3-10. オムレツ
やがて、マリーとヒナが買い出しから戻ってきた。ヒナはダイニングテーブルにいる俺を見とめるや、駆け寄ってきて咎める。
「ばか。なぜ座ってる? 病気の人、寝るべき」
「いや……うん。ちょっと、考えごとしてて」
「病気の時に? はっ。良い考え」
「ヒナ、そんな言いかたしないの。……いま、支度するから。ちょっと待っててね」
後からやって来たマリーが、手提げ袋をダイニングテーブルに置いた。中から出てきたのは、ベーコンの塊、卵、バター、チーズにホウレン草、バゲット。
「お茶淹れようか?」
「トーヤ、座ってる。ヒナがやる」
ヒナは食器棚からカップを出してきて、テーブルに並べた。適当にすくった茶葉をティーポットに入れ、上からお湯を注ぐ。
「ヒナは朝ごはん、事務所で食べてきたの?」
「うん。親方、パン焼いた。ヒナ、ジャム塗った」
「ヒナも、オムレツ食べるよね?」
マリーが振り向いた。ヒナの表情がぱっと輝く。
「食べる! でも、ホウレン草は入れないで」
「ダメ」
「……マリー、意地悪」
「意地悪じゃない。好き嫌いをしていると、トーヤみたいになっちゃうんだよ?」
ヒナが黙った。栄養不足で倒れた実例が目の前にいては、彼ほどの口達者でも言い返せないようだった。
ふたりでヒナ特製ハーブティー(薄味)を飲んでいる間に、マリーはホウレン草を下茹でし、ベーコンと共に炒めた。
卵を豪勢に使い、バターを溶かしたフライパンに注いでかき混ぜ、具材とチーズを載せて包み込むと、大皿を俺の前に置いた。
「ヒナは、どれくらい食べる?」
「……それは、トーヤひとりの分。私とヒナのは次に作るから、ちょっと待っててね」
呆れたように言って、もう一度卵を溶き、残りの具材とチーズを包んだ。
今度は半分ずつ、ヒナが用意した皿に取り分ける。バゲットをスライスして軽く両面を焼き、大皿に移して、テーブル中央に置いた。
「さて。それじゃ、食べようか」
「良い匂い」
ヒナはスプーンで、オムレツをひと口ぶん取った。断面のホウレン草を見て渋い顔をしたが、結局は、バターの香りの誘惑に負けたようだった。
ぱくりと食べて、目を見開く。
「! おいしい!」
「でしょう? トーヤも食べて。温かいうちに」
「うん」
割ったオムレツの断面から、チーズがとろりと溶け出した。
見るからにうまそうだったし、当たり前にうまかった。焼いたバゲットに載せても絶品だった。結構な量だったが、ペロリと完食してしまった。
「あの、さっき、考えてたんだけど」
食後に、煎じ薬を飲みながら切りだした。マリーはティーカップを置いて、「なに?」と尋ねる。
「ウチのメニュー、見直したほうが、良いんじゃないかと思って」
「「……メニュー?」」
ふたりの声が重なった。それから、互いに顔を見合わせた。




