3-05. 不安
数日後の昼すぎ、ルカが包装材の納品に来た。先に、よそでの仕事を納品してきたという。
「よかったね。他での仕事も、取れるようになったんだ」
「おかげさんで。お嬢さんとこの仕事をいくつも請け負ってんで、頼んでみっかって、よそでも言ってくだせえまして」
ルカはそう答えてはにかんだ。
この後の予定は特にないというので、新しい仕事を相談するついでに、まかないを食べていかないかと誘った。ちょうど、残った弁当が四つあるのだった。
「あら、いらっしゃい!」
マリーがぱっと表情をほころばせた。俺は深皿に野菜スープをよそい、ひとつ空いた席に置く。
「どうも」
ふたりにも挨拶して、彼は席についた。
ルカが店へ納品に来るたび、お茶やまかないの席に招いていたので、もう慣れたものだった。いつの間にか、マリーに話しかけられても、フリーズしなくなっている。
「ルカ。ごはん、ちゃんと食べてる? 暖かくして眠ってる?」
「へえ」
「よかった。ご実家も、大変なのかもしれないけど……無理しちゃダメだよ。あなたが倒れたら、ご実家のみなさんだって、困るんだからね」
彼は無言で頷いて、湯気の立ちのぼるスープをひと匙すくい、口元へ運んだ。弁当の包みを手に取り、半分に割って、中のおにぎりをひと口食べた。
「おいしい?」
「うめえっていうか……夢みてえです」
しみじみと言って、ルカはまたひと口、おにぎりをかじった。
◇ ◆ ◇
食事を終えると、さっそく、マリーがチケットの図案を出してきた。凝り性の彼女が気合いを入れて作っただけのことはあり、かなり込みいった模様ができあがっている。
さらにヒナいわく、「同じのを五個、縦に並べて」とのことだった。
「あと、チケットにする薄板も頼みたい。手で五枚に割れるように、ケガキして」
「……あれ。チケットって、木板なの?」
「うん。紙は、市場で買える。紙みたいな薄板は、売ってない」
そこまで偽造対策に力を入れる必要はない気もするが、ヒナなりに、ルカの仕事を増やしてあげようとしているのかもしれない。素直じゃないからな。
「これは……」
しかし、当のルカは明らかに怯んでいた。
まあ、だろうな。こんなに細かくて複雑な模様が彫れるなら、飾り彫りの仕事を取れるはずだ。
「その、薄板の仕事は、やりますが……版木の仕事は、組合に依頼しなさったらどうです?」
「ルカ、できない?」
「うーん……。ここまで細けえのは、彫った試しがありませんで」
自信なさげなルカに、マリーは優しく微笑みかける。
「少しくらい違ってても、大丈夫。もちろん、熟練の職人さんの整った彫りは素敵だけど、あなたが一生懸命彫ったほうが、タッパー亭の雰囲気に合うと思うの」
「……良いんで?」
ルカがちらっとヒナを見ると、彼も頷いた。
「タッパー亭、マリーの店。マリーが良いなら、良いよ」
「でっ……では。カネは、後払いで」
ルカは、ぼそぼそと答えた。
手渡された図案を丁寧に折りたたんで懐に仕舞い、不安そうに、とぼとぼと帰っていった。




