お喋りな樹々と子供達。
「蓮見!! お前、余計な事言うなっ!! 」
目の前にちゃぶ台があったから、そこに両手を思い切り押し付けて音を立てて言った。
庭に植っている一本の竹に向かって。
「煩い!! お前こそ蓮見さんの名前で俺を罵倒するな!! 」
まだ色も明るい、背の低い竹なのに、渋い話し方をするのは兄達の影響か、家の木材達の影響かーー……。
全部、古いタイプとか古風とかっていうアレな所為らしい。別に武士とか侍とかが流行っている訳じゃない。ーー家は武家だけど……。
「だってお前がそう言ったんだ!! 蓮見さんが親代わりだからって!! 蓮見さんもそうだって言った!! 」
「なっ、ーー言ったのか? 」
ーー実はこいつ、本当の親がいない。覚えてもいなくて、家の庭からひょっこり頭を出した筍だったんだ。
とかならわかる。何で隣の家に父親が居るのに……。ちなみに母親は俺の姉である。話せば長くもない。姉が筍を貰ってきて、家の庭に植えた。その日から、隣の竹は姉を嫁として見ているし、姉も満更でもないらしい。
こいつはそれまで眠っていたからとか、掘り出されて芽(葉先)が地表に出ていなかったからとか、そんなことを言って姉が産み出したことにしてる。お前、俺の姉を母親としておいて、他の女を親とするなよ、とかも言いたいけど、姉はこいつの父親を置いて家を出て行った……。たまに着替え取りに帰って来るけど。
姉は中学校を卒業して高校に通い始める時に、駅に少しでも近くなるように祖父母の家から学校に通っている。
ーー俺は知っている。家周辺ーーっていうか、裏の神社辺り一帯の樹々が、癌になっていることを。
そして、こいつの父親ーー父親も竹なんだ。渋い色の。その古風な竹の癌を治す手掛かりと、更に共に生きていく為に後世まで生育育成管理全てを学ぶことを目的ーー目標指針としてしまった姉はーー、使命感からそういうものの専門学校に進学した。
今思うと、一生を誓い合った相手の為ーー"相手に尽くしたい"、"共に生きていく"と決めたのだと、俺は知った。女の人って、強い。母さんも祖母ちゃんも、ーー姉さんも。
「ーー聞いた。蓮見さんからも。あの綺麗な椿さんから……。」
蓮っていっても蓮池の蓮じゃない。蓮根でもない。蓮見白という品種の椿さんに聞いたのだ。
ーーで、何でそんな健気な姉に見切りをつけて椿さんを親としたかというと、見捨てられたと思ったかららしい。こいつ、進学の時の話、寝てて聞いてなかったんだ……。姉さんめちゃくちゃ顔真っ赤にして、『共に生きるってこと? 』って聞いた母さんにその照れ顔隠しながら笑って頷いてた。父さんが母さんのことで照れるのとおんなじ顔してた。
俺は植物の魂が霊体ーー精霊として見えるんだけど、その俺から見ても、こいつの父親はイケメンだ。美形で背が高い。あと、性格もやっぱり渋い。寡黙で実は優しい。眉間に皺寄せて顔怖いけど。そういえば最近怒りっぽいこいつも顔渋くさせたり怖い顔してるーー顔が父親に似てきたのかもしれない。
「……。」
こいつも父親と似て古風ーーでも、姉さんの分と、俺と同じ家で俺と双子で俺と同じ父さんと母さんに育てられて、姉さんと兄さんも同じで、その中で育ってきたから、俺たちと似てもいる。気が緩むとことか。
「喧嘩やめ〜〜〜い! ーーこっちから声出すぞ〜? やめろよな、裏手にまで響いて来るんだよ、お前らいっつも……。双子だろ? 仲良くしろよ。」
大麻が諭すのはいつものことだ。こいつは血管を緩ませたり、呼吸の器官を広げたりしてくれるーーちょっと緩ませたり広げたりさせ過ぎて、人間の頭のネジとかもゆるゆるになるけど……。
俺の家の人間は全員、気管支の喘息だ。だからよくこいつに世話になっている。初めは母さんが蓬とかと一緒に草団子にして食べたことから。姉さんは小さい頃から食べていたから、だいぶふわふわしている。ゆるいというか、ゆるいを超えている。姉さんの新しく出来た高校の友達の人たちが全員、そう言う。
大麻に幻覚作用だとか中毒だとかがあるとしたのは、大麻自身だ。自分もちょっとそうなってるとか言ってた。葉脈を弛緩させているけれど、多過ぎるとらりってるみたいな感じになったり、ハイになったりしてしまうらしい。確かにそうなっているのも見るけど、人間が狂ってそうなっているより穏やかで優しい。変に見えない。ーーそう、朗らかって言うのが合ってるみたいな。
違法薬物等の視察で、大袴と麻のミックスだということがわかって、燃やされたり、処理されずに済んだ。
幻覚性の数値が低いらしい。その代わり緩める力は強いんだとかで、医療で役立っている。というか、医療業界から新薬開発とかで注目を浴びている。古柯たちもそう。
神社にいるから人に危害を加える様な性質が無くなっていったのかもしれないって噂されている。他の迷い込んでいた危ない種とか(植物、動物、虫等)はちゃんと処理されたから、神社内だから見逃されたとかじゃない。外来種とかも。寧ろ『神聖な神社内だから、細かく調べて下さい。』って神主さんもお願いしていたくらい。
視察の始まりっていうのは近所で違法薬物とかで死んだかもしれない人がいたというものだったんだけど、高齢だし、風邪薬だった。
俺たち家族とか親戚たちが、『大麻』、『古柯』って呼んでいるのを聞き付けて来たのもあるって来ていた警察の人が言ってた。
種名とか科名とか属名とか、そういうのなんだから。別名で呼ばない。別名で呼ぶと良くないと言われている。そのままの姿、そのままの真名で呼ぶのが正しい。ーー神社の教えだ。
蔑称とかで呼ぶと、魔が刺して来るとか言われてもいる。漢字を調べたら、魔が差すだった。それを大人に話したら、笑っていた。刺すと差すの話が丁度、楽しい噺家さんの話として流行っていたからだった。
よく聞いたら、楽しい噺家は大麻のことだった。
「こいつは俺と双子じゃ……。それに、こいつの双子はーー」
「!! 」
竹がまた言った! 言おうとした! 一緒に育った兄弟ーー本当の双子みたいに育ったのに!!
「そうだなっ!! 蓮見なんかと双子じゃないっ!! 俺は今日知った!! 生き別れの兄弟と双子だった!! だからお前とは双子じゃないっ!! 」
「!? 居るのか今!? ーーあちゃ〜、話したのか、あの人ーー、どっちだ? お前の母さんの方か、父さんの方かーーどっちが話したんだ? 」
ハキハキ話すけど、こいつ、大麻はゆるい。ゆるゆるした奴だ。ーー声聞くだけでちょっと皆んな緩む。
「ーーーーどっちも。あと、母さん達が、俺のとか言わなくて良いって。お前には権利があるって。」
俺は人間だけど、この大麻と色々あって婚約している。
歩く様になった頃にこいつの真っ白な花にキスしたから。実際は風に煽られた花が俺の顔に覆い被さって来たんだ。
こいつは花だけじゃなく、霊体も頭から肌まで真っ白。細くて病人みたいだった。
神の社に住んでいるから、神使とかやってる。神様が自分の神使にしたんだって。神様になるために修行と徳を積んでいる途中なんだけど、俺へのキスとか下心とかで修行も徳も積み直しなんだとか。下心は確かにいつもある奴だ。顔が良いから許してる。最初大嫌いだったけどーー、って、これ言うと泣く。
だって、気絶した俺の霊体を社に閉じ込めて、体奪ったりしたから。だから最初の印象が最悪だった。ーーでもないことを、神様から思い出さされた。
本当の最初は、社の縁側に座っていた、真っ白で綺麗な子供ーーそれが大麻だった。
俺に笑い掛けて、優しい言葉で話した。
『ここにいるのは、怖くない。だから大丈夫だ。』って。
神社の敷地内だから、皆んな神使みたいなもので、神気を帯びているし、清められていて清らかだって。
そうだ、清らかだった。だから、同一人物だと思わなかったんだ……。気づけなかった。
「ーー認めて貰えて嬉しいーーけどな!? 」
「どうした? 」
俺の婚約者が素っ頓狂になり掛けたから声を掛けた。けど、声は暗い低音のままーー俺のテンションは低い。もっと低くなりそうだ。車の荒いターン(切り返し)の時の音が聞こえた。
「いや、トラックがバッと来て、」
「またバッと走り去りそうだぞ? おい、気をつけろよ〜! そっち側!」
今じゃ真っ黒になった古柯の兄貴が注意した。家にいる古柯も俺みたいにキレ掛かっている。
古柯の兄貴が真っ黒なのは葉の一枚一枚を墨で丁寧に塗られているから。昔は煙草の灰とかで黒くなってた。神社で煙草とか吸うなよ。
丁度真裏に居る古柯も黒くなってきていて、最初俺を引っ捕まえて『お前、殺すぞ? 』って言って来て初対面がそれだったからかなりびっくりした。
それまで話したことも、顔を間近に合わせたことも無かった。『もう直ぐ喋るかもな〜』なんて、古柯の兄貴が嬉しそうに話していた後の声は、怖くなかったのに。普通の幼児の声だった。いつの間にしっかりちゃっかり男の子になったの? 可愛らしい声してたのに。って思ったから古柯も墨で塗って貰った。墨で塗られると、かなり清められるらしい。墨って清めの塩くらい邪を払えるのかもしれない。
「わっ!? ーー」
家の垣根の直ぐ後ろの樹が驚きの声を発した。
近い。あと、やっぱり婚約者のことも心配だった。
「大丈夫なのか? ーーちょっと行って来る。」
俺は席を立って外へ出ようとした。ーーちゃぶ台の対面にいたそいつと顔が合った。
「一緒にーーあ、いやーーその、……。」
「お前はこっちのーーうちにいる蓮見と居てくれ。何か嫌な予感がするーーから……。」
生き別れで再会した本当の双子ーーのはずの奴にお願いした。
「俺だな? 俺に言ったな? 俺にだよなーー? 俺は、『お前』じゃない! 名前がある! ーー呼んでくれ、夢だったんだ……。兄弟姉妹に名前呼ばれたりするの……。」
キレられた。何でだ? と思ったら直ぐに理由が出てきた。良かった、悩まないで済んだ。俺は悩むのが嫌いだ。
「ーーどういう事だ? 」
「複雑な事情か? 」
大麻と竹が声を揃えて言った。言葉は違うけど。
「ひとりっ子って聞いた。」
俺が答えると、樹々達が全員、『成る程』という顔をした。
「良いなっ! こういうのーー沢山居るのが! うちにもたくさん居たんだ。兄弟は居なくて! だからっ、お、お前が羨ましい! けど、俺は一緒だーーお前とーーだから! 認めて欲しい!! 」
あ、こいつも見えてるーー、本当に双子なんだな、俺たち……。
「ーーん。」
「認めてるよ、兄弟だって。ーーだから俺はあの親父ーークソが今後付き続けるかもしれない不貞親父に物言わなきゃ、気が収まらないっ!! 」
今度はこっちのーー人間の兄貴がキレた。上の兄。この兄は古柯の兄貴と双子。俺が家の竹と双子だから、じゃあ俺たちも双子になろうって。歳下を見守るところが似てる。泣きながら怒るところも……。
「えええ!!? 」
新しく来た俺の双子の兄弟は、予測出来るはずもない上の兄の突然のキレ方に驚いて尻餅を付いた。
「ーーそうだな。兄貴の言う通りかもーーな……。それかーーや、いや、やっぱいい。」
下の兄は何か言い掛けてやめた。いつもこんな感じだ。
この時、二人の兄達は父親が別の母親とこさえた子供を連れて来たと思ったんだ。そして、もしくは俺が自分達とは違う両親かもしれないし、そっちの方が父親を責めることも怒ることも恨むこともしないで済むって気持ちが抑えられないけど、そんな自分も、俺と兄弟じゃないことも許せないって。
現実は優しくて簡単で単純で、だけどたったひとりを傷つけた。
双子だって紹介されたその俺の兄弟は、父親の弟の人とその人の奥さんーー勿論母さんじゃない人との子供で、産まれた日は一緒、ほぼ同じだったんだ。厳密には一日違いだったかもしれないけど、その日、病院が兎に角忙しくて、てんやわんやで、周りもごたごたしていたらしい。
そんな事ーー時間見ない事なんてあるのか? って親戚の人が聞いたら、看護師さん達が二人を双子にする為に頑張ったことを話して聞かせた。お医者さん達も。だから、誰も時間を見なかった。見ないでくれていた。
2024.6.10




