第二十四話 時の魔法
「おはようございます。魔王様。」
「おはようございます。トルテさん。」
私の様子がいつもと違う事に気が付いて、トルテさんは少し驚いた様子だった。でも、直ぐにいつもの笑みに戻った。
「今日は機嫌がよろしいのですね。」
ただ、真っ黒に見える、無機質な目だけは苦手だった。
「私は一旦準備をしてきます。」
そう言うとトルテさんは部屋を出ていった。部屋から出て行って足音が遠ざかるのが分かると、私はベッドの上で寝っ転がった。
「殺し屋とか、殺人鬼とかと一緒に居る時ってこんな気分なのかな?」
ドキドキ言っている胸に手を当てて、私は震える自分の体を抱きしめて、そう呟いた。
すると、カツン、カツン、とトルテさんの足音が響いた。私はベッドから飛び降りてドアをじっと見つめた。
「魔王様、準備が出来ました。」
そう言ってトルテさんは、一瞬で私の後ろに回り、私の体を抱きしめると、ズブリ、とアクアさんの時と同じように私の心臓に突き立てた。
「っ!?」
自分の口から、血が流れて地面に滴り落ちるのが見えた。トルテさんに抱きしめられているから、私は倒れる事無く、そのまま体の力が抜けていった。痛みよりも、傷口が酷く熱かった。
「魔王様、愛しています。ズット、ズット。」
普段のトルテさんからは、想像もつかないような、無邪気で可愛らしく、まるで恋する乙女の様に微笑んでいた。
私の意識が落ちると、目の前にはウォルフがいた。
「痛いというよりも、すごく熱かったですね。」
最初に出てきたのは傷の感想だった。
「そうか、今から時を戻す。一度しか使えないと言ったが、実は何回も使える。」
「殺されるのは御免なので、遠慮します。」
即答で断った。誰が好き好んで、あんなホラゲーみたいな展開を繰り返したいと思うものか。
今回は痛みよりも熱いという感覚が大きかったからトラウマにはならなかったけど、あれで激痛が走って、後ろを振り向けば、相手は恋する乙女の表情で、嬉しそうに殺してました。なんて普通の人間ならトラウマになる。
「取り敢えず時を戻すぞ。結末をどう変えるかは、其方次第だ。」
そう言ってウォルフは私の頭に手を乗せた。毎回、毎回人の頭に手を乗せるのはやめてほしい。景色が一瞬で変わり、私は、リュックに自分の荷物を詰め込んでいた。
「このリュック……。」
見覚えのあるリュックだった。
ポク、ポク、チーン!
あ、これ私が家出する時に持って行ったリュックだ。ファンタジーの世界にありそうな、茶色いシンプルなデザインのリュック。
(トルテさん、私出かけてくるね。)
(誰と、お出かけですか?)
(秘密。)
そうだ!私はトルテさんと、こんな感じの会話をして、この後にアクアさんに協力してもらって、家出をしたんだ。
そうと分かれば、私のすることはウォルフに会いに行く前に、トルテさんのヤンデレ度を上手く下げて、アクアさんにも事情を話して、その後にロランさんに会って、ウォルフのところに連れて行ってもらおう。
そんな計画を立てた私は、早速トルテさんのもとに向かった。
「トルテさん!」
「そんなに、慌てて何かありましたか?」
挙動不審な私を見て、トルテさんが不思議そうにしていた。今のトルテさんを見ていると、殺された時のトルテさんと別人に見えてくる。でも、私が家出をした後に、ヤンデレ度が高くなりすぎだと思います。一体何があったんだろう。と不思議に思ったものの心読みの能力を思い出して、あまり考えないようにした。
今更だが、ウォルフに頼んで、心読みの能力をあまり効かないようにしてほしい。と頼んであった。出なければ私の計画が水の泡だ。
「私これから、出かけてきます。しばらく戻らないと思うので、これを渡しておきますね。」
そう言って私はネックレスを渡した。
「これは?」
「ネックレスです。首に付ける、アクセサリーです。」
トルテさんはその場でネックレスを付けてくれた。トルテさんの目と同じ色の宝石を使った、ウォルフの自慢の一品である。余談だが、実はあのネックレス、盗聴器になっている。心の中ではすみませんと思った。でも、私も二度目の経験は遠慮したいので急いで出ていった。
アクアさんを探すために。




