中国・上海へ
面接を終えて、季節は、冬になった。そして、、、、
そして、時間通りに、面接が始まった。透は、ありのまま答えた。沈黙を恐れなかった。完璧な教師を演じるより、素直であることの方が大事だと思ったのである。気づけば、面接は三十分ほど続いていた。最後に中央の面接官が言った。
「ご苦労様でした」
三人が軽く頭を下げる。
「結果は、各教育委員会を通してお伝えします」
「お気をつけてお帰りください」
「ありがとうございました」
透は、深く一礼して部屋を出た。廊下を歩きながら、自然と肩の力が抜けていく。エレベーターに乗り、一階へ降りる。そして、面接会場の建物を出た時、夏の熱気が身体を包んだ。
透は空を見上げた。
――やれるだけはやった。不思議と、気持ちはスッキリしていた。もう、自分にできることはない。決めるのは向こうだ。あとは、待つだけだった。
そして、季節は流れた。南会津に雪が降り始めた十二月末。一本の連絡が、透のもとへ届いた。十二月二十五日。会津若松の冬は、雪に包まれていた。冬休みに入り、透は家族とともに自宅へ戻っていた。外は静かだった。時折、屋根の雪が落ちる音だけが響く。
その朝、十時に一本の電話が鳴った。透は急いで受話器を取った。
「あっ、おはようございます。滝口です」
電話の相手は、星野トシオ校長だった。
「滝口先生、おはようございます」
どこか急いでいるような声だった。
「今、教育委員会から連絡が来たんだけどね」
透は自然と背筋を伸ばした。
「はい」
「中国の上海日本人学校だけど、それで進めていいかの確認が来たよ」
一瞬、言葉の意味が頭に入ってこなかった。
「……はい?」
上海。中国。日本人学校。頭の中で、言葉がゆっくり繋がっていく。すると星野校長が続けた。
「折り返し、すぐ返事しないといけないんだ。だから、今すぐ決めてほしい」
あまりに突然だった。合格したのか。本当に海外へ行くのか。しかも行き先は中国、上海。透は混乱した。その時だった。近くで話を聞いていた妻の父親が、あっさり言った。
「上海なら近いしいいべ」
透は思わず義父を見た。反対されると思っていた。しかし、予想外に軽かった。その一言で、不思議と覚悟が決まった。透は受話器を握り直した。
「星野校長先生」
「はい」
「了解しました。よろしくお願いします」
電話の向こうで、星野校長が笑った気配がした。
「よし、分かった」
そして少し間を置き、こう言った。
「もう、後戻りはできないよ」
透も小さく笑った。
「はい。よろしくお願いします」
「じゃあ、今から教育委員会に承知したと伝えるから」
「はい」
「それと、出発はこの春になる。早めに準備進めてね」
「分かりました」
電話が切れた。部屋に静けさが戻る。透はしばらく受話器を見つめていた。
――本当に決まったんだ。
南会津の小学校教師だった自分が、春から中国へ行く。上海。テレビや雑誌でしか知らない巨大都市。まるで現実感がなかった。だが、時間だけは確実に動き始めている。
パスポート関係。引っ越し。家族の準備。仕事の引き継ぎ。そして――。透は、ふと思った。
――中国語、少しは勉強しないとな。「ニイハオ」くらいしか分からない。それでも、やるしかない。窓の外では、雪が静かに降り続いていた。しかし透の心の中では、新しい季節が、ゆっくり動き始めていた。
透の在外教育施設への派遣が決定した。この後、また、透は、新しい環境で、チャレンジを続けることになる。さて・・・どうなることか・




