第二十五話 事情説明
アクアさんに事情を話そうと思ったけど、アクアさんが殺された時のことを思い出した。前世の記憶があると言っていたアクアさん。私はまだ一回だけど、アクアさんは二回目を経験してしまったのか。とアクアさんに対して申し訳なさを感じた。今度は絶対に死なせませんから!と誓ったのであった。
待ち合わせの場所になっていた裏道に来ていた。待ち合わせの場所には、アクアさんが既に来ていた。
「アクアさん。」
トルテさんには家を出ると言ってきたから、隠れる必要はあまりないのだけれど、何と無く小声で呼んだ。
「躑躅。」
アクアさんは私を見つけると、ほっとした様な顔をしていた。
「待ち合わせの時間になっても、なかなか来ないから心配したんだぜ。」
そう言うと、アクアさんは私の頭をワシャワシャと撫でまわした。頭が爆発状態になっていたが、それよりも重要なことがあったので放置した。
「アクアさん、お話があります。」
貴方を死なせないために。とは流石に言えなかったけど、アクアさんは私の顔を見て、真剣な表情になった。
「分かった。この先に俺専用の部屋がある。そこで話そう。」
そう言って歩き出したアクアさんの後を、私は小走りで追いかけた。
「此処が俺の部屋だ。」
そう言って案内された部屋は、質素な部屋だった。
木製のこじんまりとしたテーブルと、同じ木製の椅子が二つあるだけだった。
「此処は食い物も飲み物も無いけど、話し合いをするには最適の場所だぜ。」
アクアさんから真剣そうな表情は消え、ニヤリと意地悪そうに笑った。それにつられるように思わず私も笑った。
さっきまでの暗い気持ちが嘘の様に晴れた。
「最初に言っておきます。これから話すことは本当の事です。」
さっきまでの緊張感や、嫌な記憶は無くて。スラスラと今はなさなきゃいけないことが、自分の口から普通に出てきた。
そして私が家出をした後に起こるであろう出来事と、アクアさんがトルテさんに殺された時のことを話し終えると、アクアさんは長い溜息をついた。
「ハア~~~~。」
「……。」
「ま、彼奴の事だからいつかはやると思ってたぜ。」
アクアさんのその言葉に私は驚いた。
「私の話、信じてくれるんですか?」
こういう時、普通は時を戻したなんて信じられないと思う。私が最初に魔王に成ったなんて言われた時だってあんなに混乱したのに、アクアさんはあっさりと信じた。
「魔族は信じる価値が無い。」
今まで見たこともないような冷たい表情でボソリと呟いた。
「え?」
あまりの表情の違いに私は戸惑った。
「俺の価値観だよ。魔族は皆歪んでる。何処が可笑しいとかそういう小さい部分の話じゃなくて、元が歪んでるんだ。特に躑躅、魔王であるお前に関しての事なら、俺たち魔族は、何処までも狂える。まるで、そう決められているみたいにな。」
私のせいで?
口に出したわけじゃないのに、アクアさんはポンと私の頭に手を置いた。
「躑躅のせいじゃない。躑躅が悪くないってことは俺がよく分かってる。躑躅はある意味俺と同じだからな。だから気持ちはわかる。」
信じてくれた嬉しさに、私は涙が零れた。子供の体になったから、涙が余計に止まらない。アクアさんは私が泣き止むまでずっと、やさしく頭を撫でてくれた。
「っく、うっ、ぐすっ」
「俺も協力するし、きっと何とかなんだろ。」
明るく笑うアクアさんの笑顔にこの時ばかりは救われた。




