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公園のベンチとヒーロー。

「ーー平和だ。」


幼馴染みの家まで行くと、幼馴染みは神社の方にいると言われ、神社まで回って来た男の子が、社の縁側で昼寝をしている幼馴染みを見つけて呟いた。


「俺も隣でーー……。」


「ああ、平和だ♪ ヒーローもこの平和じゃ昼寝するしかないな! 公園でひとり寂しいが、それでも君はそこで皆と昼寝だ♪ 」


公園のベンチの声がする? と、今来た道ーー後ろ振り返った男の子。


「ーー寂しがっているのがいるか? 」


「なんてな、俺もここに居るぞ♪ 」


『公園はかなり距離がある、聞こえてきたのは幻聴か? 』とヒーローと呼ばれた男の子が眠た気な思考を浮かべて誰にでもなく聞くと、垣根の側の樹が話し掛けた。


「大丈夫か。ーーみんなで昼寝も悪くない。」


男の子は幼馴染みと同じ様に、幼馴染みから少し離れた逆側の縁側に上がって横になった。


「誰かひとりは起きていないとーー? 」


栴檀の隣に居る栴檀よりも歳下の木が寝ぼけたまま声を出した。寝言かもしれない。


「そのひとりにはなれますよ。」


神主の声だろうか、社からだろうか、側の栴檀の親樹だろうか、ーー穏やかな声が神社に優しく響いた。


「おやすみなさい、愛し子たちよ。」


稲荷神社の神様は、社の中に座って声を掛けた。


ーーここのみんなが神社を離れた学校に引っ越して、また再会するのはもっと後のお話。


今回のお話はこの稲荷の神社と、神使ーー神の使いになった狐のお話。



この小さな町は、人の左の人、佐々木さんの家以外は森だった。その森を人々がーー、外国から疎開して来た人たちや、居場所を無くして追いやられて来た人たちのために切り開き、家を建てて町になった。


逃げて来たのに、分断や紛争みたいなのが起こり、それを収めるため、社が建てられた。神様にこの町を守ってもらうめだ。社の傍には御神木が植えられた。


神様と御神木はずうっと、この町を見守った。


町を見守っていた神様が去る時、神様は社を御神木に任せた。


だから今は御神木が僕らの神様だ。


その後、後任の神様が来た。この稲荷の神社は神様が二人になった。でも、御神木は御神木に戻ると言って、また御神木としてこの社と街を見守った。


最近知った事だけれど、最初に居た神様は町を見守る神様、次に来た神様は街を見守る神様で、位とかが違うらしい。


年月が経ち社も傷み、社に御神木が使われて神社になり、稲荷神社として親しまれるようになりーー……。



神社の社は御神木ともう一本で出来ていた。もう一本の木は、青空学校に植っていた樹だ。


青空学校でみんなを見守りながら、過ごした樹ーーその樹は当時、戦争で前戦の特攻部隊にいた隊員のひとりを弔うために植えられた樹だった。


地を爆破する筈だった鉄の雨の一粒、それに軍機の飛行機でぶつかり、亡くなった隊員は、その植えられた樹そのものとして生まれ変わった。


ひとりだけじゃなかった。後に出来る青空学校、その場所を小さく囲う様に、点々と樹々が立った。


その一本一本が、当時の隊員だ。


航空飛行艦隊、隊員、特攻部隊所属ーー航空飛行隊と艦隊は別だったが、戦艦隊の子が隊に来てから航空飛行艦隊と呼ぶ様になった。水陸両用艦隊から来たまだ若い子も、同じ場所で同じ様に亡くなった。


そして、同じ様に樹になった。同僚も、相棒も……。



「俺はそんな青空学校の様に、この公園を見守りたい。憧れの先輩たち、ーーと言うには年齢が高過ぎるーー御先祖様たちの様に、若い子供達を導けるものになりたいんだ。」


「ーーーーありがとう。」


つい、お礼を言ってしまっていた。


俺は目の前にいて、今はまた人間で、君の話を聞いているーーそんな事を言って、信じて貰えるだろうか?


青空学校の樹として生まれ変わったり、神社の社の木材になったり、その隣の家の床板にも使われたりーー……。


そして、今はその家の子供として転生して来た。


その家には、特攻隊員だった頃の息子夫婦が住んだのだ。びっくりした。ーーああ、そう、それにも、"ありがとう"だ。


この公園のベンチは、家が建てられた時ーー建てられている時か。その時に息子夫婦を探してくれたのだ。


公園を通る人々に声を掛け、時には無人の公園から人の声がすると怖がられ、とうとう息子の嫁さんがその話を聞きつけて、公園へやって来た。


けれど、その当時は籍を入れていなく、息子とも疎遠になっていて居場所はわからないとベンチに告げた。


『本当に知らなかったの! 気づかなかったのよ〜! お互い! 』


当たり前だ。戦艦ーー船の上で移動中に、魚雷の光に目をやられ、視力が殆ど無いのだ。それは息子の方もだった。


俺はそこで戦死するはずだった。運良く生き残った俺はその後の戦場へ行きーーあの鉄の雨粒に自らぶつかって死んだ。


けれど、往生したんだ。息子の娘にも会えた。医師になって各地を回ってーー……。


「大丈夫か? 」


「! 」


思い出し、それに耽っていた。


「ああ、大丈夫。少し昔を思い出していただけ。」


「ーーお前、よくそうやって昔を思い出しているよな。公園ここだから良いけどな、道を歩きながらは危ないぞ? 」


「道を歩きながらああなっているのか? それは危ない! 」


「あはは、気をつけるよーー気をつけて歩くよ。」


公園のベンチに、窘められる様にじっと見詰められて、言葉を加えた。


厳しいところがあるというか、命に対して執着を感じるーーこのベンチが公園にあるからなのだろうか?


「君はいつもそうだよ。」


「あ、来たか。」


「連れられて登場だ。」


ガラガラガラガラーーと、音を立てて公園までやって来た一台の台車。その上に乗って来た奴が俺に向かって言ってきた。


「さっそく小言を言われているようだね。僕の言う通りーー、言っただろう? 僕らも後から合流するって……。そんな顔をしないで欲しいな。」


お前、俺の姉さん兄さんに台車引かせといて……。


「きょとん、す。」


「キョトンだな。」


「きょとんだよ。キョトン。」


キョトンとしていた訳ではないけれど、キョトンとしている事にしておこう。


「まぁ、カタカナでもひらがなでもどちらでも構わないけれど、僕らには構ってくれるかい? それから僕の話を聞いて欲しいんだ。ーー特にベンチの君にね。」


「うん? 俺に話を? 」


声を掛けられて、ベンチ(正確にはベンチに使われている木材の元の樹の魂)は、それまで見ていた俺たちの方から視線を上げて、公園の入り口に来た台車の上の奴を見た。


「そうーー、僕らはこれから引っ越すんだ。それに君を連れて行けない。僕らはそれぞれ、別の学校や機関に行き、そこで新しい生活をするんだ。」


「おい、本当か? 」


幼馴染みヒーローが驚いた様子で聞き返した。


「ーーーーそうか、君には言っておこう! そこの思い出話に耽ってしまう君だ。」


俺か。ヒーローにではなく?


「(俺も新しい場所に引っ越すこと、秘密にしていて欲しい。二人の内緒だ! )」


耳打ちする様な声で、ベンチの樹ーー実は垣根のそばのあの真面目な樹の魂が、俺に話した。大木だった樹を剪定して、その剪定された部分が木材にされて、ベンチとしてつくられ、公園に置かれた。この樹も御神木の一本で、当時荒れていた公園と周辺を護ってくれるだろうと願いを込められて……。荒れていると噂されてから、母さんが包丁を握り締めて夜な夜なその辺りを見回るものだから、夜中は静かだったらしい。


「聞こえたよ。」


台車の上から態と声を低くして声を掛けてきた栴檀。ーー竹も横に乗っている。


「何? このヒソヒソ声で聞こえてしまうのか? ーーなら、」


「なら、この間のあの話、やはり聞いてーー聞こえていたんだな? 」


ベンチの続きを竹が横から刺す様に言った。


「その話は聞こえてはいなかったさ。ーー眠っていたからね。だけど、ちゅーちゅーくんたちには聞こえていたみたいだよ? 噂話が広まるのは早いかもしれないね? 」


ちゅーちゅーはうちにいる鼠たちのことだ。あいつらか。よし。広める前に口を塞ごう。


「ちなみに君たちは俺と共に公園を守ってくれるだろうか? ーーどうしたんだ? 」


ベンチの問い掛けに、全員が黙ってシーンとなった。姉や兄たち、父さん母さんまでもがだ。


「みんな浮かない顔をしているね? まぁ、僕には理由がわかっているけれど、君たちはもう少し、素直になると良い。」


台車の上から悠々と喋る栴檀の方を、みんなが見た。


「全く、遠回し過ぎるぞ。ーー安心しろ、お前たちは離れ離れにならない。俺たちもだ。」


ひとつ溜め息をいた竹が、含んだ言い方をした栴檀に向かって言い、結論らしい言葉を俺たちに向かって言った。


「え? 」


「どういう意味だ? どういう事だそれは? 」


ヒーローが結論の詳細を急いた。少し早口にもなっていた。


「どうもこうもない、全員同じ圏内だ。」


慣れている様子で直ぐに答える竹。ベンチに"ヒーロー"と呼ばれている男の子は、俺たちのーー全員の幼馴染みだ。


「ほぼ大多数がね、君たちの引っ越す町や街、市内に植えられるんだよ。予定ではね。」


「更に言えば、そのーーお前たち幼馴染み面子は、同じ市か隣町だ。町を町で言えば良いのか街で言うのかわからん。」


詳細を竹が話した。俺たちが引っ越す先は、小さな町だろうか? 栄えた街だろうか? ーーきっと真ん中くらいだ。


「どちらでも良いと言えるね。僕らはまだその町を知らない、行った事が無いのだから。」


栴檀の言葉は、これからの未来に期待をしている様な少し楽しそうな声色を含んだ声だった。


「お前は行った事があるだろう? 」


「目隠しをされていたよ。ーーそっちの子も、暗がりでどの町でどんな町だったかは、覚えてないだろう? 」


竹が聞くと、栴檀が答えた。


ーー確かに覚えていない。けれど、知っている場所だった。俺たちは引っ越し騒動の少し前、目隠しをされ誘拐された奴を追い駆けて、離れた町まで行った。ーーそこは、青空学校があった場所のすぐ近くだった。


2024.7.1

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