兄弟姉妹と家族達と。
「ーーお前も! 蓮水も! 兄弟で良い!! 良いからな? だから、三つ子でも! なんなら四つ子とか五つ子とかでも! ーー何人でも大丈夫だ! 宜しく!! お願いします!! 」
母さんと父さんが一瞬動きを止めて首を傾げそうになった。ーー嫁に貰うみたいな台詞だったからだ。先が思いやられそうな気がする、この新しく来た俺の双子の兄弟……。俺もたまに首傾げられているのに。
「ーーお前は小さいから、俺達とはーー、いや、あいつも小さいか。」
「うるさいぞ〜! 小さいからなんだ? 人間の成長はこれで普通だ! 」
俺はまだ小学前だ。これくらい頭良ければ良いだろ! 三歳で言語ペラペラ外国の歌スラスラだぞ! 身長はこれからーー父さん母さんたちくらい伸びるんだ。
これは兄さんたちからの受け売りでもある。兄さんたちはおんなじ台詞をよく竹に言って聞かせてきた。俺は自分で言う様になった。
竹が俺を急かして、背が伸びる様にしたかった時期が少し前まであったんだ。
ーー母さんの背が高いから低く見られがちな父さんは、母さんより背が高い。遠目で舐められても、父さんの目の前に行くと相手が黙る。その相手が黙ってから捨て台詞と一緒に去って行った後、大きく息吸って吐いて、自分の心臓の音確かめながら胸撫で下ろしているくらいビビリだけど。前に『父さんはビビリ? 』って聞いたらジッと見られて、『ビビリなとこあんな。』と肯定の言葉を呟いたりした。誰が言ったのか、と兄たちも一瞥されていた。見ていれば誰でも気づく。背が高くて何も出来ない木偶の坊って初見の奴とかあんまり父さんを知らない奴には言われるって言ってた。けど俺たちは知っている。父さんは"のっぽさん"で力持ちなのだ。
あと意外と器用で何でも出来る。料理はコックさん並みだ。厨房で仕事をしていたし、今もたまにケーキ屋さんのパティシエさんにケーキ作りのコツとかを教えている。『だから優しいのっぽさん』って母さんが言っていた。
若い父さんが、若い母さんに手を出す不届者で次期皇女に手を出そうとする粗忽者だと思われていた時、祖父ちゃんにもそう言った。
『何度説明しても分かってくれない……。分からず屋なの。』と祖父ちゃんのことを話す母さんも、分からず屋の血を引いていて頑固なところがある。頑固一徹。
ーー祖父ちゃんが大人になった父さんと会うまで知らなかったことを俺は知っている。母さんのお腹の中にいた時のことだ。
実は幼馴染みの二人、父さんと母さんは、戦争で離れ離れになった。学生時代までは良く会っていたんだ。戦争で二人は記憶を失くして、お互いの事を覚えていなかった。思い出した時、俺がお腹にいた。俺は少し超能力とかがある。人の体を治すっていう。人以外も治せるけど。
天界で、『お前のあの子たちが大変です、』『今直ぐ転生を! 』と、ばたばた駆けてきたあの世の従事者たちが俺に転生する様に言ってきたから何事かと思えば、『二人が再会しました! 』だった。二人の記憶が無い事はあんまり問題視されていなかった……。
「僕たちが早いんだよ。あと蓮見のミの字が違うかなぁ? ーー水じゃなくて、見る方の見だよ、お兄さんくん。」
栴檀の木が話に入ってきた。そうだ、木のーー植物の成長の早さと人間の成長速度の話だった。
「君、ぼうっとしていただろう? 蓮見くんが君のぼうっとの間に色々言って、話を聞いていないと思ったのか、拗ねてしまったよ。」
いや、聞こえてはいたし、俺が考え事を始めたから竹は気づいて他の奴らと喋っていたんだ。拗ねたのは新しく来た双子の兄と比較されたから……。『またぼうっとしているな。』と言った大麻に、『こいつのぼうっとはいつもの事だ。』と言った竹と、『そんなにぼうっとーー? ーー気にした方が良い事もある……。俺は母さんにそう言われているーーあ! 病院に連れて行った方が! 診察とか何とかか! 』と言った双子の兄。言葉の出だしが前後していたら逆を言いそうな兄と弟だった。だから俺は話に入らず放置した。俺の頭に瘤みたいなのがあるのは知っているし……。
「また始まったね? ぼうっとしているのは良いけれど、聞き逃していると窮地に陥る事もあるよ。」
「ああ。栴檀、お前みたいにな。」
「そう、僕みたいにね……。」
「お前、この前連れ去られていたもんな。」
古柯の兄貴に窘められた栴檀はそんな性格に見えないのに、結構お喋りだ。口が災いして、この前連れ去られた。根っこからだ。身体ごと全部。
「つい話し込んでしまっていたらあの態だよ。みんなも気をつける様にした方が良いかな……。」
人懐こい性格が不審とか不信とかで捻くれてる所があって人嫌いに見える奴。連れ去られてからは更に卑屈にもなったと専らの噂だ。
俺の父さんと母さん、何より神社の神主さん達が居なかったら人嫌いにはなっていたと思うと言っていて、それは皆んなそうだった。
「ここの皆は、不信感を抱かないからね。警戒はしても、人好きだ。ーーお兄さんくんはどう思うかな? 僕らは今まで通り、人と話していても平気だと思うかい? 」
「栴檀よ、隣にいる父に聞け。父なら答えをくれるだろう。」
「栴檀の父さん、うつらうつら船漕いでいたけどな。」
「僕の父さんは、隣で船場から大海原へ行くところだよ。だから、僕たちや君たちとは離れたところにいたお兄さんくんに聞いたんだ。」
「薄暗くて目を細めて気配を伺っていたらこれだよ。お兄さんくん、うちの子に答えをくれるかい? 」
「あ、ありがとうーー兄で良いのか! 」
栴檀の親子に兄と認められて感動している俺の双子の兄弟が、兄になるらしい。こいつ弟みたいなのに?
あと俺の父さんがこいつの父さんの兄なのに?
「君の方が」
「しっかり者だよね、えっへん! 僕が許そう! 許してあげるから、そいつの双子で兄で良いよ♪ 」
「ーー許された! ーー誰だ? あいつは俺達よりーー歳下な気がする! 」
「何で気付くのーー? ちょっと凄いかも。俺達の新しいお兄さん♪ 」
すっかり小さな頃の可愛らしさを取り戻した古柯が嬉しそうに自慢そうに言った。
「ああ。お前が良い子になってからで良かった。会うのが。」
新しい兄弟にも『殺すぞ』とか静かに脅迫したりしたらやばかった。
「最初が凄かったからな〜、お前、初登場が。」
「ーーホラーだった。今でも目に焼き付いてる……。」
霊媒体質で霊はなんなら生きている人より良く見える俺は、幽霊とかは怖く無いし、悪霊もビックリはするけど怖くない。そんな俺が初めて怖いと思ったのかもしれないホラーが古柯だった。
「あんまり言ってるともう一回やるよ? 食らわせるよ、その目に焼き付いたホラー。」
「け、結構ですっ! 結構だと思いますっ! 思うっ! ーー? 何だ? こいつらーー兎だ!! 兎が居るのか!? 」
何故か割って入って来て、俺を庇う様に後ろに隠した双子の兄弟は、庭の古柯に寄って来た兎たちに驚いて兎みたいにぴょんぴょん跳ねた。庭の兎ーー丸々とした原種の野兎。たぶん雑種。斑模様。
「居るよ。うちには兎とか鼠とか。」
鼠も斑柄。三毛猫かパンダみたいな。
何でもかんでも大熊猫柄にしたがる中国の方の親戚たちが、とうとう小動物を大熊猫柄に品種改良した。
その兎を母さんに贈呈してくれたのだ。母さんはある国の皇女でもある。あるある。中国の方じゃない。寒い方の国。
「もふもふだよ。」
兎を弟みたいな妹が持ち上げて見せた。妹みたいな弟の古柯とは双子じゃなくて一年違いくらいで姉弟になっている。妹が産まれてから一年くらいして芽が出たからだ。
「触っても大丈夫。」
「抱っこも大丈夫。」
母さんと姉さんが口々に教えた。
「あったかい! 」
両腕をUFOキャッチャーみたいにして抱っこして、持ち上げた双子の兄弟がそう言って笑った。
「生物だからな〜。」
「生ものですからね……。」
「あ、忘れてた。さっきのトラック……。」
可愛い声で喋ったのは妹でもないし古柯でもない。
「う、兎が喋る!? 喋った!! 」
抱っこから地に置かれた後で良かった。驚いて投げていてもおかしくない。
そう、この野兎だ。俺たちと家族で一緒に暮らしている。
「うちは何でも喋るのよねぇ〜、この、今は黙っている方々も。」
「ーーーー期待した目で見ないでくれねぇか? 」
「は、恥ずかしい……。」
「柱!? 家の柱が喋る!? 」
家の大黒柱は父さん。建物の木材での大黒柱の方が喋った。大黒柱としてはこれでも若木らしく、精霊の姿だと若いイケメンだ。精霊っていうとフェアリー、ーー外国の童話っぽく間違えられそうだけど、着物着てる和風でやっぱり古風な感じだ。照れたのは台所の包丁だ。
「床板も喋るんだぞ? 」
「あぁ、あのお仁か。今は寝ておられるか? 」
起きてる起きてる。寝た振りしてる。
「しゃ、喋るだけじゃない、」
「歌も歌える。ら〜ら〜ら〜♪ 」
床板は鼠たちに喋らせて話逸らすの術を使った。斑柄の鼠たちが言って、歌った。ーーあ、ひとり声が上手く出なくて咳払いした。
「うん。ラララ。ーー歌おうか、公園にでも行って」
「兄貴、遅いぞ? 」
上の兄の提案に下の兄が注意した。
外はひんやりとーーお化けでも出そうな暗がりだった。直ぐに青群青も黒色に染まって、宇宙の色にーー夜に変わるだろう。
「もう真っ暗だ……。ここからだと帰るのに時間がーー……。」
「泊まっていったら? 」
「ね、鼠くんたち? は良くてもーー」
お泊まりを勧める鼠たちに双子の兄がおろおろとした。父さんの弟さんもおろおろするのかな? 見たことないな……。
「ーー泊まる? うちに? 」
「大丈夫? か? 布団とかーー……。」
「誰かと誰かが一緒に、かーー」
「祖父ちゃん家に行って来る。」
「そうね。」
俺が言い出すと母さんが間を空けずにそう言って相槌を打った。
「じいちゃんちーーお祖父ちゃんの家か! 行きたいっ! 近いのか? 」
「近い。」
祖父ちゃんの家ってだけで目をキラキラさせた双子の兄。祖父ちゃんの家って珍しいものなのか? それか祖父ちゃんっ子かだ。祖父ちゃんっ子なら俺と一緒だ。祖母ちゃんっ子なら妹と一緒。
「迷子にーーなるから連れてって? 今日はお客さんーーじゃないあなたの双子で、私達のーー、そうね、家族。迷子になると困るから。鼠くん、連れて行って? 」
「連れて行く? 『付いて来る』だろ? OK了解、レッツラゴー! 」
「自分から出て来るのか!? そのゲージから!? 」
ゲージの壁をよじ登り、一点だけテープで止められているゲージの蓋を頭で持ち上げて、その隙間から出てきた鼠の一匹、二匹……。三匹目は下の兄に捕まった。『お前この間俺のおやつ盗んだから、だめ。』『自宅謹慎。』『しおしお〜ーーの、ぎゃふん。』ーー兄たちに咎められて、その三匹目はぎゃふんとした。
「開けっ放しなの。悪戯はーーしないわね? 」
「したらーーそこのお方がそこのお方に命じてーー……。ヒッ! 」
鼠が言って、包丁の方を見ては片手を上げてよろけて見せた。いつもながら芸達者だ。
「光り物が光るから。」
家の護身刀、逆刃から出来る包丁。母さんは護身用にこれを握ることがある。料理をしない時の話だ。
和包丁は逆刃から造るんだ。柄が入っていると、ハイカラな包丁になる。家のはそのハイカラ。昔、外国人が日本の刀を見て、『刃には模様入れないの? 』ここに模様とか入れたら良いのに。』って言ったからだ。柄物は着物でも女性ものが主流だったから、女性が持つ包丁は刃に柄付きのもの、つまり柄のある逆刃が選ばれた。
「一刀両断、ね? 」
「母さん、ーー行って来ます、でもその前に裏手の様子をーー」
母さんが見に行く前に俺が行っておこう。包丁握る前に。ーー家の包丁は何度も難を逃れて人を殺さずにここまで無殺でいるのだから……。
そんな包丁は母さんが握る度に人を殺さないかと緊張している。
「ーーそうね。トラックがーーよっこいしょ、ーーやだ、『よっこいしょ』って言っちゃった……。」
「言わない様にしてた言語言葉……。」
「そうなの、鼠くん。」
「ーー母さん凄いな!! 」
「へ? 」
「こう、隔てが無いっ!! 」
無いね。そういえば昔から。
「ああーー母さんはね。」
「? 俺たちもじゃ? 」
「俺はちょっと隔てあります。」
上の兄が言った。
「ーーそのちょっと、ちょっとが! ちょっとも無い! 」
無いね。それも昔から。
「長いんだ。ーーこのお喋りたちと。」
母さんは小さい頃からーー確か物心が付く前からこの世でもあの世でも存在する全ての魂や命と話が出来ている。何処かの民族とかなら、シャーマンとかいうのかもしれない。
俺は霊媒体質らしい。大麻が言ってた。
「成る程! 」
「あ〜、ーー行く前で良いんだけど、こっちとか寄れるか? 」
あ。
遠慮がちにだけれど、必要性が高い雰囲気の大麻の声に、『緩んでたごめん。』ーーと何故か上の兄が言った。父さんはもう神社に見に行っていたから、俺たちは気を緩めていたんだと後で理解した。話していない時の父さんは存在感が薄いから、居なくなっても『あれ? いつの間にかいない! 』ってなる。だけど、だから俺たちは警戒を解いて安心とかをするんだと、わかっていた。父さんに任せていれば、大概のことは"大丈夫"だから。ーー大丈夫じゃないことも、大丈夫に出来るから……。
「皆んな大丈夫、かーー? 」
緩い顔で神社に行ったら、荒らされた現場に息を止めかけた。こういうのは、荒らされたっていうのだと思う。奥で蹲り掛けている神主さんの様子も変だった。父さんが傍についていて、少しおろおろしていた。おろおろは珍しくないけど、こういう現場でおろおろしているのは珍しい。ーー栴檀の木が、『君のお父さんが救急を呼んだよ』と静かな声で俺に言った。
「ーーどうだ? 」
神社の垣根の裏側、家の庭から竹が聞いてきた。けど、言葉が出なかった。俺は息を飲んでしまっていた。
「どうした? どうして全員何も言わない? 」
「母さんに早めに包丁を持って来て貰ったら良かったや。」
惨事を見て、上の兄が呟いた。兄弟中が兄と同じ事を思った。
「大丈夫かーー? 」
見えていない竹が心配そうな声色に声を変えて、また聞いた。心底心配している声だ。
俺はまだ声が出ない。涙は出てきた……。
「俺は大丈夫だけど、巴さんがーー……。あと、古柯の兄貴が、……。轢かれた……。」
真っ白な顔を真っ青にして、大麻が告げた。
トラックは巴さんの足を轢いて、古柯の兄貴の腕を折って走り去って行った。
ーー巴さんは大麻の親だ。竹が椿さんを親にと言い始めた時に、じゃあ自分は巴さんを親とすると言ったから。
『殺そう、その業者。』と古柯を懐かしのホラーの姿に戻したことで、業者は神主さんの逆鱗に触れた。神主さん自身も、業者の人に荒っぽく押されてよろけていた。『あれは暴行罪だ! 』と樹の一本が声を上げたーー家の垣根の裏側の運転の危ないトラックに驚いていたあの樹だった。
後にそのトラックと運転手は、俺の両親をバックで轢き殺そうとして、捕まったと聞いた。取り調べで『脅かしてやったんだ』と笑ったらしい。
トラックは業者から盗まれたものだったことが判明した。ーー『危ないっ!! 』『わああ!! 避けてっ!! 』と、大騒ぎしていたのは、トラックの声だったのだ。『夜中に騒がしいわね』、とお隣さんも起きて来ていた。その騒がしさで、お隣さんの庭の竹の父親が警戒態勢を取っていたから、俺たちも警戒したんだ。一瞬、足が竦む程に。
『ーーでも貴方の足が竦んでくれて良かった。それから、貴方が来てくれていて……。』
無事で良かった、と母さんは俺と双子の兄を抱き締めた。
母や姉から『貴方が轢かれていたかもしれない』、兄たちから『お前あのまま行ってたら、多分轢かれてたよ。』と口々に言われた。
家の御勝手から垣根の裏側の樹のすぐ側を通って神社に入るーーあの時だ。垣根の裏側の樹が『わっ! 』と声を上げた時。双子の兄に止められずに駆け付けていたら、同時くらいだった。野兎の一匹が駆け付けて、轢かれかけてもいた。『俺はいつもこいつの前に駆け付けるから、俺も危なかった。ーーん? 兄貴は? 』と、更に前に駆け付けるはずだった上の兄は、轢かれ掛けた野兎を抱き上げて抱き締めいた。
古柯の兄貴、上の兄の双子の弟が駆け付けた上の兄に『こっちだ! こっちへ来い! 』と言って兄を背に隠した。トラックは、兄を狙う様に古柯の兄貴に体当たりして行ったと神主さんが話した。
『貴方今こっちに居たわよねぇ? 』と目を丸くした母さん。上の兄も、いつの間にか神社に行って、直ぐ家に帰って来ていた。『危ないから帰って来たよ。』と笑った。
父さんが『救われたな。』といって、古柯の兄貴と俺の双子の兄を見た。『俺もだ。』と目を瞑って呟いた。父さんは昔、弟さんに必死に止められて、事故をーー死を免れたんだ。その時に、弟さんは父さんを庇って事故に遭ってーー……。目の不自由な父さんは気づけなかったけれど、弟さんは、車が父さんを狙って突っ込んで来ているのが見えていた。
2024.6.17




