第四十六話 天使たち
「ほら着いたぞ。」
そう言ってラファエルさんは丁寧に私を下ろしてくれた。乱暴な口調の割に、意外と優しい性格なのかもしれない。
「ラファエル、後で覚えてろよ。」
低い声で脅す様にアリエルさんがボソッと言った。
「だから一々俺に文句を言うな!」
「疲れたらいつでも抱っこしてあげるからな。疲れたらすぐに言うんだぞ?」
ラファエルさんの嘆きを無視するかのように、私に微笑み、そして心配をしてくれるアリエルさん。
本来なら、天使と敵対している種族の頂点に君臨している私は、敵と見なされると思うのですが、可笑しなほどの歓迎ムード、今アリエルさん達の上官のいる部屋まで、歩いて行くみたいなんですけど、行く先々で出会う天使すべてが例外なく、私に対して笑顔で手を振っている。何と無く手を振り返すと、キャーと黄色い悲鳴を上げて、嬉しそうな顔をしている。
何故?
誘拐されたら、そこは天国でした。
言葉だけなら、結構シャレにならないですよね。自分で考えたことだけど、この先に何が起きるのかまったく予想できず、思っていたより自分の思考回路は、混乱しているみたいだった。
「着いたぞ。ここに上官であるミカエル様がいらっしゃる。終わったら迎えに来るからな。」
そう言うと、アリエルさんは名残惜しそうに私を眺めてから、ラファエルさんに引きずられるように消えていった。ドアに手をかけようとして、そして引っ込めるの繰り返しだった。
自分が暮らしていた魔界が、真っ黒な場所だったせいなのか、煌びやかなこの空間が苦手だと思っていた。周りを見ると、広々とした空間に、真っ白な壁に、金や銀の他に青や赤と言った宝石が装飾されている。
金色に輝くドアノブを回しながら、これ一体いくら位するんだろう。と場違いなことを考えながら、私はドアを開けた。
「あら、いらっしゃい、可愛らしい幼子。」
そう言って、ほほ笑む女神様がいました。
足元まで伸びている長い金色の髪に、まるで宝石のような青い瞳、それに加え凄く美人な顔立ちをしている。肌なんて、透き通るような真っ白な色。自分が見られるのが恥ずかしくなって、ドアを閉めようとした。
「あらあら、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。」
私がドアを開けようとしても、ドアはびくともしなかった。さっきは簡単に開いたのに、それにこのドア鍵穴なんてついてない!?
私が驚いている間に女神さまは、すぐ傍まで迫ってきていた。
「幼子、こちらにお出でなさいな。」
フワリと女神さまに抱きしめられた。突然の事に驚きに硬直した。
「別に、取って食おうだなんて、野蛮なことを考えているわけじゃないのよ。」
女神さまは、可笑しそうにクスクスと笑っていた。そして軽く人差し指を私の目の前に出してきて、
「私の事は、みっちゃんとでも呼んでくださいな。」
思いの外フレンドリーにそう言ってきたのでした。まさかのみっちゃん呼び!?
「さあ!」
あまりにもまぶしい笑顔で嬉しそうに待ち構えていたので、私は思わず絞り出すような音量で言った。
「み、みっちゃん?」
「はい!」
そう言って、ギュムリとまた抱きしめられたのでした。そもそも、私は何でここに居るんでしたっけ?今の私は本気でここにいる理由をど忘れしていた。




