↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
84/90

3-05. 不安

 数日後の昼すぎ、ルカが包装材の納品に来た。先に、よそでの仕事を納品してきたという。


「よかったね。他での仕事も、取れるようになったんだ」


「おかげさんで。お嬢さんとこの仕事をいくつも請け負ってんで、頼んでみっかって、よそでも言ってくだせえまして」


 ルカはそう答えてはにかんだ。


 この後の予定は特にないというので、新しい仕事を相談するついでに、まかないを食べていかないかと誘った。ちょうど、残った弁当が四つあるのだった。


「あら、いらっしゃい!」


 マリーがぱっと表情をほころばせた。俺は深皿に野菜スープをよそい、ひとつ空いた席に置く。


「どうも」


 ふたりにも挨拶して、彼は席についた。


 ルカが店へ納品に来るたび、お茶やまかないの席に招いていたので、もう慣れたものだった。いつの間にか、マリーに話しかけられても、フリーズしなくなっている。


「ルカ。ごはん、ちゃんと食べてる? 暖かくして眠ってる?」


「へえ」


「よかった。ご実家も、大変なのかもしれないけど……無理しちゃダメだよ。あなたが倒れたら、ご実家のみなさんだって、困るんだからね」


 彼は無言で頷いて、湯気の立ちのぼるスープをひと匙すくい、口元へ運んだ。弁当の包みを手に取り、半分に割って、中のおにぎりをひと口食べた。


「おいしい?」

「うめえっていうか……夢みてえです」


 しみじみと言って、ルカはまたひと口、おにぎりをかじった。



   ◇  ◆  ◇



 食事を終えると、さっそく、マリーがチケットの図案を出してきた。凝り性の彼女が気合いを入れて作っただけのことはあり、かなり込みいった模様ができあがっている。


 さらにヒナいわく、「同じのを五個、縦に並べて」とのことだった。


「あと、チケットにする薄板も頼みたい。手で五枚に割れるように、ケガキして」


「……あれ。チケットって、木板なの?」


「うん。紙は、市場で買える。紙みたいな薄板は、売ってない」


 そこまで偽造対策に力を入れる必要はない気もするが、ヒナなりに、ルカの仕事を増やしてあげようとしているのかもしれない。素直じゃないからな。


「これは……」


 しかし、当のルカは明らかに怯んでいた。


 まあ、だろうな。こんなに細かくて複雑な模様が彫れるなら、飾り彫りの仕事を取れるはずだ。


「その、薄板の仕事は、やりますが……版木の仕事は、組合に依頼しなさったらどうです?」


「ルカ、できない?」


「うーん……。ここまで細けえのは、彫った試しがありませんで」


 自信なさげなルカに、マリーは優しく微笑みかける。


「少しくらい違ってても、大丈夫。もちろん、熟練の職人さんの整った彫りは素敵だけど、あなたが一生懸命彫ったほうが、タッパー亭の雰囲気に合うと思うの」


「……良いんで?」


 ルカがちらっとヒナを見ると、彼も頷いた。


「タッパー亭、マリーの店。マリーが良いなら、良いよ」

「でっ……では。カネは、後払いで」


 ルカは、ぼそぼそと答えた。


 手渡された図案を丁寧に折りたたんで懐に仕舞い、不安そうに、とぼとぼと帰っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。