3-01. 新生活
タッパー亭の営業は順調だった。
もともとの想定客層だった小規模店主たちはもちろん、若おかみネットワークのおかげか大口客もぼちぼち増えはじめていたし、ハチミツおにぎりにも、いつの間にか熱心な固定客がついていた。
マリーは後任者に組合のまかない仕事をバトンタッチしたため、朝にヒナと店へやって来て、夕方まで一緒に過ごすようになっていた。
「……」
腕時計の示す時刻は、正午過ぎ。
ちらとカウンター横の机を見やると、朝に満載した日替わり弁当は、残り三個になっていた。わざわざ市場に売りに行くほどでもないから、昼のまかないになるだろう。
「トーヤ。ヒナ、先に行ってる。シャッター閉めて、あまりの弁当持ってきて」
レジ締め作業を終えたヒナが、こちらを振り向いた。
ヒナはマリーに習った現地語の読み書きをすっかりマスターしたらしく、いつの間にか、事務作業までこなすようになっていた。
「うん」
頷くと、ヒナはのれんをくぐって裏に戻り、何か別の事務作業をしていたマリーに話しかけた。ふたりはそのまま二階へ向かい、俺ひとりが残される。
首を回して、通りのほうを見た。
さっきから、気になっていたことがあった。見覚えのある男の子が道の向こうで座り込み、じっとこちらを見つめているのだ。
大口の常連客である、若おかみの息子だった。
あの後も何度か彼女に連れられて来ていたが、つい先日、昼の注文に来た日には居なかったので、どうしたのかと気になっていたのだ。
「おいで」
声を掛けた。男の子は周囲を見回して立ち上がり、道を渡ってやって来ると、カウンター越しにこちらを見上げる。
「どうしたの?」
「おなかすいた」
たどたどしく言った。初めて声を聞いたな。
しかしまあ、そうだろうとは思っていた。飲食店の前に子どもがひとり座り込んでいる理由など、他に思いつかない。
おにぎり弁当をひとつ取りあげ、カウンター横の扉から表へ出て、彼の前にしゃがんだ。
包装を割って、片割れを差しだす。
「食べな」
「……おかね、ない」
「いいよ。もう店閉めるし、あとは捨てるだけだから」
と答えた。嘘だったが、よどみなく言えた。
「ほんと! おじさん、ありがとう!」
男の子はぱっと表情を輝かせて、おにぎりを両手で受け取り、大きくかぶりつく。
「ゆっくり食べな」
窘めたが、彼は夢中で食べつづけた。
俺は、初めて出会った日のヒナを思い出し、微笑ましく見守った。すぐに完食したので、もうひとつのおにぎりも手渡す。
サービスの穀物茶はすでに下げていたが、まだ少し残っていたはずだ。厨房へ取りに戻ろうと立ち上がり、そこで初めて気づいた。
「トーヤ。何してる?」
店の前に、ヒナが仁王立ちしていた。




