と私はため息をついた。
「拠点を何処にするかですよね?」
「その前に、トルテ達に説明しなくていいのか?」
アクアさんのその言葉に、私はまだルイさんとノエルさんとロランさんの三人にしか事情を話していないんだった。と思い出した。
「でも、流石にこう、何日も経過しているとトルテさんは確実に気が付いてますよ。」
「ああ。」
アクアさんは若干青ざめて呟いた。
「もし、俺たちがいない時にトルテに遭遇したりしたら、美月は殺されるんじゃないか?」
「……。」
その問いに、それは無いですよ。と否定できない自分がいた。私たちは無言で美月さんの部屋に向かって走った。
「ふんふん。」
美月が剣を改良していると、コンコンと部屋をノックする音が響いた。美月は躑躅かアクアが来たのかな?と部屋を開けた。するとそこには無表情で冷たい視線を美月に向けているトルテの姿があった。
「ひっ!?」
あまりの冷たい表情に美月は悲鳴を上げた。
何これなんか怒ってる!?ていうかこの人誰!?初対面で容赦なく冷徹な瞳を向けてくるトルテに、美月は怯えていた。そして、さらに美月の恐怖を煽ったのが、トルテの目だった。じっと美月を睨むわけでも無く、ただ無機質な目が美月を見ているのである。その光景はさしずめ動かないはずの人形に凝視されている状況と言えばわかりやすいだろうか。そんな状況だった。
「トルテさん!ストップ、ストップ!」
「トルテ!そいつは絶対に殺すなよ!」
滑り込みセーフと言った形で飛び込んできた躑躅とアクアの姿に、トルテは口を開いた。
「魔王様、この怪しい人物はどなたですか?」
トルテの目を見て躑躅はあ、これヤバイ。と判断した。
この目は、あの時私が殺された時と同じ目だ。無機質な真っ黒く見える瞳、躑躅は恐怖で震えた。アクアもそんな躑躅を見てヤバい状況だと分かったのか、私たちから引き離す様にまくし立てた。
「此奴俺の知り合いでさ!もうすぐ拠点移すから、特に挨拶もさせてなくてな。でも、一応躑躅が魔界のトップだろう?だから躑躅には話しておいたんだ。今日から拠点移動させる準備があるから、じゃあな!」
アクアさんはそう言い切るとバアンッとドアを全力で閉めた。激しい音を立てていたためかその衝撃はすさまじい物だった。ドアにはひびが入っていた。トルテさんの姿が見えなくなると、私たちははーっと長いため息をついた。
「し、死ぬかと思いました。」
「本当に生きた心地がしなかったぜ。」
私とアクアさんが息を乱しながら、呟いた。美月に至っては余りの恐怖のせいで泣きべそをかいていた。
「なにあれ?ラスボス?」
美月のその問いに、ある意味合ってる。と思った。特に私は一度戦っているようなものですからね。死んだり生き返った時のことを思い出し、私はまた深い溜息を吐いた。
「助言を一ついうとしたら、トルテに会う前に全力で逃げろ。」
「会った後じゃなくて!?」
「お前ひとりで会ったら手遅れだ。」
アクアさんの返答に私も納得した。私も会ったらすでに殺されてました。しかも一刺しで。
「取り敢えず、今すぐお引越ししましょう。」
私の言葉にアクアさんと美月が無言でうなずいた。




