3-13. 朝食
弁当チケットは好評だった。
もともとのターゲットである常連客はもちろん、ヒナが新規客層にしようと目論んだ子どもたちも、チケットを使って弁当を食べに来るようになった。
当初は、学校が休みの日の昼ごはんにと考えていたのだが、いざ始めてみると、毎朝登校前に来る子どもが多かった。
マリーによると、市場で働く親の出勤時間帯は日の出の前後だが、学校が始まるのはもっと後らしい。
すると子どもたちは、親の出勤に合わせ夜明け前にたたき起こされるか、親が出かけた後に冷たくなった朝食をとるかの二択になる。
現代日本ならレンチンを指示すれば済む話だが、異世界に電子レンジはないし、子どもに火を使わせるのは危険すぎる。
そこへ、タッパー亭の弁当チケットが、第三の選択肢として浮上した。店で友だちと一緒に朝食をとり、温かいお茶を飲んでから登校できるのだ。
なるほど、親としては、忙しい朝に子どもを急かす時間を節約できるし、家でひとり食べさせるより安心だ。チケットなら、朝食用にと渡したカネが、お菓子やおもちゃに変わってしまう心配もない。
例の男の子も、毎朝、ランドセルを背負って店へ来るようになった。
ヒナにチケットを渡して、日替わり弁当を受け取る。包装材を割り、一緒に来た同い年くらいの女の子に、片割れを差し出した。
大人用立ち食いテーブルでは高すぎるため、子ども用に低めのを新たに用意していた。先に来ていたヒナくらいの歳の子が、「おはよう」と声を掛け、二人分の穀物茶を用意する。
食べ終わった子たちも、お喋りしながら二人を待ち、全員一緒に学校へ向かった。
集団登校グループには、もともと面識のなかった子どもも含まれているようだったが、何度も店で顔を合わせるうちに自然と、みんな揃って登校するという関係が構築されたようだった。
「いってらっしゃい」
ヒナはそんな彼らの後ろ姿に声を掛け、ふたたびレジの仕事に戻った。
とはいえ、子どもたちの登校後に来る客は少ない。そろそろ朝食にしようと、レジをヒナに任せ、裏の厨房へ向かう。
朝食用のおにぎりとスープを従業員休憩用テーブルに置くと、ヒナがやって来て椅子に座った。
「小さい子ども、おにぎり一個で良い。だから、小弁当つくるの、どう?」
「ああ、いいね。チケットの版木と小さいおにぎり木型、ルカに頼もうか」
「ううん。インクの色変えて、小弁当チケットにするの。300円で、おにぎり一個」
と続けて、スープをひと口飲んだ。ひとりで店番をしている間、製造コストを増やさずに、少食な客の需要に応える方法を考えていたのだろう。
「………………」
ルカは木工職人として成長し、よそでの仕事も複数請け負うようになっていた。以前のように、俺たちがあれこれ仕事をひねり出して回す必要は、もうないのだ。
おにぎりをかじりながら、では、ヒナはこの先どうするつもりなのだろうかと考えた。
父親が迎えに来るまでずっと、タッパー亭のレジにいるつもりなのか。
それは本当に、ヒナのためになるのだろうか?




